仲間の決意⑥~真央さんのうそ~

「真央さん、とりあえず頭を上げてください」


 真央さんが頭を上げてくれないと話ができないので、真央さんに頭を上げてもらう。

 真央さんはゆっくり顔を上げて、気まずそうに俺のことを見ようとしない。

 俺はアイスコーヒーのことを思い出して、一口飲んでから真央さんへ質問をする。


「じゃあ、今までなにをやっていたんですか?」


 俺はアイスコーヒーを飲みながら真央さんが答えてくれるのを待っても、一向に答えてくれない。

 真央さんがそのうち下を向いてしまうので、俺は一息ついて真央さんへ言葉をかける。


「真央さん、俺は怒っていないので正直に話していただけませんか?」


 実際、真央さんが狩りへ行けないと言ってくれたので、俺は自分の特訓に集中できた。


 この期間がとても充実していたので、俺が真央さんを怒るとしたらうそをつかれたことくらいだ。

 ただ、俺は真央さんが意味のないうそをつくことがないと信用しているので、理由を聞きたい。


 真央さんは疑うように俺へ聞いてきた。


「本当に怒ってない?」

「ええ、本当の理由を教えてほしいです」

「わかったよ……」


 真央さんは残っていたアイスコーヒーを一気に全部飲んで、その勢いのまま話を始めた。


「お前に覚悟を決めるように言われたから、モンスターと戦う練習をしていたんだよ……」

「そんなことをしていたんですか?」

「ああ、だから学校でモンスターと戦う時の動き方を教えてもらっていたんだ」

「なるほど……解体じゃなくて、戦い方を教えてもらっていたんですね」


 俺は真央さんの言葉に納得しながらうなずいても、なぜか真央さんはまた下を向いてしまう。


「なんで真央さんは悲しそうな顔をしているんですか?」

「……」


 真央さんは下を向いたまま答えてくれず、時間だけが過ぎてゆく。

 俺がアイスコーヒーを飲み終わった時、真央さんが自分を責めるように話し始めた。


「何回も練習に行ってもさ、モンスターを相手にしたらまったくできないんだよ……」

「なにかあったんですか?」

「去年冒険者学校の遠征であるフィールドに行ったんだけど、その時に強いモンスターがいきなり出てきて、同級生が目の前で殺されたんだ……」


 真央さんはその時のことが忘れられないんだと言いながら、肩を震わせていた。

 しかし、俺は真央さんに助けてもらったことがあるので、そのことを聞いてみる。


「でも、真央さんポイズンスネイクから俺を助けてくれましたよ。それにバフォメットへも攻撃していましたよね?」

「あの時はお前を守るために必死だったから……」


 俺は真央さんがまったく戦えない訳ではないとわかり安心した。

 うつむいている真央さんへ俺はある提案をする。


「それなら練習をしましょう」

「練習ならたくさんした……」


 首を振って悲しそうな顔をする真央さんへ俺は言葉を続けた。


「とりあえず、今日の午後は時間ありますか?」

「……ある」

「なら、だまされたと思って、俺とモンスターと戦う練習に付き合ってください」

「いかないとだめ?」

「だめです」


 涙目で訴えるような真央さんの目を気にせず、俺は微笑んで答えた。


 俺は朝から動きっぱなしでお腹がすいてしまったので、サンドイッチを注文する。

 俺が食べている時に涙目の真央さんが食べたいと言ってきたので、分けてあげた。

 サンドイッチを食べ終わり、真央さんへお店を出るようにうながす。


「それじゃあ、移動しましょうか」

「どこに?」

「とりあえず、区役所に行きましょう」


 真央さんが支払いをしてくれて、お店を出た。

 区役所へ歩いて向かおうとしたところ、真央さんが声をかけてきた。


「一也、車で移動しよう」

「真央さん、車なんて持っていたんですか?」

「……コカトリスの時にもらったお金で買ったんだ」


 真央さんに少し恥ずかしそうに言いながら、俺を駐車場まで案内してくれる。

 ある車の前に立った真央さんは控えめに車を紹介してくれた。


「これがそうだよ……」


 真央さんがこれと言った車は、大きくて傷1つない黒いワンボックスの車だった。


「大きくてかっこいいですね!」

「そうだろ。この前、納車されたばかりなんだよ」


 真央さんは車が褒められて嬉しいのか、笑顔になり俺へ車の良いところを話してくれた。

 この車は荷物がたくさん詰め込めるので、狩りへ行く時に便利だという。

 俺がそんなに持っていく荷物があるのか聞いたところ、俺は狩りに行く時の荷物が少なすぎるらしい。


 少しいつもの調子に戻った真央さんに、助手席へ乗るように言われる。

 俺にはハンドルを持った真央さんが少し緊張しているような気がしたので、聞いてみることにした。


「真央さん、なんで緊張しているんですか?」

「人を乗せるのが初めてだからだよ」

「安全運転でお願いします」

「わかってる!」


 真央さんは深呼吸をしてからハンドルを握り締める。

 真央さんの様子を見て、俺まで緊張してしまう。


 車がゆっくりと発進して、駐車場を出て道路を走り始めた。

 余裕が出てきたのか、真央さんが運転をしながら俺へ話しかける。


「区役所に行ってどうするんだ?」

「もう1人練習する人がいるので、合流します」

「だれ?」


 真央さんが急に不機嫌になり、冷たく聞いてきた。

 俺は急にどうしたのか気にしながら、真央さんが知っていると思って名前を伝えた。


「谷屋花蓮さんです」

「え!?」

「真央さん、前を見てください!」


 真央さんが名前を聞いた瞬間に俺を見たので、危ないと思って注意した。

 車が信号で止まり、真央さんがうろたえながら俺へ聞いてくる。


「谷屋花蓮って、先輩の妹さんだろ?」

「そうですよ」

「一緒に練習するのか?」

「ええ、ちょうどいいと思って」

「どういうことだよ……」


 信号が青になったので、真央さんは運転に集中してもらう。


 区役所に向かっている間に、昨日の花蓮さんの出来事を真央さんに聞いてもらった。

 途中から俺の話を聞く真央さんが完全に引いてしまっている。


 話を聞き終わり、区役所の駐車場に着いた時に真央さんが静かに俺へアドバイスをしてきた。


「一也、お前は妹さんから出会い頭に刺されても文句は言えない」

「そんなことしていませんよ……」


 俺は真央さんから意味の分からないことを言われてから車を降りて、花蓮さんを迎えに行く。

 車で移動できるとは思わなかったので、だいぶ早く着いてしまった。


 少し待つだろうと思っていたところ、区役所の入り口付近にもう花蓮さんは着いている。

 俺は花蓮さんへ向かって手を振りながら、声をかける。


「花蓮さん!」


 俺の声に気付いてくれた花蓮さんは、なぜか少し怒りながら俺に近づいてきた。

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