仲間の決意④~家族の理解~
リビングでは、いつもと同じように父親と母親が椅子に座って俺を待っていた。
俺は最近怒られるようなことをしたのかと考えながら椅子に座り、両親へ顔を向ける。
しかし、俺が椅子に座っても、誰も言葉を発しない。
(……なんだこの空気は)
父親は俺をあんなに慌てて呼びに来たのに、まったく話を始めようとしない。
父親の横にいる母親を見ても、父親が話し始めるのを待っているように感じる。
俺はあまり時間をかけたくないため、父親へ声をかけることにした。
「お父さん、俺に何か話があったんじゃないの?」
「あ、ああ。そうなんだが……」
父親はそう言ったまま黙ってしまい、テレビから流れるニュースが耳に届く。
そんな中、あるニュースが流れた時に父親が急に顔を上げた。
「テレビを見てくれ!」
「?」
俺は急にテレビを見るように言われて、テレビに顔を向ける。
そこでは、見たことがあるような人が話している様子が流れていた。
(ギルド長と佐々木さん?)
俺にはテレビの中にいる人物がそう見えてしまい、テレビを注意深く見る。
テレビの中の人が話し始めて、声を聞いたらギルド長であることを確信した。
(何をしているんだろう)
俺がそう考えている時、父親が急いでテレビまで向かっている。
「一也! このニュースを聞いてくれ!」
俺はニュースを見るように言われたので、テレビを眺め始めた。
そこでは、昼間に真央さんから説明された内容がニュースになっている。
ギルド長は最後まで俺のことを言わなかった。
そのニュースが終わり、アナウンサーやコメンテーターの人が今のニュースについて話している。
コメンテーターの男性は、映像が終わった瞬間に信じられないと言っていた。
その様子をみた女性アナウンサーが思わずその真意を聞くために声をかけている。
テレビの横にいた父親から、確信を持ったようにはっきりと俺へ向かって声をかけてきた。
「一也、このモザイクがかかった部分にはお前がいるんだよな」
俺が答えずにいると、父親はこちらへ戻ってきて椅子に座る。
俺は言うべきか悩んでいる時、母親が不安そうに俺を見た。
「一也はあんな危ないことしてないわよね?」
母親に心配されながら聞かれてしまう。
俺はこれからのことを考えて、家族には正直に言うべきだと思った。
「あれは俺だよ」
それを聞いた父親は飛び出しそうなくらい目を広げて驚く。
しかし、父親の横にいる母親は、ああやっぱりとつぶやいた。
母親の言葉を聞いて、父親は何か知っているのかと聞いている。
少し待ってと言いながら母親はゆっくりと立ち上がり、寝室へ向かっていった。
母親がいなくなった後、父親が俺へ恐る恐る聞いてくる。
「お前、あんな羊の化け物が向かってきて怖くなかったのか?」
「んー……」
バフォメットと戦うことが怖かったと感じたことはなかったけれど、負ける可能性の方が高いとは思っていたためどう答えるものか迷ってしまう。
良い言葉が思い浮かばなかったため、父親へ感じていたことを素直に話す。
「楽しめると思ったよ」
「は!?」
俺の気持ちを聞いた父親は大きな声を出し、眉をひそめて俺を見つめる。
しかし、俺はバフォメットと戦う時、確かに楽しんでいた。
(PTで戦うのがあんなに楽しいとは思わなかった)
今まで1人で戦うことしかしてこなかったため、あんな風に連携できるのならPTで戦うのも悪くないと思い始めていた。
(俺のPTイメージは、メンバーが個々にモンスターを倒すものだと考えていたからな……)
目の前の父親が神妙な面持ちで固まってしまい、俺はどうしたものかと考え始める。
その時、母親が帰ってきて、テーブルへ紙のようなものを置く。
俺は置かれた紙を見て、ゴミ箱に捨てたはずのスキルシートが置かれていた。
「これ、一也のスキルシートでしょ?」
母親は座りながら、俺へ聞いてくる。
父親が確認してテーブルに置かれたスキルシートを見て、スキルの多さに絶句しているようだった。
「それに、一也、服もほとんど毎日替えているでしょ」
「わかるの?」
「わからないわけないでしょ。それに、あの部屋に置いてある大量の武器はなに?」
母親は今まで疑問に思っていたことをすべて聞いてきているようだった。
母親の言葉に、スキルシートを見て固まっていた父親が母親へ向かって口を開く。
「そんなに武器があるのか?」
「この子に聞いて」
俺は両親に見つめられたので、すべてを説明することにした。
グリーンドラゴンを戦ったことを始めとして、富士山を走ったこと、最近行なっている訓練のことを話す。
すべてを聞いていた両親は俺の話を最後まで無言で聞いてくれた。
「これが今までやってきたことだよ」
父親がスキルシートを手に持ち、これは本物なのかと小さい声で言っている。
母親は話の途中から涙目になっており、話が終わった時に俺に近寄って抱きしめてきた。
「あなたが何をしても、もう何も言わないから必ず生きて帰ってきて……」
「わかった……約束する」
「お願い……」
母親が俺から離れて、椅子へ戻った。
その様子を見ていた父親が、目をつぶって深呼吸をした後に俺を見つめる。
「一也、父さんにできることはあるか?」
俺は父親の言葉に、何を言うべきか考えた。
(バフォメットを倒してこの騒ぎなら、もっと強いモンスターを倒したらどうなるのかわからない……)
俺はやがて富士山を登頂する。
その時には、今以上に世間が反応するかもしれない。
父親の目をしっかりと見返して、俺は願うように父親へ伝える。
「俺のことでなにを聞かれても、俺ならできて当然って答えるようにしてくれる?」
「どういうことだ?」
「今はまだ俺ってことが隠されていて知られてないけど、いずればれると思う。その時に、お父さんは必ず俺のことを聞かれると思うから、そう答えてほしい」
父親は考えるように腕を組んで、ため息をついた後に笑顔で返事をしてくれた。
「わかった。そうする」
「ありがとう」
話が終わったと思い、俺は椅子から立ち上がり両親を見る。
「これからも迷惑をかけると思うけど、俺は必ず生きて帰ってくるから」
両親は優しくうなずいてくれて、俺は深く頭を下げた。
「心配させてごめんなさい」
俺は両親を心配させたことを謝る。
顔を上げて、母親に明日の出発時間を伝えた。
「明日は朝の3時に家を出ようと思っているから、よろしくね」
母親はあきれるような顔をした後に、わかったと返事をしてくれた。
両親との話が終わり、部屋へ戻ってからスマホを見ると花蓮さんからメッセージが来ている。
【明日は何時にどこへいればいいの?】
俺はスマホを持ちながら返信の内容を考えて、操作を始めた。
【明日は武器だけを持って、13時に区役所前でお願いします】
送信ボタンをタップしてから、スマホをベッドへ放り投げる。
荷物から今日使ったメイスを取り出して、綺麗にするために拭きはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます