仲間の決意③~花蓮の実力~
花蓮さんは鞘を投げ捨てて、俺へ剣を振り上げて迫ってくる。
俺は花蓮さんが振り下ろしてくる太刀筋を予測して、右足を一歩引く。
顔の前を花蓮さんの剣が通り、最小限の動きで回避することができた。
剣を振り下ろした花蓮さんの体を軽く押して、花蓮さんを俺から突き放して距離を取らせる。
俺に押された花蓮さんが信じられないようなものを見る目で俺を見てきた。
花蓮さんが止まるので、俺は軽く笑い花蓮さんへ声をかける。
「もう終わりですか?」
花蓮さんは何も言わずに、顔をまっ赤にして俺へ向かってきた。
何度も全力で振るわれている花蓮さんの剣は、1度も俺に当たることはない。
「なんで当たんないのよ!!」
剣を振りながら、花蓮さんは苛立つように叫んでいる。
(花蓮さんの攻撃はあまりにも遅い)
花蓮さんは必死で剣を振るっていても、俺にはまったく脅威に感じられない。
まともに当たれば俺を切るくらいはできるだろうが、遅すぎてこの攻撃が俺に当たるとは全く思えない。
(攻撃速度向上を取得できていないな)
俺は冷静に花蓮さんの攻撃を見切り、花蓮さんの実力を考察する余裕さえあった。
俺がまったく慌てていないのが気に入らないのか、花蓮さんはさらに敵意をむき出しにして俺に向かって剣を振るう。
花蓮さんのポニーテールが悲しく揺れて、俺へ剣が当たらない怒りを顔に出している。
これ以上やっても花蓮さんが怪我をしてしまうと思い、俺は剣を避けながら花蓮さんへ言葉をかけた。
「もう、終わりましょうか」
「まだよ!」
花蓮さんが剣を止めてくれないので、俺は強引に止めることにした。
剣を振り下ろした花蓮さんの手を取り、捻って剣を取り上げる。
奪った剣を花蓮さんの顔の前に突き付けた。
「俺の勝ちです」
剣を突き付けられた花蓮さんは、腰が抜けたようにその場へ崩れ落ちる。
俺は花蓮さんが投げ捨てた鞘を拾ってきて、剣を納めて花蓮さんへ渡そうとした。
「花蓮さん、どうぞ」
花蓮さんはうつむいたままこちらを見ない。
俺は剣を差し出したまま首をかしげてしまい、花蓮さんを見ていたら地面へ何かが落ちていた。
その地面には水滴が落ちたようなしみがある。
何かと思って花蓮さんを見たら、体を小刻みに揺らしていた。
(もしかして、泣いているのか……)
俺はしゃがんで、花蓮さんへ持っていたタオルを差し出す。
「これを使ってください」
花蓮さんは無言で首を横に振って、俺の手を振り払う。
その後、涙を流しながら俺を向いた花蓮さんが震える声を絞り出してきた。
「ねえ、私は弱いのかな……」
「今のままだと弱いですね」
俺がはっきりと花蓮さん伝えると、せっかく起こしてくれた顔がもう1度下を向いてしまった。
俺は花蓮さんのそばに剣を置いてから立ち上がる。
「俺が花蓮さんなら、泣く前に剣を振りますね」
「剣を振っても無駄って言ったのはあなたでしょ!!」
俺の言葉に花蓮さんは涙目で俺をにらみながら、絹を裂くような声を上げた。
俺は鉄のメイスを取り出して、花蓮さんの前に足を進める。
花蓮さんは俺の様子をにらみながら見ていた。
「花蓮さん、今から俺が行うことを見ていてください」
花蓮さんは返事をすることなく俺を見てくれているので、俺はメイスで地面へバッシュを行う。
衝撃とともに、メイスの先端が完全に地面に埋まってしまった。
花蓮さんもメイスと地面が当たった衝撃を感じたのか、少し悲鳴を上げる。
「武器は空気や地面を相手に振るうものではありません」
俺はメイスを地面から引き抜きながら花蓮さんに聞こえるように言葉を放つ。
花蓮さんは俺が何を言っているのかわからないのか、無言で俺を見つめていた。
「モンスターを相手に振るえばすぐに強くなりますよ」
「無理よ……」
花蓮さんがやるまえからできないと言いながら下を向くので、俺は花蓮さんを叱る。
「やるまえから無理なんて言葉を使うな!」
「なら、お姉ちゃんよりも強くなれるの!?」
俺の言葉にすぐ反応した花蓮さんは手を握り締めて俺を向く。
花蓮さんの目には力が戻り、俺は笑顔で花蓮さんの言葉に答える。
「とりあえず、明日の午後に時間を空けておいてください」
「わかったわ……明日が休日でよかった」
「そうなんですか。ならよかったです」
「あなたとは違って私には学校があるから……」
花蓮さんはそう言い、剣を持って立ち上がる。
そのまま俺を赤い目で見つめてきた。
俺はなんだろうと見つめ返すと、花蓮さんがスマホを取り出す。
「連絡先、教えてくれる?」
「え!?」
「明日会うんでしょ? 連絡したいから教えて」
「わかりました!」
俺は慌ててスマホを取り出し、花蓮さんと連絡先の交換をした。
花蓮さんは俺の様子を不思議そうに見ていた。
その後、一緒に帰ろうと提案したが、花蓮さんに今日は1人で帰りたいと言われてしまう。
そのまま花蓮さんが帰ってしまったため、俺は丸太を購入するために受付へ向かった。
丸太を購入する時に、受付のおじさんが久しぶりと声をかけてくれる。
軽くあいさつを交わして、丸太を購入した。
俺は丸太を設置して、両手に持ったメイスで彫刻を作り始める。
なかなか納得のいく彫刻ができなかったため、また閉館までいてしまった。
修練場から家に帰り、玄関を開けた途端、父親がリビングから俺を迎えに来た。
あまりの勢いに父親は俺の目の前でこけそうになる。
「大丈夫?」
「心配ない……それよりも、話を聞きたいことがあるから荷物を置いてリビングにきなさい」
「? わかったよ」
俺は父親に言われた通り、部屋に荷物を置いてリビングへ向かった。
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