仲間の決意②~ギルドの異変~

 帰還場から見えた光景は、ギルドの建物を大勢の人が囲んで何かを叫んでいる。

 多くの声が重なって、叫んでいる内容が聞き取れない。


 俺はなんとかギルドの中へ入って、帰還石を使用した手続きを行わなければいけない。

 素材預り所には人がいないように見えたので、そこからギルドの中へ入らせてもらうために歩き始める。

 預り所にはいつものおじさんが座っていた。


 俺はあいさつをして、おじさんへ事情を説明する。

 おじさんはこんなときに災難だなと言いながら、ギルドへ入るための扉を開けてくれた。

 お礼を言って、いつもとは違う道を通って受付へ向かう。


 職員用の廊下を歩いて受付へ向かっている時に、ギルドの中にも人があふれるように入っているのが見える。


(なんて人の数だ……)


 俺がどうするべきか悩んでいる時に、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「もしかして、佐藤くん?」


 後ろから声が聞こえたので、振り向くと制服を着た清水さんが駈け寄ってきている。

 清水さんは慌てて俺のところに来てくれて、肩を上下に揺らしながら息をしていた。


「こんにちは、清水さん。なにがあったんですか?」

「佐藤くん、今日は来ちゃだめだよ!」

「?」

 

 俺は清水さんの言葉に首をかしげてしまう。


(今日はなにか特別なことでもあったのかな?)


 清水さんは俺の様子を見て、慌ててこちらへ来るようにと手を引いてくる。

 俺は清水さんに引っ張られて、休憩室と書かれた部屋の前まで連れてこられた。


 清水さんが部屋の中を確認してから、中へ入るように言われる。

 中には誰もおらず、清水さんは部屋に入って鍵をかけた。


「なにを……」

「しっ!」


 清水さんは俺の口を押さえて、小声で話そうと提案してくる。


 俺はいつも笑顔の清水さんしか見たことが無い。

 そのため、目の前にいる清水さんの真剣な表情を見て、今起こっていることがただ事ではないことを察した。


 清水さんは小さな声で俺へ聞いてくる。


「佐藤くん、今日はどうしたの?」

「帰還石を使ったので、手続きをしようと思って」

「もしかして、今日も樹海へ行っていたの?」

「はい」

「まおちゃんは?」

「冒険者学校に行っているようです」


 俺の話を聞いて、清水さんがまおちゃんとつぶやいた後、俺に帰還石を出すように言ってきた。

 帰還石を受け取った清水さんは、俺へここで少し待っているようにと言う。


 俺が返事をすると、清水さんが急いで部屋から出てどこかへ行ってしまった。


(暇だ……)


 時間を見るためにスマホを見たら、真央さんから何回も電話がかかってきていた。

 俺は普段全然連絡してこない真央さんからこんなに連絡が来ていることに驚く。


(真央さんに何かあったのか!?)


 俺が真央さんへ電話をかけようとする直前に清水さんが戻ってきた。


 清水さんの手には帰還石があり、帰還石の手続きを行う書類も持ってきてくれている。

 俺はこの場で手続きを行い、清水さんから帰還石を受け取った。


 それから清水さんは部屋を出る時や、ギルドから出る時に周りに人がいないことを確認してくれて、俺をギルドの外へ出してくれた。

 ギルドを出る時に清水さんから呼び止められて、不安そうな顔で俺を見ている。


「佐藤くん、しばらくギルドにはこないほうがいいよ」

「しばらくですか……」

「こられるようになったら連絡をするから、それまでは我慢してくれる?」


 清水さんがうったえるような目で俺を見つめてきた。


(ギルドから樹海へ行けなくなるのは惜しいけど、この人だかりが落ち着くまではギルドが正常に機能しないよな……)


 俺はそう納得して、清水さんの言葉にうなずく。


「……わかりました」


 清水さんは俺の返答に安心して、いつものように笑顔になってくれた。

 清水さんの笑顔に見送られて俺はギルドを後にする。

 ギルドを離れてから、ようやく人の叫ぶ声が聞こえなくなる。


 俺はギルドから離れて落ち着いたので、真央さんへ連絡をすることにした。

 真央さんはすぐに電話に出て、俺へ慌てた様子で声をかけてくる。


「一也か!? 今どこにいる!?」

「さっきまでギルドにいました」

「ギルドへいっていたのか!? 大丈夫か!?」

「清水さんが対応してくれたので、なんにもなかったです」


 真央さんは、はるちゃんありがとうと言いながら安堵しているようだった。

 俺はギルドがあんなことになった理由がわからなかったため、真央さんに聞くことにした。


「真央さんはギルドがあんなことになった理由を知っているんですか?」


 俺の言葉に真央さんは沈黙をしてしまい、電話越しに真央さんの息を飲む音が聞こえてくる。

 そして、こちらをうかがうように真央さんが声を出してきた。


「お前、昼間にテレビを見たか?」

「いいえ、見ていませんよ」

「だよな……」


 真央さんだけなぜか納得してしまい、俺はさらに真央さんへ質問をする。


「俺に何があったのか教えていただけませんか?」

「わかったよ」


 しばらくの沈黙の後、真央さんが覚悟を決めたように話を始めた。

 今日の正午に、ギルド長と佐々木さんがグリーンドラゴンとバフォメットについて発表したという。

 また、その時に俺や真央さんの姿にモザイクの加工が施された無音の映像が公開されているようだ。


 俺は真央さんの話を聞き終わった時、1つだけ疑問に残ったことを聞いてみた。


「真央さん、俺の名前って公開されなかったんですか?」

「されなかったよ。映像の後に質問の時間があったけど、ギルド長は必死に隠しているみたいだったぜ」

「隠したんですか……」

「たぶん、お前について何か知りたいと考えた人がギルドへ集まったと思う」

「俺のことを知ったとしても、何がしたいんでしょうね」

「お前さ……」


 電話越しでも、俺には真央さんが頭をかかえている様子が目に浮かんできた。

 俺が真央さんに話はそれだけですかと聞いたところ、真央さんにはまだ話があるようだった。


「一也、明日は時間あるか?」

「明日ですか? 今のところ特に予定はありませんよ」

「なら、10時頃にこの前先輩と話をした喫茶店で会わないか?」

「いいですよ」


 真央さんはありがとうと言いながら、電話を切った。

 俺もスマホをしまって、帰るために走り始める。


 自分の住んでいる地区に帰ってきても、まだ太陽が頭上で輝いている。

 帰っても家でやることが無いので、修練場へ向かうことにした。


 俺が修練場に入ってもその光景は前と変わることなく、ほとんど人がいない。

 今日はここでなにをしようかと考えながら歩いていたら、広場の方から誰かが近づいてくる。

 足音のする方をみたら、花蓮さんが俺に近づいてきていた。


 俺は花蓮さんへ手を振ると、花蓮さんもほほ笑みながら手を振りかえしてくれる。

 花蓮さんの手を振っていない方の手には、剣が鞘に納められて握られていた。


「花蓮さんも修練場にきていたんですね」

「今は学校が終わったらすぐにここへきて剣を振っているの」


 花蓮さんは俺へ剣を見せながらそう言って、俺へここに来た理由を聞いてきた。

 特に考えていなかったため、俺は言葉につまってしまう。

 花蓮さんが不思議そうに俺の荷物を見てきた。


「今日はあの長い棒を持っていないんだね」

「はい。今はメイスを使っています」

「またメイスなんて使っているの?」


 メイスなんてと言う花蓮さんに少しむっとしてしまう。

 時間もあるし丁度良いと思い、花蓮さんへ提案をした。


「なら勝負をしませんか?」

「勝負?」

「空気を相手に剣を振ってもあまり上達しないでしょう? なので、相手になりますよ」

「なんですって……」


 俺は花蓮さんを挑発するように言い、どうですかと付け加えた。

 花蓮さんは唇を噛んで、鋭い眼光で俺をにらんできている。

 花蓮さんへ本気になってもらうために、俺は更に言葉を続けた。


「この前は杖を使いましたけど、今回は花蓮さんが怪我をしないように俺は武器を使いませんから」


 俺が両手を広げながら言った瞬間、花蓮さんは剣を抜いて叫んだ。


「なめないで! 絶対に負けないから!!」

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