富士への樹海攻略編⑲~強さへの渇望~
「2つの選択肢ですか?」
「そうだ」
ギルド長ははっきりとした口調で、俺へ選択肢があることを伝えてきた。
俺は少しテーブルへ身を乗り出して、ギルド長へ2つの選択肢について聞いてみる。
「どんな選択肢ですか?」
ギルド長は、横に座った佐々木さんを一目見て深呼吸をした後、俺と向き合う。
「1つ目は、このお金を受け取らずに、これ以上目立つことなく冒険者を続けることだ」
真央さんはギルド長の言葉でようやくお金から目が離れて、ギルド長を向いて口を開いた。
「受け取らなかったら、今日のことも隠してくれるのか?」
「ああ、すべてこちらでなんとかしよう」
ギルド長は真央さんを見て強い口調で答えている。
真央さんはギルド長の選択肢を待つように言葉を待っていた。
(ギルド長には悪いけど、これからやろうとしていることを止められるわけにはいかない)
俺はギルド長の2つ目の選択肢を聞く前に2つのアタッシュケースを閉じる。
3人はいきなり動いた俺の動向から目が離せないようだ。
俺は立ち上がって、アタッシュケースを持つ。
「選択するまでもない。俺はこのお金を持っていきます」
ギルド長はそうかとつぶやいて、下を向いてしまう。
俺の言葉を聞き、すぐに佐々木さんが立ち上がって俺へ言葉をかけてきた。
「待ってくれ佐藤くん」
「なんですか?」
佐々木さんは扉の前に立ち、俺の道をさえぎる。
「本当にいいのか?」
「いいですよ。俺はこれ以上のことをやらないといけないんで」
「これ以上?」
佐々木さんは俺の言葉を聞いて、質問をしながら俺へ近寄ってきた。
俺は富士山を登った時に現れたドラゴンの群れのことを説明する。
説明が終わり、ギルド長と佐々木さんへ顔を向ける。
「俺は富士山を登るためにドラゴンを倒し続けます。俺を止めますか?」
ギルド長は何も言わず、佐々木さんは口を押さえて信じられないとつぶやいていた。
誰も俺を止めようとしないので、真央さんへ部屋を出るように伝える。
「真央さん、もう行きましょう」
「2つ目の選択肢を聞かなくてもいいのか?」
「たぶん、お金を受け取ってすべてを公表するとかですよ」
俺は違いますかと2人に聞いて、合っているようで2人はうなずいて黙っている。
2人の様子を見た真央さんも立ち上がった。
「一也、お前が良いんならここを出るか」
「まってください、1つ聞き忘れました」
ギルド長と佐々木さんは力なく俺を見てきた。
「バフォメットの鎌はどこにありますか?」
俺が帰還してから1度もバフォメットの鎌が見当たらないため、疑問に思っていた。
俺の答えに口を開いたのは真央さんだった。
「あれなら素材預り所に預けてあるぜ」
「取りに行ってもいいですか?」
「ああ、行こう」
俺と真央さんはギルド長の部屋を後にして、素材預り所で鎌を受け取った。
真央さんは鎌はいらないというので、俺にくれるそうだ。
さすがに鎌をさらしながら持って帰るわけにはいかないので、見えないように白い布を巻く。
ギルドを出てから、真央さんへアタッシュケースを渡すために声をかけた。
「真央さん、これは1つ真央さんがもらってください」
「え!? お前が狩ったんだから、お前がもらえよ」
俺は真央さんがいなければポイズンスネイクの巣で倒れていたかもしれないので、どうしても真央さんにお金を受け取ってほしい。
真央さんは頑なに断わってきて、お金を受け取ってくれそうにない。
俺はこのままではお互い譲らずに話が平行線になってしまうと思い、最終手段に出ることにした。
「真央さん、PTリーダーからの命令です。これを受け取ってください」
「……お前、卑怯だぞ」
俺が真央さんの前に出したアタッシュケースを、真央さんは渋々受け取ってくれた。
真央さんはアタッシュケースを受け取り、真剣な目で俺の目を見てくる。
「一也、お前はこれから何をするんだ?」
「強くなります」
「強く?」
「ええ、誰よりも強くなります」
真央さんはあまり意味が分かっていないようだったので、最後に一言伝えてから別れることにする。
「だから、真央さんも俺とPTを続けるのなら覚悟を決めてくださいね」
俺は真央さんへ手を振ってそのまま駅へ向かう。
俺が歩き出す直前に、真央さんが不安そうに俺を見ているような視線を感じた。
俺はぼろぼろの服のまま電車に乗り、多くの荷物を持っているため、少し目立ってしまった。
いたたまれない気持ちになりながら、第1地区の最寄り駅に着く。
家に帰る前に、杉山さんのお店に寄ることにした。
これから使いたいものをいくつか注文しようと思う。
荷物を持ったまま杉山さんのお店に着くと、中にはいつものように杉山さんしかいない。
大きな荷物を見た杉山さんが、思わず口を開く。
「小僧、これはなんだ?」
「今日の戦利品です」
「見てもいいか?」
「ええ、いいですよ」
杉山さんが鎌を持ってくれたおかげで、だいぶ楽になった。
この前と同じように作業スペースへくるようにうながされる。
杉山さんが鎌に巻いてある布を解き、食い入るように鎌を眺め始めた。
「これは……」
「わかりますか?」
杉山さんは首を横に振り、わからないと答えてきた。
俺は自分の家にこんな大きな鎌を置けないため、ここに置かせてもらいたいと相談したい。
「杉山さん、この鎌を預かってくれませんか?」
「それはいいが……調べてもいいか?」
「もちろん! よろしくお願いします」
俺は座ったまま頭を下げて、杉山さんへお礼を言う。
頭を上げて、あと1つ杉山さんにお願いをする。
「後、買いたい武器があるんですけど、お店を見てもいいですか?」
「また買うのか……」
杉山さんは自由にしろと言いながら、俺を送り出してくれた。
俺はいくつかのものを選んで杉山さんに伝える。
欲しいものでここにはないものもあったため、それを言うと杉山さんが唖然としていた。
「用意できますか?」
杉山さんは少し悩み、俺へ金額を伝えてきた。
「全部で4500万だ」
「わかりました」
平然としている俺へ、杉山さんはさらにあっけにとられて声を失う。
俺は5000万が入っているアタッシュケースを杉山さんに渡した。
杉山さんは恐る恐るアタッシュケースの中を見て、すぐに閉じる。
「小僧、この金ってまさか……」
「グリーンドラゴンのお金です」
杉山さんは頭を抱えた後、俺へ注文したものを確認してくる。
「注文は、ミスリルのメイス1本、ミスリルの剣1本、ミスリルの盾1枚、ミスリルのダガー2本だな?」
「それでお願いします」
「すぐに揃える。できたら連絡する」
「はい」
杉山さんからお釣りの束を受け取り、お店を後にした。
このままの服装で家に帰ると必ず両親が心配をすると思い、服を買ってから帰宅する。
今日は遅くなる前に家に着いたため、特に何も言われることなく部屋へ入ることができた。
部屋に入ると荷物を置いて、すぐにベッドへ寝転がり拳を見つめる。
(必ず強くなってやる)
この世界にきてからずっと思っていたことがある。
(自分の人生はもう終わったと思っていた)
ゲームがなくなり、すべてを失うと思っていた自分からすれば、今は願ってもない状況が訪れてきている。
(もう1度、俺になにかをしていいと言うのなら、自分にできる限りすべての力を使って行いたい)
俺は拳を天井へ向けて、誓うように宣言をする。
「俺は必ず強くなって、この世界のダンジョンをすべて制覇して世界を救う!」
◆
スキル
体力回復力向上Lv10
(Lv5) ┣[+剣熟練度Lv5]攻撃速度向上Lv10
(Lv10)┗キュアーLv1
剣熟練度Lv10
(Lv3) ┣挑発Lv10
(Lv5) ┣バッシュLv10
(Lv10)┗ブレイクアタックLv10
メイス熟練度Lv10
(Lv3) ┣[+ヒールLv3]身体能力向上Lv10
(Lv10)┗魔力回復力向上Lv10
ヒールLv10
(Lv10)┗移動速度向上Lv10
杖熟練度Lv10
(Lv3) ┣ファイヤーアローLv10
(Lv5) ┣ライトニングボルトLv10
(Lv10)┗テレポートLv1
盾熟練度Lv1
銃熟練度Lv1
◆
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
これで第一章が終了いたしました。
現在カクヨムコン9に以下の作品で参戦しております。
ぜひ、応援よろしくお願いします。
【最強の無能力者】追放された隠し職業「レベル0」はシステム外のチート機能で破滅世界を無双する
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます