富士への樹海攻略編⑱~樹海の先へ~
富士山を目指して歩き、無事に富士山の麓へたどり着いた。
俺は目の前にある大きな富士山を見上げてしまう。
(ここにレべ天が必死に抑え込んでいるモンスターがいるのか)
他の2人の様子を見たら、富士山を見つめたまま何も言わない。
俺も2人と同じように富士山を見ていると、佐々木さんが涙をこらえて俺を見てきた。
佐々木さんが涙をこらえて何事かと思い、俺は驚いて佐々木さんへ言葉をかける。
「佐々木さんどうしたんですか!?」
「感動していた……」
「私も……」
真央さんを見ると、真央さんも涙を一筋流しながら富士山を見上げていた。
(二人の気持ちが少しだけわかる)
初めて、遠くでしか見ることができなかった富士山を麓から見ることができた。
その時、佐々木さんが俺の背中へ手をそえてくる。
「きみが最初に足を踏み入れるべきだ」
佐々木さんは涙を流して、笑顔で俺へそう言ってくる。
真央さんを見ても、佐々木さんと同じように俺へ行けよと伝えてきた。
俺は2人の気持ちに押されて、富士山への数歩、足を踏み入れる。
(なんだ!?)
その瞬間、周囲から大量の視線を感じた。
しかし、俺が視線を感じる方を向いても、なにもいるようには見えない。
俺はこの視線の違和感を隠して、2人にもこちらへくるようにうながす。
2人も富士山へ足を踏み入れて、何事にも代えがたい感動をしているようだった。
(2人は感動していてこの視線に気が付いていない)
俺は2人が視線に気が付く前に帰還してほしいため、無理やり笑顔を作って帰還しようと提案する。
「それじゃあ、もう帰りましょうか」
2人は俺の言葉にうなずき、帰還石を取り出す。
俺も帰還石を取り出して、2人と同じように帰還するふりをした。
俺は2人が帰還するのを確認してから、帰還石をしまって頂上へ向かって全力で走り出す。
(ここにいるモンスターが確認できれば、主の見当がつく!)
俺が走り出した直後、周囲から数えきれないほどのドラゴンが飛んできていた。
緑色のグリーンドラゴンを始めとして、赤色や黄色のドラゴンが俺へ向かってきている。
(ドラゴンが数種類!? まさかここは!!)
さまざまなドラゴンを確認しながら、目の前の岩を避けようとした時、岩と思っていたものまで動き出す。
岩を避けようとしていた俺へ、岩の陰から俺の背丈以上のなにかが迫ってきている。
俺が岩だと思っていたものは、ストーンドラゴンの一部だったらしい。
(ストーンドラゴンの尻尾か!)
俺は迫ってくる何かを確認して、杖を思いっきり握る。
杖を振り下ろしてストーンドラゴンの尻尾へ当てて、上への推進力にして跳ぶように尻尾を避けた。
跳んでしまった俺へ火や雷のブレスが飛んできている。
俺はブレスが当たる直前に地面へテレポートを行い、着地して再び頂上へ向かって走り出す。
後ろから何十匹いるかわからないほどの羽ばたく音や地鳴りが聞こえてきている。
(ここはドラゴンの巣窟……)
俺は足を止めずに、周りの状況を確認する。
ここには多種多様なドラゴンが存在して、侵入者が頂上に行くのを拒む。
(それならもうあのダンジョンしかない)
ドラゴンのみが存在するダンジョンで、しかも頂上へ行くのが困難。
そして、俺は見えない壁に阻まれて進めなくなった。
(一定数ドラゴンを倒さないと通れない壁がある……確定だな)
俺はダンジョンの確認が終わり、すぐに帰還石を取り出した。
後ろを振り返るとドラゴンが波のように押し寄せてきている。
(ここはドラゴンの巣。そして、主はドラゴンの王)
俺は波に飲み込まれる寸前に帰還を行う。
(レべ天もやっかいな主を担当しているんだな……必ず倒してやるから待っていろ)
帰還する直前に富士山を一目見て、必ずまたここに来ることを誓った。
-------------------------------------------------
帰還をしてすぐに見えたのは、激怒している真央さんの表情だった。
「お前、やっぱり1人だけ登っただろ!?」
俺の姿を見てすぐに怒り出す真央さんを見て、横にいた佐々木さんへ助けを求めても首を横に振られる。
「こればかりは佐藤くんが悪い」
「俺、まだなにをしたのかも言っていないですよ……」
真央さんが俺に詰め寄って、俺の服を握ってくる。
「私たちが帰る時、お前の服はこんなにボロボロになっていなかったんだけどな!」
俺は自分の姿を確認したら、服に多数の焼けたような穴が開いていた。
佐々木さんは真央さんをなだめるように肩へ手を置いて、俺を見ている。
「太田さん、ここでは周りに話が聞こえてしまうから、とりあえずギルド長の部屋へ行こう」
「そうだな、一也には聞かなきゃいけないことがたくさんある!」
俺はこれから尋問をされるのかと気を落として、なんとか真央さんの気を紛らわせようと言葉をかける。
「そういえば、真央さんリヤカーはどこですか?」
「佐々木さんの部下の人に預けて帰還してもらったよ」
「それじゃあ、俺は先に受取の確認と精算へ行かないと……」
なんとかこの場をしのごうとする俺を佐々木さんが止めた。
「手続きはもう終わっている」
「え?」
「私も話を聞きたいから、早くギルド長の部屋へ行こう」
「もしかして、佐々木さんも怒っていますか?」
「きみがそう見えるのならそうなんだろう」
佐々木さんは笑顔で俺へ言っているが、目がまったく笑っていない。
俺は2人に挟まれたままギルド長の部屋へ連行された。
ギルド長の部屋では、ギルド長が部屋にある画面を食い入るように見ていた。
俺たちが部屋に入る時も生返事をして、俺が椅子に座っても画面から目を離さない。
俺はなにを見ているのか気になり、ギルド長が見ている画面を見る。
(今日の佐々木さんが撮影した動画か)
ギルド長は今日の俺たちが行った狩りの様子を見ているようだった。
今、画面の中では俺とバフォメットが戦っている。
最後、俺がテレポートを行った時に、ギルド長が瞬間転移かとつぶやく。
「今行ったのはテレポートです」
俺の言葉を聞いたギルド長はすぐに俺へ顔を向ける。
「佐藤、お前それをできるのか……」
「もちろん」
俺はテレポートを唱えて、画面の横まで移動する。
それを見たギルド長が頭を抱えて悩み始めてしまった。
佐々木さんと真央さんは改めて俺が移動するのを見て驚いている。
ギルド長から、テレポートは歴史上数人のみ行ったこととされているスキルと説明された。
俺は説明を聞きながら座っていた椅子に戻り、ギルド長の顔を見た。
ギルド長はうつむきながら声を出す。
「佐々木、お前が見たことを報告してくれ……」
「わかりました」
佐々木さんは今日行った狩りの様子をギルド長へ説明を始める。
俺や真央さんの補足説明が必要ないほど、佐々木さんは正確にギルド長へ伝えてくれていた。
ひととおり聞き終えたギルド長は、羊の悪魔を倒したのかと再度佐々木さんへ聞いている。
俺はバフォメットという名前が決まっていないことが気になって、ギルド長へ質問をした。
「ギルド長、話の途中にすみません。羊の悪魔って、名前は決まっていないんですか?」
「ああ、これまであまり確認できていないモンスターだから決まっていないな」
「それじゃあ、俺が決めてもいいですか?」
「お前が初めて倒したんだ。決めてくれるならお願いしたい」
ギルド長は少し疲れた表情で俺を見てくる。
俺は自信を持って、ギルド長へ名前を言った。
「羊の悪魔は、バフォメットでお願いします」
「いいだろう。そのように登録しておく」
ギルド長は俺の提案にうなずいてくれて、羊の悪魔はバフォメットという名前になった。
その後、すぐにギルド長が立ち上がり、部屋の奥から2つのアタッシュケースを持ってくる。
それを俺の前にあるテーブルに置き、中を開けると、びっしりと1万円札が詰められていた。
ギルド長がアタッシュケースを開け終わり、俺へ向かって言葉をかける。
「佐藤、これはグリーンドラゴンが落札されたお金で、1億ある」
佐々木さんは中身を知っていたようで表情を変えていない。
しかし、真央さんはアタッシュケースが開けられてからお金を凝視していた。
俺はお金には一切興味を示さず、ギルド長へ顔を向けている。
「それで?」
ギルド長は俺が表情を変えないことが予想外なのか、ギルド長が驚きながら話をする。
「お前には2つの選択肢を用意した」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます