富士への樹海攻略編⑰~レべ天の願い~
「世界を救えって、どういうこと?」
「このままでは数年以内に人類は滅びてしまいます」
レべ天は顔を上げて、目に涙を浮かべながら俺へ訴えてくる。
「モンスターがダンジョンやフィールドから出てこないのを不思議に思ったことはありませんか?」
「それは思ったことがある」
「その力が効かなくなってしまいそうなんです」
「じゃあ、モンスターが街へきてしまうようになるのか!?」
「はい……このままでは、近い未来にモンスターの勢力が強くなりすぎて、そうなってしまいます」
ダンジョンやフィールドからモンスターが出てくるなんて考えたこともなかった。
前に街へモンスターが現れて騒ぎになったニュースを聞いたことがある。
レべ天はその騒動が世界中で起こると言っていた。
しかし、俺は人類には強力な武器があるため、対抗できると思う。
「銃とか兵器があるから、滅びるなんてことはないだろう?」
俺の言葉にレべ天は髪を左右に揺らして否定する。
「それがあるから滅亡してしまいます」
「どうして?」
「道具に頼り切ってしまい、今のあなたのように強くなるという努力をやめてしまっているからです」
「そんなこと……」
「そして、強くなる手段も自らの手で捨ててしまいました」
レべ天は、人類が強力な武器を作れるようになってしまったため、それまで蓄積してきたスキルの知識を長い時間かけて徐々に忘れてしまったと言う。
かろうじて残っているのがあのスキル書だったのだ。
(確かに、銃があるのに素手や剣で戦おうと思わないな……)
俺はレべ天へモンスターが出てこないようにする方法を聞く。
レべ天は笑顔になり、俺へその方法を教えてくれるようだ。
「フィールドの場合はモンスターを、ダンジョンの場合は主を倒してください」
「世界中の?」
「もちろん、全部です。そうすることで、モンスターの勢力が弱まります」
レべ天ははっきりと、俺へ世界中のダンジョンやフィールドでモンスターを倒すように言ってきた。
俺は天を見上げて、レべ天に懸念していることを確認する。
「ダンジョンって、ヴァーサスオンラインと同じ数だよな?」
「よくわかりましたね。そうですよ」
「そうか……」
ダンジョンの主を倒さないと勢力が増して、モンスターが人類の生活圏へ入ってきてしまう。
しかも、今はいつ上級職のスキルが使えるのかわかっていない。
(それでもやらないとモンスターであふれる世界になるんだよな……)
俺がなんとか現実と向き合おうとしている時に、レべ天が急に両手をたたいて音を鳴らす。
「なので、私はあなたに協力します」
「どんな?」
「何をしてほしいですか?」
レべ天は俺へ協力してほしいことを聞いてきた。
俺の中でこの問いに対する答えは1つだけだ。
「拳を武器として使わせてほしい」
「すみません、ちょっとそれはできません」
レべ天は申し訳なさそうに他のことはないか聞いてくるので、俺はそれなら協力はいらないと答える。
俺の答えにレべ天が驚いてしまう。
「本当に何もいらないんですか? 強力な武器とかも用意できますよ」
「道具に頼るなとかさっき言ってなかった?」
レべ天はそうですねと言いながら肩を落として、うなだれてしまった。
「どうしても協力させてもらえませんか?」
上目遣いで俺に言ってくるレべ天がかわいそうに見えて、俺は必死に何かしてほしいことを考える。
(そういえば、世界中を回らないといけないんだよな……)
世界中を回るということは、世界各国のダンジョンがある街で活動しなければならない。
その場合、言葉が分からないとどうしようもない。
「世界中の言葉を使えるようにすることはできる?」
俺の言葉を聞いて、レべ天は先ほどまでの落ち込みがうそのように笑顔になる。
「それくらいなら、簡単にできますよ!」
レべ天は俺へ両手を向けて、何かを呟き始めた。
すぐに俺の体から光が放たれ、レべ天が満足そうな顔をしている。
「これであなたは世界中の言葉を使えるようになっているはずです」
「そうなの?」
「はい!」
レべ天が満足そうにしていても、俺には特になにかをできるようになったという実感がないため戸惑ってしまう。
そんな時、すぐに後ろにいる真央さんが止まり続けているのが目に入った。
「今って、時間が止まっているの?」
「ええ、私が離れるとあの山の主が出てきてしまうので……」
レべ天があの山と言った方向を見ると、そこには富士山がそびえ立っていた。
(さっきまでは見えていなかったのに……)
おそらくダンジョンの主であるバフォメットを倒したことにより、富士山への道がひらいたのだろう。
レべ天は、再度俺へ告げるように俺へ話す。
「あなたと話すために、世界中の仲間が協力して時間を止めてくれています」
「仲間?」
「私と同じようなものや、中には神と呼ばれる存在までさまざまです」
「そんなにいるのか……」
「はい。ですが、私たちの力をモンスターの勢力が超えようとしているのです」
俺はレべ天の方を向いて、レべ天と向かい合う。
レべ天は微笑み、俺へ託すように言葉を続ける。
「あなたは私たち全員の希望です」
「希望?」
「ヴァーサスオンラインというゲームの中で、“拳王”と呼ばれていたあなたがこの世界を救ってくれると信じております」
「……今の俺にそんな力はないよ」
レべ天に俺がゲーム内で呼ばれていた名前を言われて、胸が痛む。
この世界に来てから自分が求め続けている力をまだ持つことができていない。
(それが悔しくてたまらない)
どんなにスキルを使えるようになっても、たくさんのモンスターを倒してもいまだにこの渇望が満たされることがない。
そんなことを思っている俺の両手を、レべ天は微笑みながら包み込んできた。
「拳王とは、どんなモンスターにも諦めることなく立ち向かう勇気を持つあなたの心の在り方だと私は思っています」
「……」
「今は少し弱くなって不安があると思いますが、あなたなら必ず強くなれますよ」
「ありがとう」
「この世界をよろしくお願いします」
「……わかった」
レべ天は俺へ最後の言葉を告げ、小さな光を放ちながら徐々に消えてしまっている。
俺はレべ天を世界を救う決心をして見送った。
レべ天が消えると同時に時が動き出す。
俺は真央さんと佐々木さんにバフォメットの落とした鎌を見せて、倒したことを伝える。
2人は俺の言葉で緊張がほぐれて、安堵の表情を浮かべた。
佐々木さんが俺と真央さんへ、帰還しようと提案してきた。
真央さんは返事をするが、俺は行ってみたい場所がある。
「2人ともすみません、もう少し森を歩きませんか?」
その言葉に真央さんがあきれながら俺を見た。
「まだ戦い足りないのかよ……」
「そういうことではないです」
真央さんの言葉を否定して、2人へ俺の行きたい方向を杖で示す。
「あの山へ行ってみませんか?」
俺が示した方向を2人が向き、富士山を見てそのまま固まってしまう。
2人へもう1度どうするのか聞いてみた
「行ってもいいですか?」
俺の言葉に2人は静かにうなずいてくれた。
俺はそれを見て、富士山へ向けて歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます