富士への樹海攻略編⑩~初めての授業から~

 松本先生が第二次世界領土拡張戦争についての説明をした後、最後に一言付け加える。


「この戦争があったからこそ、個人の戦闘技術向上を目指して、剣士中学校を始めとする各種の専門学校が設立された」


 松本先生はそう言いながら一瞬俺を見て、目をつぶって深呼吸をしている。

 その後、松本先生が何かを言いかけた時、授業終了のチャイムが鳴った。

 チャイムが鳴り終わると、松本先生はそのまま授業を終わりにする。

 授業が終わったので、俺は松本先生へ教科書を返すために席を立つ。

 そのまま俺は松本先生に近づき、教科書を差し出した。


「松本先生、教科書を貸していただきありがとうございました」

「ああ、いいんだ。また必要な時は言いなさい」

「わかりました」


 俺から教科書を受け取った松本先生は、そのまま教室を後にする。

 俺も田中先生に呼ばれていることを思い出して、松本先生を追うように職員室へ向かう。


 俺が2階に着くと、職員室の前に田中先生が待っていてくれた。

 田中先生は俺を見つけて、こちらへ近づいてくる。


「ついてきなさい」

「はい」


 俺のそばまで来た田中先生は俺へ一言そう伝えてきて、歩き続ける。

 俺はよくわからないまま田中先生の後を追った。


 田中先生がある部屋の前で止まり、ドアの中央にある鍵を開けている。

 扉の上にあるプレートには【相談室】と書かれていた。

 すぐに鍵の開く音が聞こえてきて、田中先生がドアを開けて俺を見る。


「ここで話をしましょう」

「わかりました」


 俺が入室してから、すぐに田中先生が扉を閉めて部屋に入ってきた。

 相談室には、話し合いをするテーブルや椅子が外から見えないように仕切りが立てられていた。

 俺は田中先生に座るように促された椅子に座り、田中先生は俺の正面に座る。


「さっきの授業はどうだった?」

「面白かったです」

「そう……」


 俺は前の休み時間でのやり取りやここまで来るときの様子などを見ていて、田中先生が怒っているものだと思っていた。

 しかし、田中先生は少し微笑みながら俺へ話しかけてくる。


(怒られると思ったのにどうしてだ?)


 俺が田中先生の様子をうかがっていると、田中先生は軽くため息をついた後に俺へ話しかける。


「佐藤くん、今日はどうして学校へきたの?」

「暇になったので来ました」

「暇か……昨日は何をして過ごしたの?」

「富士のダンジョンへ行きました」

「嘘……」


 田中先生は俺の言葉が信じられないようだった。

 俺は少しでも信じてもらえるようにするために、スマホケースにはさんであったギルド証を先生へ提示する。


「本当です。これが俺のギルド証です」

「見せてくれる?」

「どうぞ」


 田中先生がギルド証を受け取り、記載されている内容を確認している。

 すぐに表情が変わり、俺へ質問をしてきた。


「これ、Rankが2ってなっているけど、本当なの?」

「本当です。ギルドへ電話をして確認してみますか?」

「それはいいわ……どうしてこのRankなのか聞いた?」

「特に聞かれませんでした。試験みたいなものはやりましたけど」

「どんな試験?」


 ギルド証を渡してから、田中先生の質問が止まらない。

 俺は少し田中先生と話すことに疲れてきた。

 ただ、まだ話が終わりそうにないので、きちんと田中先生の質問へ答える。


「コカトリスの討伐をしました」

「本当に?」

「本当です」

「なにか証明できるものはある?」

「教室にある俺の荷物の中に、討伐クエストが終わった時にもらった紙があります」

「佐藤くんの荷物を取ってきてもいいかな?」

「どうぞ」


 俺が返事をしたら、田中先生は急いで部屋から出ていってしまう。

 俺は部屋に1人になり、少し疲れていたため良いタイミングで休憩の時間になった。


(それにしても、なんであんなに聞いてきたんだろう)


 田中先生が質問をしてくる意図がわからない。

 俺は椅子の背もたれに体重をかけるように座り直し、腕を組んで考え始める。


(そもそも、俺はなんで呼ばれたんだ?)


 俺がこんな風に呼ばれる理由は、突然学校に来たこと以外に思いつかない。


(そうだったら、あの田中先生の反応もおかしい)


 俺が相談室で頭を悩ましている時に、ドアの開く音がしてから田中先生が戻ってきた。

 田中先生は俺の荷物を持ってきており、肩を上下にゆらして息が荒くなっている。


「先生、大丈夫ですか?」

「大丈夫……この長い袋がすごく重いんだけど何が入っているの?」


 田中先生が持ってきた荷物をテーブルに置いて、疲れていたのか椅子へ思いっきり座る。

 俺はテーブルの上に置いてある杖の入った袋を開けて、杖を取り出して田中先生へ見せた。


「これは俺が今使っている杖です」

「え……棒じゃなかったの?」

「純ミスリル製の杖ですよ」

「これミスリル製なの!?」

「触ってみますか?」


 俺が杖はミスリルでできていることを言うと、田中先生が身を乗り出して聞いてくる。

 俺は杖を田中先生の前に置いて、杖を触ってもらう。

 田中先生は恐る恐る杖に触り、感触を確かめていた。


「これは本当にミスリルなのね」

「わかるんですか?」

「前にミスリル製の武器を持ったことがあるから」


 田中先生はそう言ってから重そうに杖を持って、俺へ返してくれた。

 そして、田中先生が椅子に座りなおして、一呼吸おいてから話を続ける。


「それで、コカトリスの討伐証明書はある?」

「これです」

「ありがとう」


 田中先生は俺から紙を受け取り、内容の確認を始める。

 しばらくすると田中先生の口が軽く開き、目を見開いていた。


「こ、この紙をコピーしてもいいかな?」

「いらないので、それをもらってくれると嬉しいです」

「これいらないの?」

「俺は使わないので、そのままゴミとして捨てると思います」

「そう……じゃあ、いただくわ」


 田中先生はその紙を部屋に置いてあったファイルへ入れた。

 ファイルへ紙を入れてから、田中先生は腕時計を見て俺へ再度話しかける。


「ちょっと遅くなったから、話はここまでにしましょう」

「いいんですか?」

「もういいわ。これから食堂へ行きましょう」

「わかりました」


 田中先生からこの部屋の鍵は閉めると伝えられたので、荷物を持って部屋を出る。

 部屋を出た後、田中先生と一緒に食堂へ向かう。

 食堂は校舎の1階から渡り廊下を歩いた先にあるようだ。


 食堂に着くとそこには一面に黒い制服を着た生徒が広がっており、座って食事をしている。

 田中先生はこの光景を特に気にすることなく、中へ進んでいく。

 俺は驚きながら田中先生へついていくと、食堂の入り口に大きめのプレートが置いてあり、田中先生はそれを持って前へ進む。


 俺も同じようにプレートを持ち、少し進むと調理場の手前にご飯やおかずなどが種類ごとに用意されていた。

 田中先生を見ていると、用意してあるものを自由に取っていくようだ。

 俺は適当に食べたいものをプレートに置いて、最後には飲み物が用意されていた。


 田中先生が飲み物をコップに入れていたので、近寄って話をする。


「田中先生、これってどこで代金を払うんですか?」

「給食だからあなたが払うことはないわ」

「すごいですね……」


 田中先生は飲み物を入れ終わると、俺へ声をかけてくる。


「じゃあ、私はあっちだから、あなたは好きなところで食べなさい」


 田中先生があっちと言った方向へ顔を向けたら、職員専用と書かれたプレートの置かれたテーブルがあった。

 田中先生は俺を気にすることなく、そのテーブルへ向かって歩き始めた。


(適当に空いているところで食べるか……)


 俺は荷物も持っているため、できればテーブルの端のほうがよかった。

 良いタイミングで端の場所が空いていたため、そこへプレートを置いて、横に荷物を降ろす。

 俺が食べ始めようとした時、またも視線を感じる。


 周囲を見渡してみたら、ごまかすように食事を続ける生徒が多数いた。

 俺は気にせずに食べ続けていると、周囲から人がいなくなったような気がする。

 周りを見たら、俺の座っている周りから人がいなくなっていた。


(なぜ?)


 俺が首をかしげている時、正面から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「佐藤くん、ここいいかな?」


 声の聞こえた方には、谷屋さんが立っている。

 俺は周りの状況に少し疑問を持ちつつも、谷屋さんへ返事をした。


「大丈夫です」

「ありがとう」


 谷屋さんは持っていたプレートを置き、食事を始めようとする。

 しかし、谷屋さんのプレートにのっている食事の量が中途半端だったため、気になって聞いてしまった。


「もしかして、谷屋さん食事の途中にここへきてくれました?」

「ええ、ちょっと佐藤くんと話がしたくて」

「本当ですか!?」

「急に大きな声を出してどうしたの?」

「なんでもないです……」


 学校に来てからまともに話をしたのが先生だけだったため、谷屋さんが話しかけてくれて嬉しい。

 ただ、あまり全面に嬉しさを出すと谷屋さんが引いてしまうかもしれない。

 自分で少し注意して、食事を続けながら谷屋さんと話をする。


「そういえば、谷屋さんバッシュができるようになったんですよね」

「!? わかるの?」

「なんとなく、この前戦った時に最後の攻撃が急に重くなったので」


 谷屋さんは俺の言葉に驚いて、食事の手を止めてしまう。

 それから谷屋さんが話をしなくなってしまい、俺の昼食が終わる。

 谷屋さんはすでに食べ終わっていて、俺が終わってからようやく口を開いてくれた。


「この後、生徒会室へ来てくれる?」

「わかりました」


 俺と谷屋さんは食器を返却して、生徒会室へ向かうために食堂を出る。

 俺はこの様子を食堂にいた生徒全員に見られていたような気がした。

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