富士への樹海攻略編⑧~ギルド長からの提案~
ギルドの入り口にいた真央さんが俺へ近づいてきて、いきなり軽く頭を殴られた。
俺は突然のことに、殴られた頭を手で押さえて真央さんを見る。
「今日は休めって言ったよな」
「言いましたね」
「じゃあ、お前は今、何をしていたんだ?」
「バスの確認をしようとしていました」
「お前……」
俺の言葉を聞いた真央さんは右手をおでこにそえて、ため息をする。
そんなやりとりを遮るように、ギルドの奥から声が聞こえてきた。
「まおちゃんもうきちゃったの!?」
声の聞こえた方に顔を向けると、清水さんがいつもとは違い青い清楚な私服を着ていた。
真央さんは清水さんに見つかり、今度は頭を抱えてしまう。
清水さんが近くまできて、俺のことも目に入ったようだった。
「おはよう佐藤くん。今日はどうしたの?」
「おはようございます。今日も樹海へ行こうと思って」
「今日も行くの!?」
清水さんも俺が昨日に続いて、今日も樹海へ行くことに驚いている。
清水さんは真央さんの様子を見て、俺が勝手に行こうとしていることを察したようだった。
「えっと、佐藤くん。今日は行かない方がいいと思うよ」
「そうですか?」
「だって、まおちゃんは一緒に行かないでしょ?」
「どうしてわかるんですか?」
「今日、まおちゃんは私とデートをする予定だからね」
「だから清水さんは私服なんですね」
真央さんは今日清水さんと先約があったようだ。
(このまま樹海へ行こうとするとすると真央さんが怒るだろうな……)
俺が樹海へ行くことに悩んでいた時、清水さんは受付の女性へ小声で何かを話している。
清水さんが話し終えてから、受付の女性が急に俺と真央さんへ話しかけてきた。
「コカトリスの羽毛のオークションと昨日の収集物の精算を行いたいので、あちらの個室へお願いします」
受付の女性へそう言われながら清水さんを見ると、真央さんになにかアイコンタクトのようなものをしていた。
その後、真央さんはなぜか急に少し大きめの声で話し始める。
「そういえば、精算をしなきゃな! 行こうか一也!」
真央さんはちょっと棒読みで俺へ話しかけてきた。
俺は何かおかしいと思いながらも、精算はしておかないといけないらしいので、案内された個室へ移動する。
個室へ入って椅子に座ると、受付の女性が飲み物をテーブルに置きながら、しばらく待つように伝えてきた。
俺は手持ち無沙汰になり、お腹が小さく鳴った真央さんへ声をかける。
「真央さんはお腹が空いているんですか?」
「そうだよ。お前がギルドへ行くのが見えて急いで追いかけてきたから、朝食を食べられなかった」
「心配してくれてありがとうございます」
「いいよ。多分行くんじゃないかと思っていたし」
「そんな感じでしたか?」
真央さんは返事をせずに、俺の言葉を聞くと下を向いて黙ってしまった。
(俺が真央さんから注意されたことをしてしまって、怒っているのだろうか?)
俺も悩み始めてしまい、この部屋から音がしなくなっている。
時間を見ても、ここへ案内されてから10分は経っているのに、まったく人がきそうな気配はない。
そんな中、真央さんが深刻な顔をしながら俺の顔を見てきた。
「お前は何をしたいんだよ……」
「何というと?」
俺は真央さんが質問の意図がわからないような質問をしてくるので、少し首を傾げながら聞いてしまった。
真央さんは俺の目を見て、切羽詰まったように聞いてくる。
「グリーンドラゴンと戦うなんて馬鹿なことをして、お前は何を目指しているんだ?」
「まずはRank 3になることです」
「それは先輩と約束したからか?」
「それもありますけど、そこは通過点でしかないですね」
俺は当然のようにそう答えて、目の前に置いてあった飲み物を飲む。
真央さんは思考が追いつかないのか、絞り出すように声を続ける。
「じゃあ、お前はなにを……」
そんな太田さんの声を遮るように、部屋のドアが開く音が聞こえてくる。
ドアの方を向くと、先ほどの受付の人とギルド長が部屋へ入ってきていた。
入ってきた2人は椅子に座り、俺と真央さんへ向き合う。
真央さんは複雑そうな顔をしながら、俺から目を離した。
ギルド長の横に座った受付の女性が深呼吸してから、話を始める。
「まずは、コカトリスの羽毛ですが、1羽あたり50万円で落札されました」
平然としている俺や、本当かと呟いている真央さんの反応を見ながら、受付の女性は話を続ける。
「昨日のメルルシープの肉は1匹20万円で引き取らせていただきます。その他、バルーンフラワーとメルルシープの毛はオークションをおこなうことになりました」
受付の女性の話を聞いて、真央さんがまたオークションかとつぶやいていた。
その言葉に受付の女性が苦笑いをして、最後にと言ってから説明を続けた。
「今回から、支払いを口座振り込みにしたいので、佐藤さんの口座登録をお願いします」
「前回は現金でしたけど」
受付の女性が俺の言葉で困ってしまい、ギルド長が代わりに話を始める。
「前回、佐藤はまだ冒険者ではなかったためにあの対応になった。普通は口座へ振り込むんだ」
「わかりました」
俺はギルド長の話に納得して、受付の女性へ口座を持っていないと答える。
それを聞いた受付の女性は、口座を作って登録を行ってから振り込みが行われると言っていた。
話がいったん終わり、受付にいた女性へ部屋を出るように指示をする。
部屋を出るのを確認してから、ギルド長が申し訳なさそうにある提案をしてくる。
「グリーンドラゴンの件だが、あれはギルドへ寄付をしたということにしてほしい……」
「どういうことだよ!」
ギルド長の言葉を聞いた真央さんが椅子から立ち上がって、テーブルへ身を乗り出しながらギルド長へ詰め寄った。
「あれは一也が戦って倒したんだぞ!」
「それはわかっている」
「なら!」
「もういいですよ」
俺は真央さんがまだギルド長へ何かを言い出そうにしているのを止めて、椅子へ座らせる。
ギルド長はその様子を何も言うことなく注視していた。
真央さんは椅子に座ってもまだギルド長を睨んでおり、俺はギルド長へ聞きたいことだけを聞く。
「それで、俺への見返りは?」
「今は検討中だ」
「わかりました。他に話は?」
俺の言葉にギルド長は首を左右に振った。
それを見た真央さんがまたギルド長へ何かを言おうとしているのを、俺は真央さんの前に手を出して制止する。
「ならもう行きます」
それから俺はすぐに立ち上がり、真央さんの手を引き部屋を後にした。
ギルドにいると目立つので、真央さんと一緒にギルドを出る。
そして、ギルドを出た時に真央さんから手を振り払われて、興奮しながら言葉をぶつけられた。
「お前、あれでいいのかよ!?」
「いいんですよ」
「はぁ!? だって……」
「ここでは目立つので、ホテルへ帰りましょう」
俺は真央さんの言葉を遮って歩き出した。
真央さんは納得がいっていないのか、俺に追いつきながらまだ話を続ける。
「グリーンドラゴンが盗られたんだぞ!? いいのかよ!?」
「……」
俺は真央さんの言葉に答えることなく歩き続ける。
ただ、真央さんは他にもグリーンドラゴンの対応に納得いかないことを歩きながら俺に話し続けるので、俺は立ち止まって真央さんの口を手で押さえた。
「!?」
「ここでは話すと目立つので話は真央さんの部屋で話をしましょう。いいですね?」
俺は真央さんが首を縦に振るまで真央さんの目を見つめて口を押さえて続ける。
やがて、真央さんは観念したのか、首を縦に振った。
俺が真央さんの口から手を離した時、真央さんは一言だけ俺へ言葉をかけた。
「絶対に部屋で話せよ」
真央さんはそう言い放って、先にホテルへ戻っていく。
俺は真央さんの後を追いかけるように歩いていった。
真央さんの部屋に着くと、真央さんの部屋はシングルルームだったため、真央さんはベッドに座り、俺は椅子へ座った。
俺が椅子に座った瞬間に、真央さんは不満があるような顔で話をしてくる。
「さあ、言え!」
「わかりました」
俺は真央さんと向き合い、深く椅子へ座り直した。
そして、俺は真央さんへ確かめるように話を話し始める。
「真央さんはグリーンドラゴンが倒されたのはあの時初めて見たんですよね?」
「ああ、多分私だけじゃなくて、あんなに形が残ったものを見るのは全員が初めてだと思うぜ」
「ふーん……」
俺は真央さんの話を聞いて、今回のギルド長の対応が俺に悪く働くことはないという気がしてきた。
俺が1人で納得してしまって真央さんは苛立っているのか、口調が荒くなり始める。
「お前、何かわかったのかよ」
「その前に、真央さんはなんで俺へ少し待ってから帰還するように言ったんですか?」
「あ? ギルドがパニックになると思ったからだよ」
「グリーンドラゴンがいきなり現れるからですよね?」
「ああ。だから、ギルド長へ伝えて、何か準備をしてもらった方がいいと考えてお前に待ってもらったんだ」
昨日のことを思い出すように真央さんは話してくれた。
それに、俺の予想を真央さんへ質問する。
「ギルド長の考えは真央さんと違っていましたよね?」
「あんなに大げさになるとは思わなかった」
「そうですよね。実際はどんな感じだったんですか?」
俺はどんな受け入れ準備がされているのか知らなかったため、現場にいた真央さんに様子を聞く。
真央さんははっきりと覚えており、1つ1つのことを確認するように俺へ伝え始める。
「まず、ギルドから職員以外の人間が臨時休館って言われて出されたんだ」
「全員ですか?」
「私も含めて全員だよ」
「次は?」
真央さんは順序立てて、あの時に起こったことを説明してくれた。
「ギルドの外から見ていた様子だけど、ギルドを閉鎖した後はギルドの建物が外から見えないように幕が張られたな」
「その幕なら俺も見ました」
「私は、帰還場と素材の預り所だけ見えないようにするかと思ったんだよ」
「他にはなにかありませんでしたか?」
俺の言葉に真央さんは必死に何かを思い出すように目を閉じて考えている。
少し経ってから、そういえばと言いながら真央さんが話し始める。
「閉鎖前には県庁からも人が来ていて、ギルド長などと相談していたな」
「県庁からですか?」
「胸にネームプレートがついていて、確か県庁のやつのはずだ」
「なら、ギルド長とその人がギルドを隔離してから俺が帰還したんですね」
「ああ、そうなるだろうな」
真央さんは話し疲れたようで、ベッドに座りながら肘を膝について前のめりにうなだれた。
真央さんから聞いた話と今日の対応をヒントに、グリーンドラゴンがどのような対応になるのか頭を絞る。
そして、1つの結論が出た。
「グリーンドラゴンを倒したと言うのはやめておきましょう」
「はあ!? なんで?」
「たぶんギルドは俺たちのことを隠すためだと思いますが、詳しくわからないので、今は様子を見ましょう」
「わけわかんねぇ……」
俺の回答を聞いて、真央さんは納得がいかない様子でベッドへ寝転がり始めた。
そして、俺へ聞こえる程度の声で話してくる。
「お前が狩ったからもう何も言わない」
「ありがとうございます」
話を終えて、俺が部屋を出ようとした時、真央さんが一緒に部屋を出ようとしてきた。
「朝飯食うぞ」
「いいですよ」
俺は真央さんと一緒にホテルのレストランへ向かって、朝食を取った。
その後、真央さんは清水さんと出かけると言うので、レストランで別れる。
狩りに行く気が無くなり、やることがない俺はそのまま家に帰って、学校へ行こうと思った。
今の時間は8時を過ぎたあたりなので、これから向かえば10時くらいには着くだろう。
(この前のイベントの影響で友達ができればいいな)
俺は家に着いて、すぐに母親から外泊のことを怒られた。
母親との話が終わってから部屋に戻って、制服に着替えた。
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