富士への樹海攻略編⑦~つかの間の休息~

 グリーンドラゴンと一緒に帰還をした後、帰還石の手続きを行ってからギルドを出ようとした。

 ギルドを出る前に、今着ている服が今日の戦いでぼろぼろになったため、持ってきた予備の服に着替える。

 ただ、帰る時にはギルド長に案内されて、なぜか県庁への連絡通路を通って県庁の出口から出された。


 外に出る頃にはもう夜になっていたため、母親へ今日はギルドの近くのホテルに泊まるという連絡をする。


(お母さん、ちょっと怒っていたな……)


 母親へ電話をしたら、連絡が遅くなったことと、泊まってくることを勝手に決めて少し怒られた。


 ホテルへ向かいながら、今日の戦いの反省をする。

 ポイズンスネイクは魔法がまったく使用できない状況での戦いになったため、真央さんがいなければどうなっていたかわからない。

 グリーンドラゴンとの戦いは、少しでもなにかがずれていれば俺は生き残っていなかっただろう。


 ギルドの近くにあるホテルでは冒険者証を見せると、宿泊料金を割引してくれるようだ。

 受付で提示をして、ホテルの受付の人に少し驚かれながらも無事に部屋を取ることができた。

 部屋は1人なら十分くつろげるようなスペースがあり、これなら快適に過ごせそうだ。


 荷物や杖を置いて、バスルームで体を綺麗にする。

 もう夜になりおなかが減ったので、晩御飯を食べるためにホテルのレストランへ向う。

 レストランへ入るとお店の人からご両親はと聞かれたので、1人ですと答えた。

 それを聞いた店員さんは困ったよう顔をする。


「本当にきみ1人できたの?」

「えーっと……」


 店員さんに伝えながら店内を見たら、真央さんが座っているのが見えた。


「すみません、待ち合わせでした」

「わかりました。どちらですか?」

「こっちです」


 俺は店員さんと話しながら真央さんの座っているテーブル席へ進んだ。


「この人と一緒に来ました」


 俺が急に向かいに座ってきて真央さんは驚いてしまい、思いっきり目を開いてこちらを見ている。

 店員さんが去っていった後、真央さんへ謝ってから話をする。


「すみません、なんか1人で入れなさそうだったので、真央さんを見つけて座っちゃいました」

「いきなり来るなよ。心臓に悪い」


 真央さんはそう言いながらも、メニューを渡してくれた。

 俺がどれにしようか選んでいる時、真央さんはテーブルに肘をつきながら聞いてくる。


「お前、あの後なにかあったか?」

「特になにも。真央さんは?」

「お……私はギルドを追い出された」

「だからギルドに人がいなかったんですね」


 メニューから目を離して真央さんを見たら少し顔を赤くしている。

 俺が見ているのに気づき、真央さんは少し睨んできた。


「なんだよ」

「なんでもないです。その調子でお願いします」


 俺がそう言ってメニューを再び見始めたら、軽くため息をつきながら真央さんが話してきた。


「なんでそこまでこだわるんだよ」

「なにがですか?」


 俺はメニューを見ながら真央さんの言葉に耳を傾ける。


「なにがって、呼び方だよ。そんなに俺って呼んじゃダメなのかよ」

「だめっていうより、その方が真央さんかわいいですよ」


 俺が思っていることをそのまま伝える。

 真央さんがなにも言わないので、俺は言葉を続けながらメニューを見る。


「真央さんは美人なんだから、俺って言うよりも私って言った方が似合います」

「そう……なの……?」

「ええ、そうです」


 俺は食べるものを決めたので店員さんを呼ぼうとして顔を上げたら、なぜか耳まで真っ赤に染まった真央さんがいた。

 真央さんのこんな顔を初めて見たので、真央さんの顔を見つめてしまう。


「どうかしたんですか?」

「なにもない! トイレ!」


 真央さんはそう言い放って、お手洗いへ向かってしまった。

 俺はどうしたんだろうと思いながら、店員さんを呼んで注文を伝える。

 しばらくしても真央さんが戻ってこないので、先に真央さんが頼んでいたハンバーグが来てしまう。


(はやくしないと冷めちゃうけど、お手洗いだしな……)


 真央さんへ連絡しようとも思ったが、お手洗いなのでやめておいた。

 それから少し経って、俺の頼んだステーキが来たときに真央さんも戻ってきた。


「真央さん、早く食べないと冷めちゃいますよ」

「わかってるよ」


 真央さんの顔は赤色から元に戻り、いつもと同じような顔に戻っていた。。

 しかし、一緒に料理を食べながら話をしていたら、笑顔が多くなっているような気がする。


 食事が終わり、最後のコーヒーを飲んでいる時に、真央さんへ相談をしてみた。


「真央さん、明日って暇ですか?」

「明日? 用事があるけど、どうした?」

「また樹海へ行きませんか?」


 俺の言葉を聞いて、真央さんは静かに飲んでいたコーヒーをテーブルへ置く。

 その後、俺へ笑顔で言葉を伝えてくる。


「絶対に行かない」

「絶対ですか……」

「というか、お前休めよ」

「今日の夜ちゃんと休みますよ」


 俺の言葉を聞いて、真央さんは深くため息をついた。

 俺はコーヒーが飲み終わったので、伝票を持って会計へ行こうとする。


「じゃあ、今日はありがとうございました」

「待てよ、私が払うから!」


 真央さんはそう言いながら、伝票を俺から奪って歩いていった。

 俺はその後に続いて、会計を終えた真央さんへお礼を言う。


「真央さんごちそうさまでした」

「これぐらい、いいよ。というか、明日は休めよ!」

「おやすみなさい」


 俺は真央さんと別れて、部屋へ向かう。

 部屋に着き、ベッドへ横になるとすぐに睡魔に襲われた。


 次の日、ギルドが朝の7時に開くので、時間を見計らってホテルをチェックアウトしてギルドへ向かう。


 まだ清水さんはおらず、別の受付の人へ富士への樹海行きのバスの時間を聞こうと受付へ近づこうとする。


 視線を感じて後ろを振り返ると、あきれたような顔をした真央さんがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る