富士への樹海攻略編③~蛇から逃げて花と羊~
リヤカーから後ろを見ても、ポイズンスネイクは追ってきていない。
俺はそのことを確認して、今度は自分の体へ意識を向ける。
(いくらヒールをかけても体が重い)
ポイズンスネイクに噛まれてから毒を体へ入れられてしまった。
それでもなお、ヒールをかけて体を酷使した結果、毒が体内に蓄積してしまっている。
(この毒をキュアーで取り除く)
俺はその魔法自体は知っていたが、毒にならないため全く使えなかった。
体力回復力向上Lv10で取得できるはずの、状態異常回復魔法【キュアー】。
今が取得のチャンスだと思い、今の体の状態を良くするように意識を集中し始める。
魔力を体へ循環するイメージを持っていると、体が軽くなってきたような感覚になる。
(少しずつ良くなっているような気がする)
自分の回復に専念している時、前から真央さんの声が聞こえてきた。
「ここで休むぞ」
真央さんはリヤカーを止めて、リヤカーの中にいる俺を覗き込んでくる。
「まだ生きているみたいだな」
「迷惑かけてすみません」
俺が起きようとしたら、真央さんからそのまま寝ていろと言われた。
大人しくそのまま寝ていると、真央さんがリヤカーの側に座りながら俺に話しかけてくる。
「この前は何も言わなかったけど、お前、防具の1つくらいつけろよ」
「防具をつけると甘えちゃうと思うんですよね」
「はあ? 訳がわからないんだけど」
「やっぱり、そうですよね」
真央さんはリヤカーの側に座ったままそれ以上言うことはなかった。
俺は動けるようになったので、リヤカーから出る。
真央さんは俺がリヤカーから出るのを見て立ち上がり、俺の前へ指切りをするように手を出してきた。
俺は戸惑いながら真央さんの方を向くと、心配そうな顔をしている。
「次に危ないって思う攻撃を受けたら、防具をつけろよ」
「……わかりました」
「約束しろ」
「はい」
真央さんから約束を結ばされ、俺はもっと強くなることを決心した。
しばらく歩いていると、急に歩きやすくなってくる。
「真央さん、歩きやすく……」
俺はそう言いながら真央さんの方へ顔を向けたら、真央さんの背後から巨大な花が現れている。
花は直径が2メートルほどあり、中心から花のほとんどが口のように開かれていた。
真央さんはまだ後ろの花に気付いていないので、真央さんへ杖を振り上げながら駆け寄る。
「ん? どうした?」
「どいてください!」
花は茎をしならせて、今にも真央さんへ襲いかかろうとしていた。
襲いかかってくる花を杖で弾き返す。
この花も弾力があり、杖では有効打を与えられそうにない。
俺は弾いた花を確認してから、真央さんへ指示を出す。
「真央さん進んで!」
真央さんは俺の声を聞いて、素早くリヤカーを引いていった。
俺は花の攻撃が届かない範囲まで離れてから、真央さんへ状況を説明する。
「たぶん、バルーンフラワーの生息地に入ってしまったようです」
「バルーンフラワーか……」
バルーンフラワーは普段花に擬態しており、獲物が近くづいた時に大きく膨らんで飲み込もうとしてくる雑食の植物系モンスターだ。
ただ、移動はしないのでポイズンスネイクよりは安全なモンスターである。
(ここにはバルーンフラワーがいるから、他のモンスターを一切見かけないな)
それを確認して、俺は真央さんへ提案したいことができたので話しかける。
「真央さん、バルーンフラワーで魔法の練習をしてもいいですか?」
「いいよ。俺はどうすればいい?」
「ここ一帯にはバルーンフラワーの根が張り巡っていると思うので、周囲の警戒をお願いします」
「あいよ」
真央さんがうなずいてくれたので、俺はバルーンフラワーを相手にしてファイヤーアローを撃ち込み始めた。
バルーンフラワーはよく見ないと判別できないため、何度か襲いかかられそうになり、その度に杖で弾く。
魔法を撃ち続けている最中に、バルーンフラワーの茎にファイヤーアローを当てた方が早く倒せることに気が付いた。
さらに、バルーンフラワーを茎に魔法を当てて倒すことができれば、花の部分が回収できる。
(これで、30個目のバルーンフラワーの花だ)
バルーンフラワーを倒し続けて、ようやくファイヤーアローのLvが5になった。
ファイヤーアローのLvは紙で判定するまでもなく、発射される矢の本数がそのままLvなので、簡単にわかる。
そのため、今の俺は1度ファイヤーアローを唱えると5本の矢が飛んでいくようになった。
真央さんへ30個目の花を渡し、周囲を見渡してももうバルーンフラワーらしき花はない。
最初は花に当てて倒していたため、少なくとも50本以上はこの周辺にいたらしい。
(バルーンフラワーの群生地にくることができてよかった)
真央さんは最初バルーンフラワーの花を受け取る時には緊張していた様子だったけれど、今はもう安全だと思ったようで、片手で受け取るとリヤカーの中へ放り投げている。
バルーンフラワーが見つからなくなったので、森を進んでいた時、前に白い塊が動いているのが見えた。
真央さんを片手で制止させて白い塊を注意深く見ると、メルルシープだった。
○
白い弾力のある毛で覆われているメルルシープには打撃系攻撃がほとんど効かない。
そのかわり、毛を火などで燃やすと発狂してしまい、弾丸のように突進してくる。
【メルルー】と鳴くので、メルルシープと名付けられている。
○
俺はメルルシープを確認して、どのように倒すのか考え始めた。
1匹のメルルシープが現れた方向から、メルルシープがどんどん増え始めている。
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