富士への樹海攻略編②~樹海の洗礼~
樹海へ足を踏み入れてしばらく歩いていたら、このダンジョンの困難なところが分かり始めてきた。
まず、この場所にあまり人が踏み入れた痕跡がないため、土が木の根で盛り上がっており、草木が進路と視界を邪魔してくる。
そして、未だにモンスターと遭遇せず、どこからくるのか神経を尖らせ続ける精神力が必要になった。
真央さんには俺が安全確認をした道を通ってきてもらっている。
(真央さんもリヤカーを引くのが辛そうだ)
俺が真央さんへ気を向けていた時、頭上から何かが落ちてくるような音が聞こえた。
音のした方をとっさに見上げると、太長い木のようなものが落ちてきている。
とっさに避けて、落ちた物体を確認しようとした時、もう相手はこちらへ向かって動いてきていた。
持っていた杖で迎撃すると、分厚くて弾力のあるものを打ったような感触が伝わってくる。
相手は長くて太い緑色の体にまだら模様があり、口から長い舌を出した蛇のようなモンスターだった。
(ポイズンスネイク……)
俺はポイズンスネイクを確認して、真央さんへ近づかないように注意する。
「真央さん、こいつはポイズンスネイクです。毒を持っているので、離れてください!」
「わかった!」
真央さんは少しずつ後退していき、俺はポイズンスネイクと対峙する。
ポイズンスネイクは俺の攻撃に警戒しているのか、こちらの様子をうかがっているように見える。
しかし、それは俺を油断させるもので、俺の横からポイズンスネイクの尻尾が迫ってきていた。
気づいた時には遅く、俺の頬に尻尾が当たって、よろけてしまう。
ポイズンスネイクはその隙を見逃さずに、俺の胴体を狙って噛みつこうとしてくる。
(避けられない、なら!)
俺は体勢を整えることができずに、ポイズンスネイクに噛みつかれるのを覚悟した。
ただ、噛まれるだけで終わりにせず、ポイズンスネイクに噛みつかれる前に杖を振り上げておき、噛みつかれてから思いっきりポイズンスネイクへ叩きつけようと判断した。
ポイズンスネイクは俺の右腹に噛みついてくる。
杖で叩きつけても、胴体の肉質に弾力があり、物理攻撃が効きにくい。
いくら杖で攻撃をしても、ポイズンスネイクは俺の胴体から離れようとしない。
逆にポイズンスネイクは噛む力を強くしてくる。
噛まれたところから自分の体が蝕まれているような感覚がしてきた。
俺はヒールを使用して、無理やり身体を動かす。
今度はポイズンスネイクを振り払うように横からブレイクアタックを行っても、ポイズンスネイクは俺の腹から離れない。
(こうなれば倒すまでやってやる!)
俺は痛む身体を酷使して、同じところへバッシュを叩き込み始めた。
何度かバッシュを叩き込んだ時、腹から全身の力が抜けてきているような感覚が広がってきている。
(これが毒状態か)
ポイズンスネイクはその名の通り毒を持っており、こちらを毒状態にしてくる。
そして、俺の全身には完全にポイズンスネイクの毒が回ってしまった。
そんな時、乾いた弾ける音とともに、ポイズンスネイクの身体が一部削れる。
音が聞こえた方を見たら、真央さんがショットガンを持って構えていた。
ポイズンスネイクは俺よりも真央さんを脅威に感じたのか、俺から離れて真央さんの方へ向かっていく。
俺はポイズンスネイクを追おうとしたが、体が思うように動かず、その場へ膝をついてしまった。
真央さんはポイズンスネイクから離れようと走っても、足場が悪くてポイズンスネイクの方が速い。
俺は真央さんを助けるために望みをかけて杖に魔力を込めながら、祈るように魔法をイメージして名前を唱える。
「ファイヤーアロー!!」
俺が魔法を唱えた瞬間、杖の先から炎の矢が放たれた。
ファイヤーアローがポイズンスネイクへ当たり、バッシュをあれだけ叩き付けても倒れなかったポイズンスネイクの頭と胴体が分かれて一発で倒せてしまった。
(魔法効率が良いからって、これは強すぎる……)
ポイズンスネイクは頭がなくなった状態で動かなくなり、その後ろでは真央さんが尻餅をついたように座り込んでいた。
真央さんの無事を確かめるために真央さんへ近づこうとしたら、左右から動く影のようなものが見え始める。
俺は真央さんのところまで、重い身体を引きずるように動かしながら近寄った。
真央さんは立ち上がって、周りの異変に気付き始めているようだ。
「真央さん、どうやらここはポイズンスネイクの巣のようです」
「巣だって?」
改めて自分のいる足元をよく見ると、いたるところに這いずったような跡があった。
俺は真央さんを守るように杖を構えて、四方から迫りくるポイズンスネイクの迎撃を始めた。
「ファイヤーアロー!」
ポイズンスネイクは素早く左右に動きながら迫りくるため、ファイヤーアローを当てるのが難しい。
そのため、杖で頭を横から殴ってから、少し怯んだところへファイヤーアローを当てることにした。
それでもすべてのポイズンスネイクを捌き切ることはできないため、俺の足や腹など数ヶ所を噛みつかれてしまう。
(噛みついていられるものならやってみろ!)
俺は決心して、噛み付いてきたポイズンスネイクへファイヤーアローを唱えた。ポイズンスネイクにファイヤーアローが当たると、密着していた俺も爆風の余波を受けて後ろに吹き飛んでしまう。
地面に叩きつけられた衝撃で、意識を失いそうになる。
地面に倒れながら真央さんの方を見たら、真央さんも近づいてくるポイズンスネイクへ銃で応戦していた。
しかし、背後から近づいてくるポイズンスネイクには気づいていないようだった。
俺は気づかせるためにファイヤーアローを使おうとしても、もう魔力が残っておらず、杖に魔力を込められない。
魔法が使えないのが分かり、俺は杖を置いて体に残っているすべての力を使うように真央さんへ向かって走り出す。
真央さんの背後から今にも襲いかかろうとしているポイズンスネイクの口へ俺の右腕をねじ込んだ。
俺の右手に噛み付いたポイズンスネイクはそのまま俺に巻きつこうとしてくる。
真央さんは後ろの騒ぎに気づき、俺を確認してから俺に噛みついているポイズンスネイクを持っていた銃で撃とうとしていた。
「こっちは大丈夫です。真央さんは他の敵をお願いします」
「大丈夫じゃないだろう! すぐに撃つからどけ!」
真央さんがこちらへ銃を向けようとしているので、魔力が少しは回復したと思い、俺は巻きついてきているポイズンスネイクへファイヤーアローを撃ち込もうとする。
「っ!! ファイヤーアロー!」
しかし、俺がいくら手に魔力を込めようとも、ファイヤーアローは発動しない。
「どけ!」
俺の魔法が発動しないのを確認した真央さんは、銃をこちらへ向けて、俺の体を無理やりにでも押し退けようとしてきた。
俺は真央さんの銃を効果的にするため、左腕もポイズンスネイクへ突っ込み口をこじ開ける。
俺が口を開けるのと同時に、真央さんは発砲してポイズンスネイクを倒した。
「お前、動けるか?」
「ちょっと厳しいです」
ポイズンスネイクの波が一旦収まり、真央さんはすぐに俺へ提案をする。
「もう帰還石を使うぞ」
「まだ帰りたくないです」
「そんなことを言っている場合か!?」
俺は真央さんの目を見つめて、帰りたくない意思を示す。
再びポイズンスネイクが現れ始めて、観念したように真央さんが俺へ確認をしてきた。
「棒は?」
「あそこに」
真央さんは俺の杖の位置を確認してから、いきなり俺を肩で担ぐ。
そして、俺を担ぎながら走り始め、ポイズンスネイクの攻撃を避けながら杖までたどり着いた。
「持ってろ」
「はい」
「後ろから追ってくるやつを追い払うくらいできるか?」
「任せてください」
俺は真央さんに担がれながら杖を受け取り、真央さんを追ってくるポイズンスネイクへファイヤーアローを撃って進行を遮る。
真央さんはリヤカーまでたどり着くと、俺をリヤカーの中へ放り投げてからリヤカーを引き始めて、その場を離れた。
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