富士への樹海攻略編①〜初のダンジョンへ〜

 俺はあるダンジョンへ向かうバスへ乗りながら一冊の本を読んでいる。

 バスへ乗り込む前に、これから行く場所に関する情報が記載してある本を購入していた。

 今目指しているダンジョンの名は【富士への樹海】。

 本にはそのダンジョンの詳しい内容が書かれていた。


 ダンジョン【富士への樹海】は霊峰富士を囲むように存在している森林群。

 1度入ると方向がわからなくなるため、帰る時には帰還石を使わなければ帰れない。

 この樹海を抜けたものは現在確認できていない。

 そのため、霊峰富士に足を踏み入れた人類は未だに1人たりともいない。

 上空から突入しようとしたヘリが、富士山の火口から出てきた白いドラゴンの攻撃により落とされた。

 このことから、富士山にはドラゴンが住んでいると言われている。


(富士の樹海がダンジョンになっているのか……この本にはモンスターについては載っていないな……)


 俺は読んでいた本をリュックへ入れて、斜め後ろに座っている真央さんへ話しかけようとして止めた。

 真央さんは寝ているようで、反応してくれないことが予想できる。


 今日は俺たちの他にもバスに乗っている冒険者が数名いた。

 各所からこれからのダンジョンアタックについて話が行われている。

 しかし、俺と真央さんはバスの中でなにも相談もしていない。

 バスへ乗る前に、少しでも今日の狩りについて相談しようとして話しかけた。

 だが、真央さんから今日もお前が暴れるだけだろうと言われてしまった。


(今思い出しても、なぜか納得できない)


 そのため、バスでの移動中にやることが無いので、俺はバスに乗る前に本を買ってきて読んでいた。

 時計を確認したら、まだ目的地に着くまで時間の余裕がある。


 今度はスマホで情報を集めることにした。

 しかし、スマホで見つけた情報も、本に書いてある以上のことが載っていない。


 次に俺は杖を手に入れたので、杖で取得したいスキルをまとめ始めた。


杖熟練度Lv3⇒ファイヤーアロー

杖熟練度Lv5⇒ライジングボルト

杖熟練度Lv10⇒テレポート


 スキルを確認してしまうと、本格的にやることが無くなる。

 なので、俺も真央さんと同じように目的地へ着くまで寝ることにした。



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 しばらく寝ていると、頭に軽い衝撃を感じた。

 その方向を見たら、真央さんが呆れながら俺を見ている。


「どうしたんですか?」

「俺、ダンジョンへ行く前にそんな熟睡しているやつを初めて見たよ」

「真央さんも寝ていませんでした?」

「俺は緊張して目を閉じていただけだ……」

「緊張します?」

「2人でしか行かないんだから当たり前だろう」


 真央さんは俺へはやくバスを降りるように言ってから、先にバスを降りてしまった。


(真央さんが寝ていないのがわかっていたら話しかけていたのに残念)


 少し残念な気持ちを持ちつつ、俺もバスを降りる。

 周りを見てみたら、他のPTはもう準備を終えて出発しているようだった。

 真央さんも防具などの準備を終えて、俺を待っている。

 真央さんのリヤカーを見て、この前の物と違うことに気が付いた。

 俺は真央さんへ近づきながら、真央さんにそのことを確認する。


「真央さん、リヤカーを替えました?」

「お前が狩りすぎるから、大きくて丈夫なやつに替えたんだよ」

「ありがとうございます」

「いいって、それよりもお前、本当にその棒で戦うのか?」


 真央さんは俺が武器を杖に替えたと伝えた時から、あまり良い顔をしてくれていない。

 後、1つ訂正しなければならないことがあるので、真央さんへ伝える。


「これは棒じゃなくて、杖です」

「みえねぇよ……」


 真央さんは細い先端に布を巻いているのを見て、ぜんぜん杖に見えないと言う。

 この話は俺が戦う姿を見るまで真央さんは信用しないだろうと判断して止めることにした。


 それよりも俺は真央さんへ渡すものがある。

 昨日の武器屋で買った小刀は解体用のナイフで、これも全ミスリル製のものだ。

 俺はリュックサックから、そのナイフを真央さんへ渡すために取り出す。


「真央さん、渡すものがあります」

「? なんだよ」

「このナイフを受け取ってください」

「ん? ナイフなら自分のが……」


 真央さんは話しながらナイフを受け取り、刃を見て言葉を続けなかった。

 それよりも、ナイフを日の光に当てた後、刃を手で触って何かを確認している。

 そして、何かを確信したようで、俺に恐る恐る聞いてきた。


「お前、これもしかしてミスリルか?」

「そうです。純ミスリルの解体用ナイフです」

「こんな高い物受け取れねぇよ!」


 俺の言葉を聞いて真央さんは、俺へナイフを押しつけて返そうとしている。

 俺は真央さんがナイフを持っている手を両手で握り、真央さんの目を見つめた。

 真央さんは俺の目を見て、落ち着かない様子でまばたきが速くなっている。


「これは真央さんへのお礼です。受け取ってください」

「でも……」

「俺はこれを真央さんのために買ってきたので、真央さんが使わないなら捨てます」

「そんなこと言うなよ……わかったもらう!」


 最後は真央さんがナイフを受け取ってくれたので、俺は安心した。

 真央さんを見てみると、俺が渡したナイフを大切そうにもっていたポーチへ入れてくれている。


(これで、樹海へ入る前にやることは終わった)


 俺はまだ抜けた者がいないと言われているダンジョンを見つめる。

 真央さんもリヤカー持って、準備ができたようだ。


「行きましょう」

「ああ、行こう」


 俺は日の光がほとんど入らない樹海の中へ足を進め始めた。

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