富士への樹海攻略編④~メルルシープの贈りモノ~
真央さんへその場に残ってもらって、最初に発見したメルルシープへ挑発をかける。
挑発は声を出さなくても、相手へ殺気を送るイメージを持てば発動することが分かっていたので、練習することにした。
俺が殺気を送ったメルルシープは俺に気が付き、白い体を揺らしながら4本の足で走ってくる。
俺はメルルシープを引き付けて、新しい魔法を唱えた。
「ライトニングボルト!」
唱えると魔法が発動して、杖から黄色い雷が束になって放出される。
火では燃えてしまう毛も雷なら燃えないと考えて使ってみた。
しかし、雷が当たった部分が発熱してしまったようで、メルルシープの白い毛が燃えてしまっている。
毛が燃えたメルルシープは、体を赤く染めて今までの数倍のスピードでこちらへ突っ込んでくる。
俺は突っ込んでくるメルルシープに合わせて、頭をめがけて杖でバッシュを行った。
杖とメルルシープが激突すると、反動で俺は後ろへのけぞってしまう。
(しまった!)
慌てて体勢を整えてメルルシープを見ると、頭が杖の形に陥没している。
(メルルシープは杖のバッシュ一撃で倒すことができるのか)
1匹目のメルルシープを倒したのを確認してから、メルルシープの現れた方へ顔を向ける。
そこにはメルルシープの群れが見えるようになっており、俺は1匹ずつ処理していくことにした。
一気に来られたら、おそらく処理しきれずに頭突きを思いっ切り受けてしまうだろう。
そのため、群れから少し離れては1匹に挑発を行い、頭へバッシュを叩き込むという作業を慎重に行なった。
15匹目のメルルシープを倒したら、群れはどこかへ行ってしまったようだった。
真央さんへ最後のメルルシープを持っていくと、忙しそうに解体を行なっている。
「真央さん、これで最後です」
「そこに置いておいてくれ」
そこと言われた場所を見ると、メルルシープが数匹置かれているところがある。
俺はメルルシープを置いてから、周りを注意しつつ休憩を取った。
(あいかわらず、真央さんの解体は正確で速い)
そういえば、ギルド長も真央さんの解体技術を知っているようなことを言っていたので、理由を聞きたいと思った。
真央さんが目の前のメルルシープの解体を終え、次の解体に取りかかる時に話しかける。
「解体中すみません、真央さん今大丈夫ですか?」
「どうした?」
「真央さんってなんでそんなに解体が上手なんですか? それに、なんでギルド長もそれを知っていたんですか?」
「質問が多いな」
真央さんはそう言いながら、次のメルルシープの解体を始めてしまう。
しかし、解体を行いながら俺へ話しかけてくれた。
「俺の行っていた冒険者学校は、解体とかの実習があるんだよ」
「そんなことも勉強するんですね」
「ああ、それで解体の大会みたいなやつで優勝したから、ギルド長も知っていたんだと思う」
「すごいですね優勝ですか」
「県大会だけどな。全国大会は自分で狩りもしなきゃいけないっていうから、出るのを止めた」
「どうしてですか?」
「俺あんまり戦えないし」
もう少し話を聞こうとしたら、真央さんはメルルシープの解体をすべて終えてしまっていた。
切り分けた素材を真央さんと一緒にリヤカーへ載せる。
ただ、真央さんが自分は戦えないと言っていても、俺は真央さんが戦えると思うので、最後に真央さんへ伝える。
「真央さんは普通に戦えると思いますよ。助けられた俺が保証します」
「……ありがと」
真央さんはそう呟いて、リヤカーを引いて歩き出す。
俺は安全を確認するために、真央さんの前へ行くために走り出そうとしていた。
そんな時、急に辺りが暗くなってしまった。
周りを見渡しても、なにもない。
(上か!)
どんどん周りが暗くなっていくので、上から何か来ていると考えて、上を見ると大きな何かが降りてきている。
(急がないと押しつぶされる!)
俺は真央さんを確認して、外へ出るように声を出す。
「真央さん、上から何か来ています! 急いで離れてください!」
「上!?」
真央さんも上を見て、その物体を確認したようだった。
急いでリヤカーを引こうとしているが、メルルシープでリヤカーが重くなっているようだ。
俺はリヤカーの後ろを押して、真央さんを早く移動させる。
「真央さん、俺も後ろから押します」
真央さんはその声に答えることなく、全力でリヤカーを引いて影から離れることができた。
肩を上下させながら息をしている真央さんは、離れて改めて見た巨大な物体をみてこう言った。
「まずい、グリーンドラゴンだ……」
「グリーンドラゴンですか」
「すぐに帰還するぞ」
真央さんはすぐに帰還石を取り出して、帰還しようとしていた。
俺は真央さんの手を握って、真央さんの目を見つめながらある提案をする。
「真央さん、賭けをしませんか?」
「は?」
俺の言葉を聞いた真央さんの顔は、今まで見たことがないくらい怒るように眉を寄せて厳しくなっていった。
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