拳士の休日⑤〜校内戦〜(谷屋花蓮視点)

 それは昼休みが終わってからすぐの授業中に聞こえてきた。


「こんにちは、みなさん! 今日は良い大会日和ですね!」


 聞いたことのあるような声がグラウンドから届いてくる。

 クラス内が騒ぎ始め、窓際のクラスメイトは窓からグラウンドを見ていた。


(今、グラウンドでは1年生が武術大会を行っているはず)


 私も何が起こっているのかわからないので、グラウンドの方へ視線を移してしまう。

 そんな時、授業を担当している男性の先生が私たちへ静まるように声を出している。


「君たち、静かにしなさい今は授業中だ!」


 私たちがその言葉に従いって静かにしようとした時、またもやグラウンドから声が聞こえてくる。


「今日の大会で俺に勝った人は、スキルができるようになるまで俺がつきっきりで教えましょう!!」


 この言葉を聞いて、私には今グラウンドで大きな声を出しているのが誰だかわかった。

 私は今すぐに窓際へ駆け寄って、声を出している人を確認したい。

 しかし、生徒会長という立場が私を縛るため、授業中に勝手なことはできない。


 そんな中、今の言葉を聞いて数人のクラスメイトが窓際へ行ってしまう。

 私たち3年生は、スキルを覚えられるか覚えられないかの瀬戸際にいるため、先ほどの言葉を聞くとどうしても興味が出てしまう。


「スキル1つに3年もかける必要なんてない! 俺がすぐに教えよう!! どうだ!?」


 次のこの言葉が聞こえた時、クラスのほとんどの生徒が窓際へ集まる。

 もう、先生もグラウンドで何が起こっているのか気になっている様子だった。


 グラウンドでは1年生が佐藤くんを囲むように怒りや憎しみの叫び声を出している。


(それはそうだ。いきなり楽しみにしていた大会をめちゃくちゃにされたらこうなるに決まっている)


 佐藤くんを見ていたら平然としており、彼がいつも持っているリュックサックの中から何かを取り出している。

 そのなにかをテントの方へ置いて、もう1度新入生へ向いて叫び出した。


「そして、優勝賞金は500万だ!! やる気が出たか!!??」


 私たちは身を乗り出すようにその様子を見始めた。

 この位置からでは本当にお金があるのか見えない。

 しかし、1年生の反応を見る限り、本当にお金が置いてあるに違いない。


(優勝したら500万円? 佐藤くんはどこでそんなお金を用意したの!?)


 グラウンドからは憎悪が込められてさらに大きく怒号が聞こえていた。

 そんな中を佐藤くんは棒のようなものを持って、グラウンドの中央へ向かって歩き出している。

 佐藤くんがグラウンドの中で止まるとすぐに校長先生の声が聞こえてきた。


「試合開始!!」


 その合図と共に1年生が全員一直線に佐藤くんのところへ向かっている。

 私はその光景をみて、直観的に一直線で向かっている1年生の心配をしてしまった。


(なにか嫌な予感がする……)


 私はそう思い、何が起こるのか不安でグラウンドで起こっていることから目が離せない。

 一番近くにいた集団が佐藤くんへ近づいてゆく。


「危ない!」


 私の声をかき消すように、金属同士の当たる音が学校中に鳴り響いた。

 その音とともに、先頭を走っていた生徒が放物線を描きながら吹き飛ぶ。

 その光景を見た私は、飛んでいる生徒の生死を心配してしまう。


(あんな風に人が飛ぶのを初めて見た)


 佐藤くんは人を吹き飛ばしたのを気にすることなく、持っている棒で次々と1年生を吹き飛ばしている。

 クラスメイトから、あれがスキルなのかという声が聞こえてきていた。

 しかし、私はあの攻撃がスキルによるものではないことがわかっている。


(スキルならもっと強いはず)


 私には今佐藤くんがしていることは、棒を思い切り振っただけのように見えた。


(佐藤くんがスキルを使ったらもっと強い攻撃になるはず)


 あの日、佐藤くんがメイスを使って行ったバッシュの迫力は今も目に焼き付いている。

 それをメイスよりも長く、重そうな棒で行ったらあの程度ではない。


 私がそんなことを考えている最中に、佐藤くんは1年生の蹂躙を始めてしまう。

 佐藤くんの攻撃範囲内に入ってしまった1年生は、何もすることができずに弾き飛ばされて倒れている。


(佐藤くんと同じようなことを自分にはできるだろうか)


 私は2年前のこの大会で優勝のチームに入っていた。

 それから腕を磨き続けて、佐藤くんが現れるまではこの学校で一番強いと言われていた。


 今年の入学ガイダンスでの出来事を知らない在校生はいない。

 あの日に3つのスキルを認定された佐藤くんと、私のどっちが強いのかという話が学校のいたるところでされている。

 しかし、私は佐藤くんと同じように丸太を相手に剣を振っていても、いまだにバッシュを発現できていない。


(私にはお姉ちゃんのような剣の才能はないのかな……)


 私が常に目標にしている姉。

 姉は去年の全国剣術大会で入賞し、騎士大学校へ特待生で入学した。

 いつも、そんな姉と私を比べてしまう。

 悔しさでうつむいてグラウンドから目を離した時、グラウンドからまた佐藤くんが話を始める。


「2・3年生のみなさん! 俺に勝てばスキルを教えますよ! 勝負しましょう!」


 その言葉に自分が抱いていた悔しさを忘れ、グラウンドをもう1度見てしまう。

 佐藤くんは1年生をすべて倒した後に、校舎へ向かって話を始めていた。

 クラスメイトから、行くのか行かないのか相談している声が聞こえてくる。


(行こう!)


 私はすぐに防具を着けて、剣と盾を持ってグラウンドへ向かおうとした。

 その様子を見たクラスメイトから声をかけられる。


「谷屋さん行くの?」

「ええ、行くわ」

「えっと……死なないでね……」

「もちろん!」


 遠くから救急車のサイレンが聞こえている。

 学校の誰かがこの惨劇を見て呼んだのだろう。

 私は持っている勇気を振り絞って、グラウンドへ向かう。


 私がグラウンドに着くと、他にも佐藤くんへ挑戦した在校生がいたらしい。

 佐藤くんの周辺にみたことがある生徒が倒れていた。


 私が佐藤くんに近づいていたら、彼も私がわかったようだ。

 目を合わせると佐藤くんはいつものように笑っていた。


「あ、谷屋さん。挑戦ですか?」

「ええ、そのつもりよ」

「ご覧のとおり、手加減なんてしないのでよろしくお願いします」


 佐藤くんは両手を広げて、救急車へ運ばれている生徒や倒れている周りの生徒を見ながら私へ言ってくる。


(上等よ)


 私は姉にプレゼントされた剣を鞘から抜き、盾を構えてから佐藤くんへ声をかける。


「負けないから」

「いつでもどうぞ」


 佐藤くんは棒を構えようともせず、私の攻撃を待っていた。

 私はそんな余裕を浮かべている佐藤くんの体をめがけて剣を振る。


「残念」


 私をあざ笑うかのように佐藤くんはそう言いながら私の剣を避けて、棒を振ってきた。

 私は棒の軌道を予測して、盾を構える。

 ガキンと金属が当たる音がして左手に衝撃が走ってから、私は自分が空中にいることに気付いた。


(体勢を整えないと!)


 地面に落ちるまでの刹那の間で、自分の体を着地できるように立て直す。

 なんとか無事に着地することができて安心していたら、佐藤くんが微笑みながら歩いてこちらへきている。


「さすがですね。他の人と違って一撃では倒れませんか」

「当たり前でしょ」


 言葉とは裏腹に私は左腕の感覚が無くなっていた。

 それでも佐藤くんへ立ち向かわなければならない。


(こんなところで心が折れたらお姉ちゃんに絶対に追い付けない!)


 私は剣を握りなおして、歩いてくる佐藤くんへ剣を振るう。

 またも佐藤くんには当たらず、佐藤くんは棒を振り上げている。

 私は上から攻撃が来ると判断して、横へ全力で逃げる。

 佐藤くんの棒が地面に当たると衝撃が私のところまで伝わってきた。


(当たったら死にそう……)


 でも、今がチャンスだと思い、佐藤くんへ向かって剣を向けた時、もう佐藤くんは攻撃体勢に入っていた。


(構えるのが早すぎる!)


 私はとっさに盾で身を守ろうとしても、佐藤くんの攻撃で盾が割れて棒が防具の上から脇腹へ食い込んできた。

 棒が当たった場所から自分の体が崩れ落ちそうになる。

 剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がると、佐藤くんが感心するようにこちらを見ていた。


「谷屋さんはすごいですね。ここまでしぶといとは思わなかったですよ」


 その言葉を返せるほどの余裕はなく、私は剣を持って立つのがやっとだった。

 そんな風に言ってくる佐藤くんをみていたら、だんだん怒りが湧いてくる。


(なんでこいつはこんなに笑顔で人をいたぶれるの……)


 口ではこちらを称賛しているけれど、彼は常に自分が優位な立場でこちらを見下しているように思えた。

 そう思うと私は何がなんでも彼に一矢報いなくてはならない。


(体中の力を剣に込めて、彼の攻撃に合わせて打ち込む!)


 足が動かない私にはそれしか方法がない。

 それを分かっているのか、彼は思い切り踏み込んでこちらへ棒を振ってきた。

 私もそれに合わせて今残っているすべての力で、剣を振る。


 剣と棒が当たる衝撃に耐えられず、私は剣と一緒に吹き飛ばされる。

 意識を失う直前に見えたのは彼が笑顔でこちらをみている顔だった。



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 目が覚めると白い天井が見えた。

 目を覚ましたことに誰かが気付いたのか、私へ語りかける声が聞こえる。


「花蓮!? 目が覚めたの?」


 そこにはお姉ちゃんがいて、私を心配そうに見つめていた。


「おねえ……ちゃん……?」

「そうよ、私よ。心配したんだからね」

「ごめん、ありがとう」


 お姉ちゃんの話を聞くとここは病院で、お姉ちゃんは今日用事でたまたま第1地区に来ていたらしい。


「目が覚めたことを看護師さんへ伝えてくるね」

「ありがとう、お願い」


 姉はそう言い、病室を出ていった。

 ふと、横を見ると自分の鞄が置いてあった。

 私は鞄の中にいつも入れている簡易スキル判定シートを取り出して、スキルを確認しようとする。

 シートを取り出して、舌で軽くシートを湿らせた。

 最近は毎日のように確認をしているので、いつもと同じものしか出ないだろうと思っていた。

 しかし、目の前のシートに表示されたものをみて、私の目から涙が溢れてきた。

 泣き続けていたら、病室に戻ってきた姉にもう1度心配されてしまう。


スキル判定結果


体力回復力向上

剣熟練度

バッシュ


以上

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