拳士の休日④〜一也の登校〜

 学校へ電話をしたら、担任の話す前に事務員の人が電話に出て、1年Cクラスの担任の先生へお願いしますと言ったところ、担任の先生の名前が田中先生ということが分かった。

 田中先生が電話に出てくれて、俺は今から学校へ行くことを説明する。


「佐藤くん、今から来るの?」

「今から行こうと思っています」

「そう……」


 田中先生は電話越しに言葉をつまらせて、少し考えているようだ。

 そして、考え終わったのか、スマホから声が聞こえてくる。


「今日の午前中は学力テストだったの」

「そうなんですか」

「それで、午後から武術大会なんだけど……くる?」

「すぐに行きます!」

「参加するなら、13時から始まるからそれまでに……」

「わかりました!」


 田中先生はまだなにか話そうとしていたけれど、俺は言葉の途中で返事をして電話を切った。

 区役所付近で適当に昼飯をすませて、俺は制服に着替えるために家へ急いで帰宅した。


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 制服を着て学校へ向かったら、校門のところに田中先生が立っていた。

 俺は姿勢を正して挨拶をする。


「こんにちは」

「こんにちは。佐藤くん……」


 挨拶を終えて田中先生の方を見るとなぜか表情が暗い。

 どうしたのか聞こうとしたが、先に田中先生が口を開く。


「今はみんなグラウンドにいるから、一緒に行きましょう」

「わかりました」


 俺は電話で武術大会と聞いた時から気持ちが高ぶっていた。


(こういうイベントで友達ってできるんだよな)


 学校祭とか体育祭などの学校行事で友達との仲が深まると聞いたことがある。

 ゲームを始めた時からは、時間の無駄だと思って全部休んでいたため、まともに中学校の行事に参加するのは初めての体験だ。

 自然とグラウンドへ向かう足が軽くなる。

 武術大会と聞いていたため、今日買った杖をおまけでくれた袋に入れて持ってきた。


 田中先生と一緒にグラウンドへ着いたら、そこには数百名が防具を着けて武器を持っている姿が見えた。


(イベント戦みたいだ……)


 こんな大人数が戦う準備をして1ヶ所で待っているのは、ゲームでも滅多にあることではない。

 俺は興奮し始め、田中先生へこれがどういう大会なのか聞いてみたくなった。


「先生、これはどんな大会なんですか?」

「これは全国の剣士中学校が行っている大会で、新入生が全員一斉に戦いを始めるの」

「一斉にですか……」


 田中先生に大会のことを聞いたら、バトルロイヤル形式の大会だった。


「今はチームを作っている時間よ」

「チーム……」

「さすがに1対全員だとなかなか終わらないから、10人くらいのチームを作るのが基本ね」

「……」

「今回の大会で勝ち残るとチーム名が全国に公表されるの」

「そんなことになるんですね」


 このバトルロイヤルに勝ち残ったチームは、全国の剣士中学校で公表されるそうだ。

 チーム名の下には、個人の氏名が記載されるらしい。


「ちなみに、チームを組む時間は後どれくらい残っていますか?」

「後3分くらいね」


 田中先生は左腕に着けていた時計を見ながら教えてくれた。

 俺は3分と聞き、チームを作るのを諦める。


(それなら、このイベントを盛り上げよう!)


 俺はそう思って、田中先生へもう1つ質問をした。


「先生、この大会の開始を合図する場所ってどこですか?」

「え? えっと、あそこのテントで校長先生が行うわ」


 田中先生がグラウンドの奥にあるテントを見ながら教えてくれた。

 俺はそれを聞き、テントへ向かって歩き出す。


「ちょっと、どこへいくの?」


 いきなり俺が歩き出して、田中先生は焦りながら追いかけてくる。

 俺にはこのイベントが盛り上がるようなことがいくつか思い浮かんだ。

 グラウンドを歩いている最中に、何人かの生徒が俺に気付き、それが全員に広がるのは時間の問題だった。

 俺がテントに着くと校長が驚きながら俺へ言葉をかけてくる。


「こんにちは、佐藤くん……今日はどうしたのかな?」

「こんにちは、校長先生。大会開始の合図をするものはどこですか?」


 俺は校生の質問に答えることなく、自分の質問を投げかける。

 すると、校長は素直に1本のマイクを見せてくれた。


「これで私が開始と言うと、大会が始まるんだ」

「わかりました。すみませんが、少し貸してください」

「あ、ああ、どうぞ……」


 俺は恐る恐る渡してくる校長からマイクを受け取り、マイクのテストをした後、グラウンドへ響きわたるように叫ぶ。


「こんにちは、みなさん! 今日は良い大会日和ですね!」


 何が起こっているのかわからないのか、テントにいる教員の人を含めて、グラウンドへいる全員が俺を見ているのが確認できた。

 その中には、見学に来ていた保護者もいたため、丁度良いと思い、俺はイベントを盛り上げるために声を張り上げる。


「今日の大会で俺に勝った人は、スキルができるようになるまで俺がつきっきりで教えましょう!!」


 俺の言葉を聞いた全員がざわつき始めた。

 その様子を俺はほほえましく見ている。

 ざわつきを更に大きくさせるように、言葉を続けた。


「スキル1つに3年もかける必要なんてない! 俺がすぐに教えよう!! どうだ!?」


 するとグラウンド中から叫び声が発せられる。


(これこれ、この反応が欲しかったんだよ)


 俺はこの大会を通じて友達ができるようになるために、大会を盛り上げなくてはならない。

 楽しい学校行事じゃなければ参加してもつまらないし、交流なんて生まれないだろう。


 俺は次にリュックサックに残っていたお金を校長の前に思いっきり置く。


「そして、優勝賞金は500万だ!! やる気が出たか!!??」


 その瞬間グラウンド中から溢れんばかりの歓声が聞こえる。

 俺は盛り上がり方を眺めて満足したため、校長へマイクを返した。


「さあ、校長先生、開始の合図をお願いします」

「あ、ああ。ありがとう……」


 校長は目の前の出来事が理解できていないのか、言葉をかろうじて出していた。

 マイクを校長へ渡した俺は、グラウンドの中央へ向かい始める。

 校長は俺のことを待っており、俺が立ち止まってすぐに開始の合図を出した。


「試合開始!!」


 その言葉を聞いた生徒の大軍が一直線に俺のところへ向かってくる。

 俺はバフ魔法をすべてかけて、杖の先端を力強く握る。


(俺は戦うときは常に本気だ!)


 一番初めに近づいてくる30人ほどの生徒の群れを見ながら、俺は心の中で実況を始める。


(この杖を試してみよう)


 心の言葉と共に持っていた杖をバットのように構える。

 そのまま生徒の群れが突っ込んでくるので、ブレイクアタックを打つべく力を込める。


(今だフルスイング!!)


 先頭の生徒が丁度良いところまで突っ込んできたので、杖でブレイクアタックをしようしたが発動しない。

 そのまま、一番先頭にいた1人の生徒に杖が当たり、金属が変形する音と共に5mほど吹き飛ばされていった。

 次々と他の生徒が突っ込んでくるので、杖を連続で思いっきり振り始める。


(そういえば、杖を使うのは初めてだから熟練度Lv0だったな……)


 ブレイクアタックが発動しなかった理由を考察しつつ、周りを見渡すとさっきまで思いっきりこちらへきていた後続の集団が止まっている。

 俺は全速力で走り出し、近くにいる生徒から順番に杖で吹き飛ばし始めた。


 視界の隅に、校舎からたくさんの生徒がこちらを見ているのを確認した。

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