拳士の休日③〜鋼の剣を卒業する〜

 事前に調べてあった武器屋さんへ着いたら、入り口で身分証かギルド証を見せるように言われたので、俺はギルド証を提示した。

 ギルド証を受け取った店員さんが偽物と疑ってきたため、俺はすぐにギルドへ電話を行う。

 丁度、電話で清水さんが対応をしてくれて、店員さんへスマホを渡して話をしてもらうことでようやく中へ入ることができた。

 

(まあ、12歳の扱いはこんなもんだ……)


 そんな風に思いながらお店の中をみていると熊のような大きい体格の男性がおり、店中を見張っていた。

 お店は壁に武器が立てかけてあったり、ショーケースの中に銃などが置いてある。


(んー、鉄とか鋼製のものしかないな……)


 銃とかには興味がないため、剣やダガー、メイスなどを見ても、今持っているものとさほど変わらない。

 はずれの店を引いたと思って外へ出ようとした時、低い声に引き留められる。


「待て小僧」

「え?」


 声の聞こえた方を向いたら、熊の店員さんがこちらへきている。

 店員さんをそばで見ると想像していたよりも大きかった。


「手と武器を見せてみろ」

「? どうぞ……」


 背中の鋼の剣を渡して、俺の手を差し出す。

 店員さんは丁寧に剣を鞘から抜き、刃を見始める。


「これは……」


 店員さんはそう言ってから剣をしまい、今度は俺の手を凝視し始めた。

 俺の掌よりも2回りほど大きくて分厚い手が俺の手を持っている。


「小僧、名は?」

「佐藤です。あなたは?」

「杉山と言う。失礼した、君はちゃんとした客のようだ」

「どういう意味ですか?」


 俺の問いに答えることなく、杉山さんは俺へ剣を返してくれた。

 その後、お店のカウンターより奥へ案内してくれる。


 1枚扉を通った先には様々な武器が展示してあった。

 剣も今俺が持っている片手で使えるものや、1mを超える両手で持つような大きなものまである。


「おー、これが本当のこのお店ですか……」

「おう! ここには俺が認めた本物の客しか入れない!」


 俺が感動しながらそう言い、杉山さんは誇らしげに語っていた。


「お前の手は戦う者の手だ。使っていたのは剣だけじゃないだろう」

「よくわかりますね」

「ただ、剣を酷使しすぎだ。もう少しで使えなくなるぞ」

「そんなですか……」

「よく見てみろ」


 杉山さんは俺へもう1度剣を渡すように言ってくる。

 剣を受け取ると鞘から剣を抜き、剣を見ながら俺にもわかるように説明してくれた。


「ここの部分がゆがんでいるだろう」

「確かに……」

「剣を酷使するとこうなるんだ。これだと砕けるまでは時間の問題だな」

「今日買いに来てよかったです」

「この剣は処分でいいか?」

「はい、もう必要ないので」


 杉山さんは俺の言葉を聞き、店のさらに奥へ武器を置きに行った。

 俺はその間お店の中を見させてもらうことにした。


(このお店は当たりだろ!)


 軽くお店の中の商品を見ただけでも、その品が良いものだと感じとれる。

 作った人の情熱だとかの思いが武器越しに伝わってきた。

 ふと目に着いた剣を手に取ってみて、その感覚が間違っていなかったことを確信する。


(軽いし振りやすい。それなのに全く折れる気がしない)


 俺が軽く剣を振っている時に杉山さんは戻ってきており、俺の様子を微笑んで眺めていた。

 俺は感動して、思わず杉山さんへ言葉をかける。


「この剣すごいですね」

「だろう。自信の1本だ」


 他にも武器を見ていたら、店の隅に追いやられているような武器が置いてあることに気が付いた。

 それを手に取ろうとした時、杉山さんが俺を止める。


「やめておけ、それはただの杖だ」

「ただの杖なんですか……」

「それにお前、魔法で戦うタイプじゃないだろう」

「どの剣にするんだ?」

「いや、次は杖を使って魔法を使います」

「そうなのか!?」


 杉山さんは俺の言葉を聞いて驚いており、その隙に目の前の杖を持ってみたら、物凄く重い。

 両手で持たなければ支えられないような重さに、思わず身体能力向上を使ってしまった。

 その杖を持ってみると金属バットのような形で1mほどあり、濃い灰色をしている。

 

(これは本当に杖なのか?)


杉山さんは俺を見ながら、困った顔をしている。


「どうしたんですか?」

「小僧、それは持つところが逆だ」


 杖は本来、太い方側の方を持って先端の細くなっている部分を相手へ向ける。

 ただ、俺が今持っている杖は、太い部分を俺の手で持てそうにない。

 杉山さんはため息をつきながら、俺から持っている杖を取り上げて元の位置へ戻す。


「これは俺がこの店の看板商品として作ったものだ」

「看板商品を作り続けているんですか?」

「……」


 このお店は古くからあり、少なくとも10年以上は経っているとホームページに記載してあった。

 そのお店の看板商品を今も売れ筋として作り続けているのだろう。

 どんな人が買うのか気になり、杉山さんへ聞いてみる。


「この杖はどんな人が買っていくんですか?」

「誰も買ったことなんてない! 誰も興味を示さないんだよ……」


 杉山さんは少し怒りながら言いつつ、すぐに落ち込んでしまった。


「じゃあ、これは10年以上ここにあり続けてる商品なんですね……」

「20年だ」

「え?」

「俺は20年前にこの杖を作った」

「なら、もう古いんですね……」

「そんなことはない!!」


 古いという言葉に反応して、杉山さんは杖を手に取る。

 そして、俺へ見せつけるように杖を出してくる。


「これは全ミスリル製で、俺は1日たりとも手入れを怠ったことはない!」

「そ、そうなんですね……」


 杉山さんがこの杖の魅力について力説し始めた。

 

 この杖は高純度のミスリルだけで作られており、魔法効率がよくなる。

 他の杖には簡単に魔法効率が上がるようにルビーやサファイヤなどの装飾品をつけている。

 ただ、ミスリルには劣るため、この杖を使いこなせば効率よく強い魔法が使えるはず。


「ならどうして、魔法を使う人はこの杖を買わないんですか?」


 杉山さんのマシンガントークを聞いた後、素直にそう思ってしまった。

 杉山さんの説明が本当なら魔法を使う者がこの杖を使わない理由はない。

 俺の質問を聞いた杉山さんは、あきらかにトーンダウンして話し出す。


「魔法を使うやつは大体が体を鍛えてないから、こんなもの持てないんだよ……」

「なるほど」

「それなら、この杖は俺が買います」

「正気か小僧……」


 俺は杉山さんの言葉に納得して、この杖の購入を決めた。


(俺ならこれを持てるし、これから魔法を使いたいのでこの武器にしない理由がない)


 俺は杉山さんにその意思を伝えたので、金額を聞いてみる。


「ちなみにいくらですか?」

「1千万……」

「は?」

「1千万だ!」


 1度目は杉山さんの声が小さくて聞こえなかったため、もう1度聞いたら怒ったように怒鳴りながら言われた。

 1千万円ならリックサックに入っているため、俺はリュックを開けて束を10個杉山さんへ渡す。


「どうぞ、たぶんぴったりあるはずです」

「本気なのか?」

「俺がこの杖を使いこなします」

「そ、そうか」


 魔法を使うためにまずは杖の熟練度を上げる必要があるため、杉山さんへ1つ注文を言った。


「とりあえず、先端の細い部分へ滑り止めの布を巻いてください」

「これはバットじゃないんだが……」


 俺の注文が予想外だったのか、戸惑いながら杉山さんはお金と杖を持って店の奥へ入って行った。

 店の奥へ入る直前に、杉山さんから20分待っているように言われる。


 その間暇なので店の中を見ていると、気になるものが2点あった。


(これかー、どうするかな……)


 俺は小刀とある物を見ながら、真剣に悩み始める。


(小刀は買うとして、こっちは……)


 この世界には職業によるスキルの取得制限や、スキルの武器制限などはほとんどないことがわかっている。

 なので、俺の目の前にある物を買って、スキルを覚えられたら戦略の幅が広がるだろう。

 そのことについて悩んでいたら、杉山さんが奥から戻ってきた。


「どうしたんだ?」

「いえ……ちょっと……」

「ん? これが欲しいのか?」


 杖を渡されてよく見たら、杉山さんは文句を言いつつも杖の細い先端に布を丁寧に巻いてくれていた。

杉山さんは俺の見ていたものを確認する。


「サービスでその2つなら合わせて1千万でいいぞ」

「んー……」


 俺はさらに悩んだ結果、もう1度リュックサックからお金の束を10個、杉山さんへ渡す。

 すると、杉山さんは嬉しそうにお金を受け取った。


「これはどうする? 何かに包むか?」

「小刀はプレゼント用に包んでください。こっちは背負えるようなものへ入れていただけますか?」

「あいよ」


 軽く返事をして、杉山さんは2つの物を持って、もう1度奥へ入っていく。

 杉山さんから商品を受け取ってお店を出た。

 帰る時に杉山さんから、時々杖のメンテナンスをさせろと言われたので、たまに持ってくることにする。

 時計を見ても、まだ12時になっていなかった。


(暇になったな……)


 とりあえず、今日やりたいことは終わってしまった。

 狩りにも行くなと真央さんから言われたので、時間を持て余してしまう。


(学校にでもいきますか!)


 俺はそう思い、学校へ電話をして担任の先生へ繋いでもらった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る