拳士の休日②〜絵蓮さんのPTに誘われる〜

 太田さんが俺へ紹介したいと言っていた人は谷屋さんのお姉さんだった。

 少し偶然ってあるのかと思いながら絵蓮さんの顔を見ると、少し谷屋さんに似ていた。


「谷屋さんのお姉さんなんですか……」

「そうよ。あなたは今学校へ行っていないそうね」

「お前、不良だったのか……」


 絵蓮さんの言葉に太田さんが俺へ残念そうな顔を向けてくるので、俺はしっかりと反論した。


「いえ、不良ではなく。校長からこなくてもいいから在籍していてくれと言われました」

「「え?」」


 俺の言葉に2人の声が重なる。

 2人はよくわからなかったようなので、詳しく説明するとそんなこともあるのかと考え始めた。

 考えている2人を眺めていたら、自分が今とても幸せな状況であると認識してしまう。

 太田さんはすらっとしていてワイルド系の美人で、絵蓮さんはモデル並みの容姿だ。


(この世界に目覚めてくれてよかった!)


 自分には一生縁のないと思っていた状況に舞い上がってしまっていた。

 そんなとき、太田さんは何かを思い出したように絵蓮さんへ話しかける。


「それよりも先輩、昨日の話をお願いします」

「あ、ええ。そうね」


 いつまでも見ていたかった状況が一変して、2人とも真剣な表情で話し始める。


「佐藤くん、真央から聞いたけど、昨日は狩りの後大変だったみたいね」

「大変……ですか……?」


 俺はあまり思い当たることがなく、あったとすれば雑音を追い払ったくらいのことで、特に大変と感じたことがない。

 絵蓮さんは太田さんを少し見た後、話を続ける。


「真央から聞いたわ、たかりの連中が君へ話しかけたんだってね」

「たかり?」

「自分はなにもせずに、分け前だけもらおうとする連中のことよ」

「あー、なるほど。それなら来ましたね」


 絵蓮さんの説明する集団が俺の感じた雑音だと認識した。

 あれくらいならいくら来ても追い払えるので、特に意識するものでもない。

 ただ、目の前の2人にはそうは思えていない様子だった。


「真央はね、佐藤くんの対応を見て惚れたそうよ」

「ちが、先輩それは違います!」


 絵蓮さんは太田さんをからかうように言っていた。

 全力で太田さんは否定しており、絵蓮さんはその様子を楽しそうに笑っている。


(見た目とは違っておちゃめな人なのかもしれない)


 俺は絵蓮さんの意外な一面が見えて、少し話しやすくなった。

 そんな時に店員さんがおしぼりとお水を持ってきてくれた。

 太田さんはごまかすように、絵蓮さんの前にメニューを広げる。


「さあ、先輩何にしますか?」

「んー、佐藤くんはなににする?」

「コーヒーでお願いします」


 俺がコーヒーと言うと、2人も同じものを注文していた。

 コーヒーが来るまで、俺は2人から色々なことを話してもらった。


太田さんと絵蓮さんは中学校時代の部活の先輩と後輩。

部活は騎乗部。

絵蓮さんは騎士学校を卒業して、現在は騎士大学校の2年。

絵蓮さんの冒険者Rankは【3】。


 コーヒーが運ばれてきてから雰囲気が変わったので、本題に移るようだ。

 絵蓮さんはコーヒーを一口飲んでから話し始める。


「それでね佐藤くん。昨日のたかりがこないように、私たちのPTパーティーに入らない?」

「PTですか?」

「そう。固定グループってイメージかな」

「んー……」


 俺は絵蓮さんの提案に対して、腕を組んで考え始める。

 太田さんは俺と絵蓮さんのやり取りを緊張した面持ちで見守っていた。

 絵蓮さんは俺の言葉を待つようにコーヒーを飲んでいる。


(この2人とPTは魅力的だけどな……)


 正直、入れてくれと即答したいくらい魅力的な話だ。

 太田さんの解体技術はおそらくギルド長も認めるほど巧い。

 そして、絵蓮さんはRankが3なので、ギルド長の言っていた壁というものを越えた人。

 しかし、俺には譲れない思いがあるので、それを絵蓮さんに伝える。


「正直、入れてほしいと即答したいくらい魅力的な話です」

「そう、なら入ってくれる?」


 絵蓮さんも少し嬉しそうにコーヒーを置いて俺の話を聞いてくれる。

 太田さんはなぜか頬を赤くしてにやにやしていた。


「ただ、1つ譲れないことがあるので、今はお断りさせていただきます」


 そう言いながら俺は2人に頭を下げる。


「理由を教えてもらってもいいかな?」


 絵蓮さんは断られたのが予想外だった様子だ。

 眉を中央に寄せて、困りながら俺に聞いていた。

 俺は頭を上げて、自分の小さなプライドを2人へ語る。


「やっぱり、PTは自分で作りたいです」

「え?」


 絵蓮さんは俺の言っていることの理解ができていない様子なので、俺は言葉を続ける。


「俺はお2人のいるPTにはいりたいです。でも、自分からお誘いしたいので、今回は断らせていただきます!」


 俺は胸を張って言い切った。


(PTを作るなら、自分から人をあつめて理想のPTにしたい)


 俺はそんな思いを持っているので、今回のPTの話は断る。

 俺が前をみると、2人とも困惑しているようで、少し相談を始めている。

 ただ、太田さんの解体技術は確保しておきたいので、そのことも伝えなければいけない。


「すみません、もう1点よろしいですか?」


 俺の言葉に反応して、2人とも少し首をかしげる仕草をする。


「なにかしら?」

「なんだよ?」


 2人の言葉が重なって聞こえてきた。

 俺は気にせずに自分の思いを2人へぶつける。


「絵蓮さんには申し訳ないと思いますが、太田さんをしばらく貸していただけないでしょうか?」

「どういうこと?」

「太田さんと狩りへ行ったらとてもやりやすかったので、絵蓮さんを超えるまで太田さんを貸していただきたいです」

「私を超えるの?」

「もちろん。超えたら僕の方から、絵蓮さんを僕のPTに誘うつもりです」

「そういうことか……」


 絵蓮さんはそう言いながら太田さんの方を見る。


「真央よかったわね。彼とPT組めるって」

「よかったって、先輩……」


 俺がPTを組めないと言った時から落ち込んでいた太田さんは、絵蓮さんの言葉を聞いて泣きそうになっている。


(なにか悪いことをしたのだろうか?)


 そんなことを考えている時に、絵蓮さんは今回3人で話し合っている理由を教えてくれた。


「実は私、しばらく狩りへいけそうにないの」

「どういうことですか?」

「今行っている学校の研修でしばらく県外へいくことになったから、真央が1人になっちゃいそうでね」

「なんとなくわかりました」

「わかってくれた?」

「はい。その間、俺と太田さんで狩りへ行ってほしかったんですよね」

「ええ、そうよ」


 絵蓮さんは俺へ嬉しそうに話している。

 俺も太田さんと狩りへ行けて嬉しいので、笑っていると太田さんから少し睨まれた。


(なんで?)


 太田さんの表情が読み取れずにいる俺へ、絵蓮さんは俺へ尋ねてきた。


「そういえば、どうやって私を超える気なの?」

「それは今から考えます。とりあえず、Rank3になります」

「あなたが?」

「はい」


 ふーんと絵蓮さんは言っている。

 その様子をみて、絵蓮さんはどうやってRank3になったのか興味が出た。


「絵蓮さんはどうやってRank3になったんですか?」

「剣術大会に出て、全国大会で入賞したの」

「すごいですね」


 当たり前のように言う絵蓮さんのしぐさがかっこいい。

 絵蓮さんを見ていたら、時計を見てごめんなさいと言いながらレシートを手にする。


「これから約束があるから、もう行くね。後は2人で話してて」

「ちょ、先輩……」


 絵蓮さんは太田さんへ何かを言ってから会計へ向かっていった。

 俺は目の前にあるコーヒーを飲みながら、お店に入ってからほとんど話さなかった太田さんをみる。

 太田さんへ聞いておきたいことがあったので、今聞いておこう。


「太田さん、さっきはなんで睨んできたんですか?」

「名前……」

「はい?」

「なんで先輩は名前で、俺は名字なんだよ」

「谷屋さんっていうと、妹さんみたいで……」

「俺も名前にしろ」

「いいんですか?」

「いい!」


 太田さんが力強く押してくるので、今度からは名前で呼んであげよう。


「じゃあ、これからよろしくお願いします真央さん」

「よろしく……」


 真央さんは耳まで赤くしながらうなずいてくれた。

 しかし、俺がこれから行きましょうというと、全力で否定してくる。

 普通は連日狩りへは行かないそうだ。


 一緒にお店を出たら、真央さんもこれから用事があると言っていた。


 俺は真央さんと別れた後、武器屋さんへ足を運んだ。

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