剣士中学生編④〜明日への準備〜

 俺は明日のフィールドアタックのために、明日までに取得したいスキルを書き出した。


取得可能スキル

ヒールLv10⇒移動速度向上

バッシュLv10⇒ブレイクアタック


取得したいスキル

剣熟練度Lv5+体力回復力向上Lv5(Lv10のためクリア)⇒攻撃速度向上

剣熟練度Lv3⇒挑発


 今のところこの4つが取得目標のスキルとなる。


 今日もよく晴れて、絶好の散歩日和となってくれたため、天気を確認するとすぐに歩き始めた。

 出かける直前に父親が母親へ今夜は遅くなると言っていたが、夜にどこへ行くのだろう。


(まあ、いいか!)


 俺は朝からひたすら歩いたり、走ったりを繰り返しながら移動するのが速くなっているのか確かめている。

 同じところを何度も回り、1周のタイムを計っていると急に時間が短くなってきた。


 移動速度向上はゲームと同じで、1度かければ5分程度効果が続く。


 Lvが上がるほど持続時間が長くなり、移動速度が速くなるので非常に便利なスキルだ。


 乗り物に乗っても同様の効果が出るので、自転車に乗りながらかけたらさらに速くなった。

 しかし、乗り物の大きさに比例して消費する魔力も増えるので、あまり大きすぎるとかけられない。


 軽快に自転車で移動しているともう目的地についてしまった。


 これから修練場で剣の熟練度Lvを1でも上げたい。 

 そして、バッシュの上位スキルであるブレイクアタックを覚える。


 バッシュは敵1体に対してのみしか有効な攻撃が与えられない。

 しかし、ブレイクアタックは衝撃波が発生して周囲を巻き込むことができる。


 どのくらいの衝撃波になるのか期待しながら、丸太を購入するために受付へ向かうといつものおじさんが座っていた。


「久しぶりだね。今日も丸太かな?」

「お久しぶりです。丸太をください」


 丸太の代金を渡したので丸太を取りに行こうとすると、またおじさんに声をかけられる。


「そういえば知っているかい? この区の剣士中学校に天才が現れたみたいだよ」

「天才ですか?」

「そうそう。誰が教えた生徒なのか色々なところで聞いているらしくて、ここにも聞きに来たりしたけど、わからなかったから、丸太をひたすらメイスで殴っている少年なら知っていますよって言ったら怒って帰っちゃったよ」


 おじさんは笑いながら言っていた。


(俺のことを聞きまわっている人がいるのか)


 面倒なので俺も笑いながら誰でしょうねといいながら、その場を後にする。


 丸太を設置するために移動していたら、俺の他に丸太を相手にしている人を初めて見た。


 どんな人だろうと見るために近くまで行くと、谷屋さんだった。

 谷屋さんはポニーテールを揺らしながら一心不乱に丸太を剣で切っている。


 俺は設置するのを忘れてその様子に見入ってしまう。

 その視線に気が付いたのか、こちらを振り向いて笑顔で挨拶をしてくれた。


 俺も挨拶を返して、急に恥ずかしくなり丸太の設置を始める。

 すると、今度は谷屋さんが俺のほうへ近づいてきた。


 俺はなんだろうと見上げると、谷屋さんが汗を拭きながら話し始める。


「ガイダンスの後、大丈夫だった?」

「教室に1時間くらい隔離されたよ」

「そうなの!?」


 谷屋さんは知らなかったのか驚いていた。

 そして、その方がよかったのかなと言ってから言葉を続ける。


「佐藤くんがスキルを披露した後でね、保護者の方々が誰の子供でどんな人が教えたのか知るために体育館中を探し始めたんだよ。すごかったなー」

「すごかった?」


 谷屋さんが言っていることは、母親から少し聞いていた内容だった。

 興味が出て、詳しく教えてもらえるように頼むと少しうつむきながら話してくれた。


「まず、Cクラスの場所から佐藤くんが出たから、他のクラスの保護者がCクラスの保護者席に殺到してね。たくさんの人があれは誰の子供よってCクラスの保護者に向かって叫んでいたの」

「そんなに殺到したの?」

「ほとんどの人が集まったんじゃないかな、すごい喧噪だったよ」

「そんなにスキルの習得方法を知りたいのかな」


 谷屋さんは信じられないように俺の目をみる。


 俺はそう言ってから、中学校は1つのスキルを覚えるのに3年使うことを思い出す。

 そんなスキルを3つも覚えている子供がいたら、それは方法が知りたいだろう。


「ごめん。でも、これを相手にしていればそのうち覚えるよ」

「それが信じられないの」


 谷屋さんは顔をしかめて少し怒ったように言う。

 その後、少しため息をついて俺に謝った。


「佐藤くんが毎日丸太を相手にしていたのは知っていたけど、最初は頭がおかしい人だと思っていたの」

「マジか……」

「そりゃそうよ。丸太をずーっと殴って、最後は彫刻まで作ったと思ったら潰すし、何やってるのって思ってた」

「えーひどいな」

「でも、昨日の様子を見て、佐藤くんが本当にスキルを覚えるためにやっていたことなんだって思ったから、私も丸太で特訓しているんだよ!」


 谷屋さんは俺をまっすぐ見て話していた。


(谷屋さんも本気でスキルを覚えようと丸太を切っているんだな)


 谷屋さんに負けていられない。

 俺は自分の丸太を設置して、谷屋さんへ笑顔でこう言った。


「バッシュを覚えたかったら、思い切り振るのがコツだよ」

「教えてくれてありがとう」


 谷屋さんはそう言ってから自分の丸太へ戻っていった。

 俺も丸太と向き合い、剣を振り始める。


 修練場には閉館ぎりぎりまで2人の丸太を切る音が鳴り続けていた。

 俺は剣を振りすぎて、ブレイクアタックを覚えるのを忘れてしまう。


 一緒に帰っている時に、谷屋さんには姉がいて、昨日の話をしたらすごく驚いていたことを教えてくれた。

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