剣士中学生編③〜家族会議、父親の決断〜

 俺が男性教員に抱えられて運びこまれたのは、校舎の1階にある教室だった。

 教室にある時計を見ると、俺を抱えた男性教員からここで待っているように言われて1時間程経つが、誰も来る気配がない。


(忘れられているのだろうか……)


 1人しかいない教室ほどさみしい場所はない。

 持っていた剣をみて、先ほどの出来事を思い出す。


(なぜか、バッシュがLv2だったな)


 スキルシートではバッシュのLvは10となっていたはずだ。

 さきほどの鑑定士さんは、ヒールのLvは10と判別していたので間違ってはいないと思う。


 最後はよく聞き取れなかったが、偽物ならあんな風に紹介されないだろう。


 机の上に突っ伏して攻撃スキルのことを思い出そうとする。


「あ!」


 理由に気が付くと、勢いよく起きて自分の間抜けさに声を出してしまう。

 確か攻撃スキルの注意点に以下のような文章が載っていた。


【覚えている攻撃系のスキルは使っている武器の熟練度Lvまでしか出せない】


 前は拳で戦うための準備に必要な武器しか使わなかったため、当たり前のことだろうと思っていた説明文の壁に直面してしまっていた。

 そのことを忘れており、少し恥ずかしいが剣を使っているせいでバッシュのLvが2だったのだ。


(剣の熟練度をはやくLv10にしたい)


 すっきりとした俺は、教室から何か見えないかと窓のから外を覗いてみた。


 そこから、俺をここへ連れてきた男性教員と一緒に母親がこちらへ向かっているのが見える。


(ようやく迎えが来てくれた)


 母親がこちらに向かってきていて、安心してきた。

 しかし、こちらへきている母親の様子がどうもおかしい。


 窓を覗くのをやめて、椅子に座って静かに待つことにした。


 ガラっと音がすると、教室の扉が開けられる。


 扉からは俺をここへ男性教員と母親がこちらを複雑な表情で見ていた。

 母親は俺へ何か言いたそうな感じがうかがえる。

 だが、横の男性教員をみて言うのを止めたようだった。


 俺が剣を持って立ち上がると、男性教員が次のガイダンスのために他の教室へ案内しようとしている。


 ただ、俺はもうこんなところにいる気は無い。


「すみません、話が違います。スキルが使えれば卒業まで自由ですよね?」

「あれは校長が勝手に言ったことで……」

「校長はここで一番偉い方なんですよね? その人が言っていましたよ」


 男性教員がそれ以上言うことはなかった。

 横にいる母親の方を見ると完全に固まっている。


「帰ろう」


 そう言いながら俺が母親の手を引くと、意外にも素直についてきてくれた。


 男性教員の横を通る時、入学式は3日後ということを言われた。

 校門を出てしばらく歩いてから、母親がようやく口を開く。


「帰ったら説明しなさい……」


 母親は俺の手をゆっくりと離して、ひどく疲れたような足取りで歩き始める。

 俺も母親の後に続きながら帰宅した。


――――――――――――――――――


 夜、両親と俺でテーブルを挟み、家族会議が行われた。


 テーブルの上には俺が昨晩使用したスキルシートが置いてある。


 両親は信じられないような顔でスキルシートを見つめ続けていた。

 俺はそんな両親から何を言われるのだろうと構えている。


 そんな中、父親がしぼりだすようにかすれた声で話しかけてくる。


「これは……いったいどういうことなんだ?」

「スライム叩きの成果だよ」

「あの話……本当だったのか……」

「信じてくれた?」


 うなずくと父親が黙り、次は母親が微妙そうな顔で話し始める。


「あなたがスキルを判定されたら、周りの方が全員誰の子供か探し始めてね。どうやってスキルを覚えたか必死に聞き出そうとしていたの……」


 母親は震えながら話を続けている。


「みんなが必死に私のことを探しているのだと思うと怖くなって、体育館のトイレに逃げたの……息をひそめて隠れていたら周りが静かになって、外に出たらあの先生がいてね。事情を話して、もう大丈夫だからって言われたわ」

「なんかごめん……」


 母親に怖い思いをせてしまって、本当に申し訳なく思える。

 ただ、この世界ではスキルが非常に覚えにくいようだ。

 その疑問を今話するしかない。


「でもさ、なんでみんな武器を使わないの? 少し使えばバッシュとかヒール覚えられるよ」


 両親は俺の言っていることが理解できないのか、母親が父親を見ながら肘でつついている。

 父親は困惑しながらも、俺へ問いかけてくる。


「少しってどのくらいだ?」

「修練所で毎日8時間メイスで丸太を殴るのを1週間続けるくらい」

「それがお前の少しか……」


 事実を言っているはずなのに、なんだか両親の様子がおかしい。

 父親はVR装置を見ながら思い出すように言い始める。


「そういえば、VRゲームに興味がなくなってからおまえの行動は変わったな。なにかあったのか?」

「んー、特に何も」


 その時から《中身は30歳のおじさんです》なんて言えるはずもなく、俺はしらを切る。


 それから、全員が黙り始めてどれくらいの時間が経っただろう。

 いいかげんに終わりたくなったが、両親をみてもまったく納得できている様子ではない。


 ぼーっと両親を眺めていたら、急に父親が立ち上がった。

 俺はなにごとかと思い父親を見ていると、スキルシートをつかんで俺に見せつけながらこう言う。


「これは本当にお前のなんだよな?」

「何度も言っているけど、そうだよ」

「なら、明後日伊豆の高原フィールドへ行くぞ。お前の戦っているところを見ないと納得できん!」


 父親は意を決したようにそう言い放ち、俺を見つめている。

 その話は俺にとって、願ってもない嬉しいことだった。


「わかった。準備をするね」


 父親に向かって笑顔でそう言い、俺は部屋に戻ろうとリビングを出る。

 リビングでは、父親が母親になんてことを言ったのと怒られていたが、俺は聞こえないふりをした。

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