第1章 ~強さへの渇望〜

剣士中学生編①〜入学ガイダンスへ〜

 新入生対象ガイダンスの日はよく晴れていた。


 入学案内には駐車場がないと書かれていたため、母親と一緒に歩いて学校へ向かっている。

 向かう前に何度も制服の乱れや、忘れ物がないか母親に確認させられた。


 特に会話もなく歩いていると、学校へ行って何をしようか考えてしまう。


「お母さんってどの学校出身だったっけ?」

「急になに?」

「えーっと、学校の思い出を聞かせてほしいなって」


 母親は考えているのか少し歩みが遅くなり、俺は母親にペースを合わせる。


「やっぱりヒールを初めて使えた時のことが一番の思い出かな」

「お母さん、ヒールを使えるの?」

「一応ね。私も一也の行く剣士中学校を卒業した後は支援学校へ行ったわよ。ただ、それ以上スキルを覚えられなくて大学は普通大学だけどね」

「へー」


 楽しそうに剣士中学校時代のことを母親は話し始めた。

 最初にヒールのスキル書を渡されたときは、これから先が不安になったと語っている。


(学校はスキル書でスキルの習得している? それだとLvが上がらない)


 基本的にスキル書で覚えたスキルや魔法はそれ以上Lvが上がらない。

 スキルのLvを上げたい場合には、前提条件の習得が必要になる。


 ゲームでもスキル書は他の職業のスキル習得をするために使用されることがまれにあった。

 しかし、あまり種類がなく使えるものも少なかったはず。


(スキル書を読むくらいだったら、スライムを狩っていた方がLvは上がるだろう)


 ふと、ほのかに花の良い香りがしてきた。

 周りをみても、花や桜のような目立つ花の木はなく、どこから来ているのか探すが見つからない。


 前を見ると、つややかな黒髪を揺らしながら1人の女学生が歩いていた。


(あの人から良い匂いがしてくる……)


 後姿から剣士中学校の制服を着ているのがわかる。


 思えば、前世での俺は人生ゲームファーストでまったく現実の友達がいなかった。

 学校も部活をせずに放課後になったらすぐに帰宅した。

 社会に出る時も、定時になったらすぐに帰れるという条件で会社を選んだ。


 しかし、その生活をしていたことについてまったく後悔はない。


(でも、今回の学生生活は友達を作って、できれば彼女が欲しい!)


 学校での目標を見いだすことができ、俺は意気揚々と前を歩く女学生についていきながら学校へ着く。

 母親が校門のところで一緒に写真を撮ろうと言ってきた。


 写真を撮っていたせいで、黒髪の女学生の姿を残念ながら見失ってしまう。


(同じ学校にいるからまた会えるだろう)


 気を取り直し、あまり気分の乗らないガイダンスへ向かうことにした。


 校門から入るとすぐに受付があり、母親が受付を行うと俺がCクラスの15番であるということを伝えられる。


 その後、別の方から2階建ての体育館へ誘導された。


 ガイダンスは2階で行うようで、そこにはパイプ椅子が並んでいる。


 パイプ椅子の間には等間隔で立札が置いてあり、AからFまでの塊で区切られていた。

 新入生は前のパイプ椅子の塊へ、保護者はその後ろの塊に座るようだ。


 俺は自分のクラスの場所まで歩き、椅子に番号も貼ってあったので迷うことなく座った。


 時間になると司会の人がガイダンスを始めるので席に着くように指示している。

 そののち、すぐにガイダンスを開始するアナウンスが流れた。


 まずは生徒会長が挨拶をするため、檀上へ上がる。

 生徒会長と呼ばれた人へ目をやると、来るときに見た後姿の女性だった。


 壇上に置いてある豪華な机の前に立ち、新入生を眺めるようにみている。


「ご入学おめでとうございます」

 

 挨拶は柔らかい声でその言葉から始まり、内容は新入生を歓迎するものだった。

 最後に名前を述べると、俺は二重の意味で驚かされた。


「生徒会長、谷屋花蓮」


 最後に礼をすると自然に拍手が贈られた。

 俺も拍手をしている中、席へ戻る人が本当に谷屋さんなのか確かめたくて顔をじっと見つめた。


(谷屋さんだ……)


 檀上で話している時には意識して見ていなかったが、よく見ると谷屋さんの顔だった。

 修練場で見た時とは違い、髪を下していて優しそうな雰囲気を身にまとっている。


 俺は彼女が席に着くまでその姿を眺めてしまった。

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