始動④〜丸太卒業〜

 気持ち新たに丸太を削り、閉館直前にようやく1本の木剣が完成した。

 しかし、持って帰れないためバッシュで叩き潰す。


「せっかく完成したのに潰してよかったの?」


 帰る支度をしようとすると、聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、昼間話しかけてきた女の子が不思議そうにこちらをみている。


 彼女は、谷屋花蓮たにやかれんという名前で、来年度から剣士第一中学校の3年生になるという。


 丸太を交換する時や休憩中に毎回話しかけてきて、スキルの習得のコツやメイスを使っている理由など聞かれた。

 話をしている時に敬語じゃなくてもいいと言われたので、普通に話している。


「作るのが目的で、作れたからもういいんだ」

「ふーん……私もそれができればスキルを覚えられるかな?」

「俺はできるようになったけど、保証はしないよ」


 俺が片付けながら言うと、谷屋さんは腕を組んでうなりながら悩んでいる様子だった。


 メイスを返しに行くとおじさんから、今日も遅くまでお疲れ様と声をかけられる。

 どうも、と言いながらメイスを渡そうとすると、おじさんは受け取らずに俺を見ていた。


「そのメイス欲しい?」

「え?」

「来年度に向けて武器を全部新しくするから、それは今日で処分するんだよ」

「そうなんですか」

「君はそれを気に入っているようだし、よければあげるよ」


(くれるというなら貰おう)


 そう判断して、下さいとおじさんへ返事をする。


 するとおじさんは最初から用意をしていたのか、メイスをいれる袋を渡してくれた。

 肩にかけられてサイズも丁度良く、お礼を言いながら事務所を出ると谷屋さんが待っている。


「家はたしかあっちだよね。途中まで一緒に帰らない?」

「そうだね、そうしようか」


 歩き始めた谷屋さんを追いつつ、修練場を後にする。

 帰宅中は、メイスをもらったことに驚かれ、谷屋さんの持っている剣が鉄とミスリルの合金でできていることなど自慢されながら歩いていた。


 話していると、急に谷屋さんが交差点で立ち止まる。


「私はこっちだから」


 谷屋さんは俺の進行方向とは違う道を指差していた。

 俺は1つ谷屋さんに聞きたいことがあったため、立ち止まる。


「ちょっと聞きたいんだけど、修練場の他に思いっきりメイスを振れるような場所って知ってる?」

「まだメイスを振るの?」


 谷屋さんは呆れながらそう言うが、顎に手を当てて真剣に悩んでくれている。

 そして、思いついたことを俺へ教えてくれた。


「町の外に出てモンスターでも狩ればいいんじゃない? お金にもなるし丁度いいでしょ」

「そうか! ありがとう!」


 手を振りながら谷屋さんを見送ると、俺は大切なことを忘れていることに気が付かされた。


(モンスターを狩ればいいんだ)


 詳しいことを調べるため、右肩にかかったメイスの重みを感じながら、俺は急いで帰宅した。

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