始動③〜スキル初習得〜

 メイスで彫刻を作り始めてから3日経ったが、いまだに1本の剣もできていない。

 剣身の部分まではなんとかできるようになったが、鍔と握りの部分をメイスで加工するのが難しい。


 今も剣を作るためにメイスを振るっているが、また握りの部分を削ろうとしたら根本から折れてしまった。


「クソッ!!!」


 思い切りメイスを失敗してしまった丸太へ叩き付ける。

 すると、今まで出したことのないような威力の打撃になり、残っていた丸太が豪快な音と共に砕け散った。


 肩を上下に揺らしながら荒々しく息を吐いている。

 しかし、彫刻ができなかった苛立ちが消え、目の前で起こった現象が信じられなかった。


「すご……」


 前に見たことがあるポニーテールの女の子が、こちらを見ながら呟いているが、俺の耳には入ってこない。


(バッシュができた……?)


 目の前で起こったことは、メイスの攻撃スキルであるバッシュが発現できていた。


 武器に魔力を纏わせた攻撃で、メイスか剣の熟練度Lv5で習得できる。

 それが今自分の行った打撃だった。


 メイスの熟練度が上がっているのはよかったが、なんだか納得できない。


 休憩するために、散らばった丸太の破片を片付けてから休憩スペースへ向かう。

 椅子に座って休んでいると、女の子が近づいてきた。


「すごいね。さっきの攻撃はスキルだよね?」

「たぶん、そうだよ」


 声の聞こえた方をみると、黒いポニーテールを風になびかせ、少し額に汗をかいている美人がいた。


 そんな子が俺に声をかけてくれるのに慌ててしまい、無愛想な返事しかできなかった。

 へーっと言いながら、女の子は俺のそばに置いてあるメイスを見ている。


「これはあなたのなの?」

「そこで借りたやつ」


 受付を見ながら言うと、女の子はさらに驚いた様子だった。


「レンタル武器であそこまで威力出るんだね」

「ここの武器は性能良いから」


 他のものと比べたことはないが、これだけ毎日殴って壊れないのだから性能は良いのだろう。

 しかし、その言葉に女の子は少し怪しむように顔をしかめる。


「それはないでしょ。ここに置いてあるのは最低限の武器だって聞いたことがあるよ」

「そうなの?」

「だって、それはただの鉄製でしょ。メイスなら鋼とかミスリルとかもあるじゃない。アダマンタイトの武器とか憧れない?」

「確かに」


 自分の使っていた武器に文句を言うのもなんだが、この世界ではもっとすごい武器がたくさんある。

 それをかつての俺はたくさん持っていたが、あまり使うことはなかった。


(はやくかつてのように拳で戦いたい)


 そう思うと、休んでいる場合ではない。

 女の子がまだ話し足りなさそうな顔をしたが、その場を離れて俺は新しい丸太を用意した。

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