第20話
レディリーとの合流地点に指定した、平民街の一角に佇むカフェ“狼の隠れ家”。
狼の剥製が飾られているだけの一見平凡な建物だが、実は何の変哲もない床を外すとその下に広大な空間があり、中には俺がコレクションした様々な武器や魔具が保管してあったり、それらを試し斬りするために特製の木人が置いてあったりする。
それもそのはず、ここは
当然、数人いる店員も全て俺の部下である。
「あっ、いらっしゃいませご主人様! 奥方様をお連れになるのは初めてですね? とりあえず地下室にどうぞー」
「「いらっしゃいませー!」」
店員たちの挨拶に軽く腕を上げて応えつつ、店長であるボリューミーなピンクのツインテールをした少女の案内で地下室へと移動する。
「ご苦労。これからはお前たちも顔を合わせる機会が多くなるだろう、しっかりと挨拶しておけ」
「了解でーす! それでは自己紹介させていただきますね、奥方様! わたし、ヒルダ・メティオールと申します! 男どもからやたらと人気があるこの店をご主人様に任されている
「…………えっ? えっ??」
「…………」
「あ、アリスっち! おはおはー♪ 今日もちっこくて可愛いなこいつー」
「…………………」
うわ、あのアリスがめっちゃ嫌そうな顔しとる。まあ
まあそんなわけで、下はパンツが見えそうな程のミニスカートに、上は両肩がばっちり開いて胸の谷間もフルオープンゲットしている、フリフリでハレンチな制服を身にまとった彼女こそが
姓を持っている事からも分かると思うが、こいつはレディリーやアリス、ティロフィアとは違って現役バリバリの貴族だ。しっかりと魔法学院にも在籍している。今は俺の動きに追従して休学中だが。
「えっ、あれ? メティオールさんって学院の生徒だよね……? えっ、レジェスの部下なの……?」
「そですよー! サプラーイズ♪」
非常にボリューミーなピンクのもふもふツインテールをフリフリ揺らしてヒルダが微笑む。なに笑とんねん。
「っていうかご主人様ってなに……?」
「ご主人様の趣味で言わされて──」
「術式展開。コード“
「えっ」
人の嫁にいらんことを吹き込もうとしたヒルダを即座に氷漬けにする。純粋なエルトフレイスが信じちゃったらどうしてくれるんだコノヤロー。
あまりにも容赦なく魔法をぶちかました俺に対し、目を怒らせたエルトフレイスが勢いよく振り向くも──。
「ちょっとレジェスッ!! あなた、いきなり何を──」
「てへへ、すいませーん」
「へ?」
「巫山戯るのも大概にしておけよ」
「はーい」
俺の手であっという間に氷漬けになったはずのヒルダが、力尽くで氷の棺を中からぶち割って普通に復活した。
信じ難い光景に、展開についていけないエルトフレイスが目を点にする。
「ど、どうなってるの?」
「予めわたしの周囲に魔力の膜を張って完全に動けなくなるのを防いでから、簡易的な火の魔法を一点集中して楔を打ち込んで氷をぶち割りましたー」
「こいつは俺ともある程度やり合えるほどの天才でな。メティオール家では手に負えないからと、当主に泣きつかれた俺が引き取って部下にした。残念なことに性格がアレすぎるから影衆をやらせているわけだが」
「やーん、そんなに褒めないでくださーい」
「褒めていないぞ」
「ええ……」
「…………」
こんなんでも
ほら見ろ、同僚の痴態にアリスが目を覆っておられる。
「でも、レジェスに対抗できるぐらいの人がいるなら……メティオールさんをアンドロメダの隊長にぶつければ良かったんじゃ?」
「ヒルダでいいですよー! やーん、奥方様ってばお肌すべすべのもっちもちー!」
「えっあっちょっ、どこ触って──」
やたらとグイグイ距離を詰めてくるヒルダの前では、常識人なエルトフレイスもたじたじである。ついでに、ヒルダのデカおっぱいとエルトフレイスのダイナマイトおっぱいが互いに押し付けあって形を変えているのを見て、アリスが悲しみに満ちた目で自分のまな板に手を当てている。
さて、その質問はもっともだな。
「確かにこいつであればアンドロメダのレノス・マックールにも勝てるだろう。実力のみで言えばこいつはティロフィアを含めた俺の配下の中でも最強だからな」
「えっへん! ヒルダちゃんはすごいのですよー!」
「じゃあ……」
「──だが、こいつが好んで使うのはことごとくが広範囲に影響を及ぼす大魔法ばかりでな。下手に戦わせると王都が消えてなくなる。だから今回は留守だ」
「だってー、でっかい魔法でパーッと吹き飛ばすのって楽しいじゃないですかー? 人がゴミのようだー!」
「ええ……一番の問題児だよこれ……」
「……………」
「苦労してるんだね、アリスちゃん……もう一人もアレだもんね……」
つまりそういうことである。
こんなんでも俺に忠誠を誓っている……はずなのだが、こいつは基本的に周りを虫かゴミのようとしか思っていない。頭のおかしい破壊王なのだ。
これを街の中で戦闘させた日には、守るべき王都が味方の手で更地になるとかいう笑えない事態が起こる。いやマジで。こいつほんと平気でやらかすから。
頭を抱えるアリスが唯一の癒しである。
「というか遅いなレディリーの奴。この俺を待たせるとは何事だ」
「そういえば来ないですねー? もしかして向こうで動きがあったとか!?」
「顔を輝かせるな貴様」
ぺかーと百点満点の笑顔を浮かべてシャレになっていない事を抜かすヒルダの頭をポクッと叩く。
ちょうどそんな時──。
「すんません遅れましたっす!!」
「おっ、噂をすれば!」
「問題児にアホに癒し……濃いなぁ、レジェスの部下は……」
「…………!」
「遅いッ!! 貴様、何をしていた? 予定の時間はとっくに過ぎているが、アホな貴様は時間すら分からんのか?」
「うわーん、ごめんなさいっすー! あまりにも動きが無さすぎてぼんやりしてたら時間過ぎちゃってたんすよー」
「あっはっは、レディっちらしいね!」
「……?」
「うっ、アリスちゃんがめちゃくちゃ睨んでくるっす……」
ようやくレディリーが現れ、これでカフェ“狼の隠れ家”の地下室に
エルトフレイスが呟いた通り、どいつもこいつもキャラが濃い。ついでに圧倒的な巨乳率だ。アリスの貧しさが一層目立つが可愛いのでヨシ!
「それで、やはり明るいうちは奴らも迂闊な動きは見せんか。会話を聞く事は?」
「さすがに無理ですわなー! レディリーちゃん的にはどうにか妹と接触したかったんですけど、常に隊長らしき奴がついてて」
「…………?」
「向こうの最大戦力なわけだもんね、そりゃそうか……となるとまだ聖杯についての情報を集めている途中なのかな?」
「んー、どうかなー。案外向こうはもう狙いを絞っていて、ドロボーする機会を待っているんじゃないですかねー?」
「幸い、バルトロメオの家は比較的人目につきやすい場所にある。熟練の魔法使いが山ほどいるこの王都で白昼堂々と盗みに入るには少々厳しい。となると動くのは夜だろう」
「じゃあずっと監視してなくてもいいんじゃないすか?」
「相変わらずアホだねー、レディっちは。それで万が一裏をかかれてターゲットを盗まれたらどうすんの? ご主人様がフルパワーで働く羽目になっちゃうじゃん。わたしら何のために居るのって話になるでしょー。ほんと頭ん中にゴミでも詰まってらっしゃる?」
「…………」
「ご、ごめんなさい……」
「そこまで言わなくてもいいんじゃないかなあ……」
楽観的なレディリーの一言にヒルダが噛みつき、言葉の暴力でボコボコにされた上にアリスの冷たい視線に晒され、レディリーは撃沈した。
こういうのを見てるとやっぱりヒルダも問題児なりに俺を主だと認めているんだなって思うよね。
「まとまっている今のうちに襲撃をかけるとかはどうかな? 連中が集まっている場所は分かってるんでしょ?」
「んー、そこはやっぱり向こうも警戒してるんでしょうねえ。場所が毎回バラバラな上に数分で解散しちゃうし、集まってもちょいちょい人数が違うんすよ。なんで、いろいろと準備していざ襲撃~って時にはもうどっか行ってると思うっす」
「そっかぁ……うーん、向こうにとっては敵の本拠地なわけだし、そりゃそうだよね」
「集まる人数が違うって事はその間は別行動してる奴らが居るって事だしー、そっちをおさえて先にお話行っとくとかどうですー?」
「…………」
「待てアリス、お前が人を操る姿を誰かに見られるとまずい。やる気を見せているところ悪いな」
「!? ……!!」
オハナシいっとく? という若干物騒なヒルダの言葉にアリスが反応し、やる気満々でシャドーボクシングを始めたが、見られる人に見られるとバランドールの評判がガタ落ちしかねんから却下。
ところが軽く頭を下げた俺の姿にアリスが大層動揺し、言葉を話せないなりにわたわたと慌てている。おててぶんぶんしててかわいい。
「だが、やはり各個撃破が無難か。できる限り穏便な方法で、な」
「その悪人面で穏便とか言っても怪しいだけなんだけど……」
「……そうか……」
嫁の何気ない言葉が俺を深く傷付けた。
全くもっておっしゃる通りなんだが、もうちょっと言葉をオブラートに包んでくれ。
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