第3話
「俺たち魔法使いにとっての最大の武器であり、扱いに優れた貴族が平民の上に立っていられる理由ッ!! それこそが、魔法だ!」
まるではかったように、今行われている授業は基礎のおさらいだった。
まだ新年度が始まったばかりの四月とはいえ、三年生がやる内容ではないように思えるが、転生したばかりの俺にとっては非常にありがたい。
「ライト! 何故魔法使いが貴族ばかりなのか、その理由を答えてみろッ!」
「いや、平民の俺に聞いちゃうんスか。あーえっと、魔法の発動に必要不可欠な魔力の絶対量が貴族と平民ではだいぶ差があるからッスね。魔力量の多い貴族同士で血統を繋いできたから、貴族は平民よりも魔力量が多い奴が圧倒的に多いんスよ」
「うむ、その通りッ!! お前のように平民なのに魔力量がバカ多い奴は例外中の例外だな!!」
ふむふむ、その辺りの設定はやっぱり原作と変わらないわけか。
レジェス・バランドールのこれまでの記憶もあるとはいえ、改めて確認するのとしないのでは雲泥の差があるからな。
「魔力を使って宙に“術式”を書き込んで展開し、放つ! それが魔法の基本だ!! 魔法理論に詳しい研究者であれば新たな術式を考案し、全く新しい魔法を作り出す事も可能とされているが、これは非常に難易度が高い! 故に、我々は既存の魔法を学んで扱っているのだな!」
先生が触れた通り、新たな魔法を作り出す事に人生をかける魔法研究者という職もあるが、これは本当に難易度が高く、人生を丸ごとかけて一つ魔法を作れたらそれだけで歴史に名が残る程だ。言ってみれば科学や数学とかで新たな法則を見つけ出すみたいなもんだからな。
なのだが、事もあろうに
故にこそレジェス・バランドールは大天才と呼ばれ畏れられているのだ。
「ですって、レジェス」
「お前を守るために必要だから作り出した。それだけの事だ、我が妻よ」
「……そっか。そうだったんだ」
はいはい謎変換謎変換。
まあ今回は言い方が尊大なだけで言いたい事は合ってるからヨシ!
原作のレジェスはこういう事をきちんと言ってあげなかったからエルトフレイスの心が離れていっちゃったんだよな。
「魔法には風、火、水、土の基本となる四つの属性が存在し、風と土は反発しあい、火と水は反発しあう! そして基本の四属性から外れた光と闇、そして時を加えた合計七つの属性がこれまでに確認されている! 光はそこのライトとアーラム殿下が得意とし、バランドールに至ってはこれまでに確認された全ての属性を得意としているな! 素晴らしいぞッ!!」
つ、と教室中の視線が俺に集中する。
全属性を得意とする
これは世界中を見ればそれなりに居るが、学生のうちにこの域に到達した人間は歴史上を見ても俺しかいない。
加えて、時属性を発見したのも数年前の俺である。
うん、控えめに言って才能の怪物だね。
ちなみに、先生はああ言っているが記憶によると俺が特に得意なのは時属性と闇属性のようだ。ま、ここも原作通りだわな。
時と闇とか得意分野が完全にラスボスのそれなんよ。実際原作ではメインヒロインであるエルトフレイスにとってのラスボスみたいなもんだったけど。
「ねえ、レジェス」
「なんだ」
「あたしも時属性の魔法を覚えられないかしら? 適性がない闇は無理にしても」
「難しいが、努力する価値はあるな」
「ほんと?」
「ああ。少なくとも他の連中よりは見込みがあろう」
「やった! じゃあ今度練習に付き合ってよ」
「構わん」
ぼそぼそと話しかけてくる我が妻……ええい、エルトフレイスにそう返す。
実際、原作では割と早い段階でレジェスと距離を置いていたにも関わらず、誰に教わるわけでもなく一人で時属性を扱えるようになっていた程、エルトフレイスには才能がある。
おまけに原作の彼女は終盤の決戦においてレジェスと一対一で戦い、見事勝利していたが、あれはそもそも未だに惚れていたレジェスが全く本気を出していなかったからこその結果だ。
それでも時空が歪み、空間が割れる程の激闘だったけど。この二人だけ戦いのレベルが異次元すぎるんだよなぁ。描写からして、ラスボスよりも最終決戦レジェスの方が強いっていうのがファンの間では定説なぐらいだ。
さようなら、かつてあたしが愛した人。
その言葉と共にエルトフレイスがレジェスと決別したシーンは、涙無しでは語れないね。
それまでは「必要とあらば部下も家族すらも利用し捨てる、血も涙もない冷徹な男」という人物像を貫いていたレジェスが静かに涙を流すシーンとかは鳥肌モノだ。
「…………」
「ん、どうしたのよ?」
「──綺麗だ」
「……ふ、不意打ちはやめてよ。でも、ありがと」
絶対に、あんな結末は避ける。
全てを彼女のために捧げたのに、報われないなんて悲しすぎるから。
ついでに言えば、その後の話は語られなかったけど、原作の終わり方でアーラム聖国が長続きしたとは思えないんだよな。
平民のライトと王女様なエルトフレイスが結ばれたとして、絶対に納得しない奴らが大勢居たはずだ。
あれではエルトフレイスが幸せになれるとは思えない。一時的には幸せだったとしてもね。かと言って原作のレジェスもやり方が過激で反発を招いていたのは確かだ。
上手い具合に収まるやり方をなんとか考えないといけないなぁ……。
◆
「あ」
「おや」
「む」
午前の授業が終わり、昼休みになった。
メゾバルド先生の授業以降、曰くバカップルな俺とエルトフレイスにまたも挟まれたライトは何やらやつれてしまったので放置し、未来の夫婦水入らずで食堂にやってきたのだが……。
そこで、当然のように待機していた俺の従者ティロフィアとエルトフレイスが顔を合わせた。
俺? 学院の二大おっぱいを心の中で拝んでるよ。まあエルトフレイスの方が明らかに大きいんだけど。確か公式でHカップだったはずだ。いや、Iカップだっけ?
「これは奥方様、ご無沙汰しております」
「まだ結婚してないから! あくまで婚約者だから! なんなのよ主従揃って!」
「未来の、とはいえ夫婦である事に変わりはあるまい」
「あなたも何でそんな、なにかおかしな事言いました? みたいな顔してるの、もう!」
俺の謎変換のせいでツッコミ役になっていたライトがいなくなったというか、置いていかれたせいで、今度はエルトフレイスがツッコミ役と化している。
それにしても、ティロフィアが居てもやっぱり謎変換は仕事するのか……。
本当に基準が分からん。もうハナから謎変換が仕事するものと覚悟していた方が良さそうだな、これ。
部屋に二人きり、とかそういう状況ならば解放されるのか?
「奥方様、一つお聞きしたいのですが」
「………………ん、なぁに?」
長い沈黙にささやかな抵抗のあとが感じられる。無駄なあがきだと思うけどなあ。
「今日のレジェス様はおかしいと、お思いになりませんか?」
「思う」
「やはり……」
そんな即答するほどおかしいか?
……うん、おかしいな!
それもこれも謎変換のせいだよくそったれ。
「いったいあなたの身に何が起きたの、レジェス? あなたはこんなに、こう、素直に物を言える人ではなかったはずよ」
「朝の挨拶も返事が遅れていましたし、このような事は今までありませんでした。お身体を一回検診して頂いた方がよろしいのでは無いかと」
「そこまで言う程か? 我が妻に叱られて、色々と思う事があったというだけだ。俺は何も変わらぬ、俺は俺のままよ」
「…………」
まあ実際は中身が変わってるんですけど。
そう考えるとこの従者と嫁はなかなか鋭いと言えるのではなかろうか。
前世の記憶を思い出した反動で頭が痛くなったりはしたけど、身体のどこかを痛めたとかそういうわけではないからなぁ。
「……ふ、そう心配するな。我が生は永劫にお前と共に在る、我が妻よ。だから、お前はお前のまま笑っていれば良い」
「レジェス……」
「……やっぱりおかしいです。エルトフレイス様も、何を二人の世界を展開しておられるのですか」
「にゃっ!? しょ、そんな事ないわよ!」
にゃっ!? て。
なんなのこのかわいい生き物。
俺を萌え殺す気か?
動揺しすぎかよ。
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