02
「マリー様とは、お初だよねー? あーし、ルイルイの友だちの
「いえーい」とピースサインを作って、ウインクしてポーズを決める彼女。まるで、写真に撮ってSNSでシェアしてくれとでも言っているような自己紹介だ。
普段からこんな明るい性格をしているうえ、
だからそれは、社交辞令……あるいは人間関係の悩みなどとは無縁な「陽の者」特有の、「人類みな友だち」感覚から来る言葉なのだった。
「……」
そんな彼女のことを無視したマリーは、さっきのまま出口に向かって歩き続けている。きっと彼女は万千華のことを、学校で自分に絡んでくる他のクラスメイトと同じような、ただの
「あっりー?」
遠くなっていくマリーの背中を見ながら、首をかしげる万千華。ただ、そんな彼女の手は、さっきまでやっていた太鼓のゲームに既に戻っている――しかも、相当難しそうな曲を画面を見ずにノーミスで続けている――ところを見ると、特に焦っているわけではないらしい。
「もしかしてマリー様、このあと用事とかある感じ? 急いで帰らないと、ヤバめな感じ? えー、それは困るー!」
全く困っていなさそうな声色の万千華は、それから、こう続けた。
「せっかく二人に、ウチのオジョーサマを紹介出来ると思ったのになー!」
「……何ですって?」
立ち止まるマリー。
「え、お、お嬢様って……ま、まさか、南風原さんも……」
瑠衣も、体を硬直させる。
「実はあーし、今日までずっと、マリー様とルイルイたちのこと遠くから見させてもらってたんだー。ストーカーみたいだよねー? キモくてごめんねー?」
万千華はようやく太鼓ゲームのバチを置いて、二人にちゃんと体を向ける。
「それに、今までルイルイたちが戦ってきたオジョーサマとメイドちゃんたちからも、話聞いたりしてさー。だから、マリー様とルイルイが今まで連戦連勝のすっごいペアだってことは知ってるし、ずっとずっと会いたかったんだよねー。とーぜん、ウチのオジョーサマだって会いたがってたよー?」
万千華は周囲を見回し、誰かを探す素振りをする。
「あーしのご主人様は、『お転婆お嬢様』だからさー。落ち着きがなくって一箇所にとどまれないっていうか。今も、人生初ラウワンにテンション爆アゲすぎて、勝手にどっかに行っちゃったみたいなんだけどー……あ、つーか! 噂をすればちょーど、って感じじゃん!」
と、そこで。
遠くから、誰かの叫び声のようなものが聞こえてきた。
「きゃーっ! 止まって止まってーっ!」
「え?」
声のする方に、顔を向ける瑠衣とマリー。
「う、うぇっ⁉」
その直後、瑠衣はおかしな声を上げてしまった。
それは、巨大な透明のボールだ。中に入って転がして遊ぶタイプの、この施設のアトラクションの一つのようだ。
ゲームセンターの狭い通路を今そのボールが、周囲の椅子や人をなぎ倒しながら、瑠衣たちの方へ向かって転がってきていたのだ。
「わー、ご、ごめんなさーいっ! 止め方が分かんないんですーっ!」
ボールの中には小柄で可愛らしい少女が入っていて、そんな叫び声をあげながら、なんとかしてそのボールを止めようとあがいている。ただ、その間も彼女の足は走るように内側からボールを動かしていたので、止まるどころかどんどんスピードが上がっているようだった。
「はあ……」
呆れた様子のマリーが、瑠衣に言う。
「瑠衣。あれ、何とかしなさい」
「え、ええっ⁉ わ、私ですかっ⁉」
「『力』を使えば、どうにでもなるでしょう?」
「え? あ、ああ!」
瑠衣の右腕が、いつの間にか紫のオーラに包まれている。マリーが自分の淑女能力である『
「じゃ、じゃあ! この、右手で……」
そう言って、向かってくる巨大ボールと、その中の少女をしっかりと見つめる瑠衣。それから、彼女はオーラをまとう右手を強く握り、ボールに向かって構える。
だが。
「う、うう……」
向かってくるボールはすでにかなりのスピードになっている。
それに怖気づいてしまったのか、瑠衣はなかなかその手を動かす事ができない。
「ちょ、ちょっと……瑠衣⁉」
流石に少し焦ったマリーが声をかけるが、それでも瑠衣はまだ動けない。
そして、結局。
ドォーンッ!
「うぎゅぅっ!」
「くっ……」
そのボールは瑠衣とマリーに激突して、うめき声をあげた彼女たちを吹き飛ばしてから……やっと止まったのだった。
「く……」
「いたたた……」
「あわわわーっ! ご、ごめんなさぁーい!」
ようやく止まった巨大ボールの中から出てきた少女が、激突した瑠衣とマリーのもとに駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫だった⁉ わ、私、ボールで遊んでたつもりだったのに、いつの間にか止まらなくなっちゃってー……」
彼女の格好は、一見するとブルーのチャイナドレスだ。ただ、その
目に涙を浮かべ、体を震わせている少女。
その様子が、あまりにも悲しそうだったせいで、見ている瑠衣たちのほうが罪悪感を感じてしまう。実際、いくらボールのスピードが上がっていたとはいえ、空気が入った柔らかいボールに衝突したくらいでは、瑠衣もマリーも怪我をしたりはしない。
「……」
「……」
顔を合わせた二人は、お互いの表情から「まあ、仕方ないか」という合図を感じ取り、彼女を許すことにした。
「別に、いいわよ。この私が、こんなことくらいで腹をたてるはずがないでしょう?」
「そ、そうだよっ! むしろあなたのほうこそ、怪我はなかった⁉」
「ええぇ⁉」
ぱあっと目を見開く少女。さっきまでの悲しそうな態度は一変し、まるで桜が舞い散る春のような表情になる。
「そ、そんな……! こんな失敗をした私を許してくれて、しかも心配までしてくれるなんて! すごい! こんなに優しい人たちに出会えるなんて、今日はなんていい日なんだろーっ⁉ ぶっちゃけ信じられなーい! ステキが過ぎるーっ! アルティメットハッピーっ! あははは! あははははーっ!」
「え……?」
それからその少女は大きな声で笑いながら、両手を広げて周囲を飛び跳ねはじめた。例えるなら、アマチュア演劇役者のやりすぎなくらいにオーバーな「喜び」の演技、という感じだ。
「しあわせ、キャッチだよーっ! あははははーっ! あっはははーっ!」
「は、はは……」
「何なのよ……」
瑠衣もマリーも、しばらくの間、彼女のその様子にあっけにとられてしまっていた。
「あはははーっ! あはは……あ⁉」
やがて、二人のその視線に気づいた少女は、周囲を飛び回るのをやめる。そして、今度は両手を左右に伸ばした飛行機のようなポーズで、全速力で二人の前に走ってきた。
「きぃぃーーーん…………ききぃーっ!」
まるでアニメのキャラクターのように、体を傾かせたオーバーな姿勢の急ブレーキで、瑠衣たちの前に止まる少女。
「そういえば、二人にはまだ私の自己紹介してなかったよね⁉」
それから、やはりわざとらしいくらいにオーバーに表情と体を動かしながら、その少女は自己紹介
「私、
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