第四戦 二人のエスキャラ⁉ MaxHard! vs お転婆お嬢様
01
あるの日の休日。
瑠衣とマリーは、街の中心部から少し離れた郊外にある、複合アミューズメント施設にやってきていた。
そこは日本全国に展開するチェーン店で、全五階建ての大きな館内にはボウリングやダーツ、ビリヤード、卓球台やフットサル場やバスケットコートなどのスポーツ施設の他、ゲームセンターにトランポリンやゴーカート、カラオケなども併設されている。
「う、うっわー、すっごーい!」
入り口で施設の案内板を見ながら歓喜の声を上げる瑠衣。
「あ、遊べるものが、こんなにたくさんありますよ? ど、どれから行きますっ⁉」
しかし、彼女のそんな声は上ずっていて、どこかわざとらしい。
彼女のそんな気持ち見通しているかのように、主のマリーはつまらなそうな表情で、瑠衣を見下している。
「……ふん」
彼女たちは今日、前回の戦いの前にかわした「約束」――友人として親交を深めるためのデート――を果たすために、この場にやってきていたのだった。
「……で?」
未だ入り口付近から先に進まない瑠衣に、マリーが言う。
「たくさんあるのは分かったけど、そのうちのどれから行くの? 今日は、貴女に全部任せる、と言ったはずよね?」
「え……あ、はい」
まるで、自分がマリーに試されているような緊張感に包まれる瑠衣。絶対に失敗してはいけない試験が始まったような感覚だ。
(せっかくマリー様が私と一緒に遊びにでかけてくれたんだから……。今日は、絶対にマリー様を楽しませなくっちゃ! マリー様に楽しんでもらって、自分がマリー様のメイドとしてふさわしいことを、ちゃんと証明するんだ!)
心の中でそう決意する。
「じゃ、じゃあ……ま、まずは、ボウリング行きましょうっ!」
そして、慣れない様子でボウリングフロアの三階へマリーをエスコートした。
それから……。
――ボウリング――
「ふーん。初めてやってみたけど、それほど難しいものでもないわね」
「へー……って、え⁉ は、初めて⁉ 初めてで、いきなり二百超えですか⁉ よくみたら、後半なんかほとんど全部ストライクじゃないっすか!」
「コツは掴んだから、次のゲームは全部ストライクにだって出来るわよ? 誰かに邪魔されるわけでもないし、不確定要素が入りようがないのだから、それが当たり前じゃない? むしろ、どうやったら瑠衣みたいにガターばっかり出せるのか教えてほしいくらいだわ」
「は、はは……」
「じゃあ、もう飽きたから次に行きましょうか」
「え? で、でも、まだあとワンゲーム残ってて……あ、ちょ、ちょっと待って下さーい⁉」
――ビリヤード――
「白い玉を使って、あの九番を穴に入れればいいの?」
「えと、そうみたいです。で、でも、いきなり九番を狙うのはダメみたいで……。白い手玉が最初に触っていいのはテーブルの上に残っている一番小さい番号の玉で、それ以外を狙うとファウルになっちゃうみたいですね……。なので、最初のブレイクショットも、一番を狙わなければいけないらしいです。あと、それから……」
「それだけ分かれば、あとは大丈夫。私、多分こういうのやったことあるから」
「え? あ、それって、ビリヤードはマリー様の時代から有ったっていうことですか?」
「そうね。どうやらそういう『設定』らしい……わ!」
「うっわー、きれいなブレイクショット…………って⁉ え? え? えーっ! 九番入っちゃった⁉ こ、これ、もう決まりってことですかっ⁉」
「……久しぶりにやった割には、うまく出来たわね。全盛期だったら、もっと派手に出来た気もするけど。じゃあ、次ね」
「あ、またっ⁉ まだ始めたばっかりなのにぃーっ」
――ダーツ――
「あ、あれ……? ダーツはあんまり、苦手な感じですか? 今までに比べると、得点がそれほど良くない気が……」
「……ふん」
「あ、あれ? あれれ? え? つ、次は私の番で……ちょ、ちょっと、一人で何回投げるんすか⁉ ……って⁉ え、えーっ⁉ も、もしかして、
「もう、これも充分だわ。次」
――ゲームセンター――
「ああ、これがクレーンゲームってやつなのね? 本では読んだことはあるけど、こうやって実物を見てみるまで、イマイチ想像がつかなかったのよね」
「そ、そうですかっ⁉ やってみると、もっと楽しいですよっ!」
「ふうん。でも、別にいいわ。取ろうと思えば簡単に取れそうだけど、特段欲しい物もなさそうだし」
「で、でも、せっかくですし、一回くらいやってみません⁉ お金なら、もちろん私が出しますし!」
「だから、いいって言ってるでしょう? 瑠衣、貴女しつこいわよ? 私がいいと言ったら、一回で理解しなさい」
「う、うう……」
建物内のいくつかの施設に、マリーを連れて行った瑠衣。だがそのどれにも、マリーはあまり満足してくれなかったようだ。
『傲慢お嬢様』としていつも傍若無人に振る舞っている彼女だが、だからといって実力が伴っていないわけではない。むしろ、どんなスポーツにもアミューズメントにも人並み以上の結果を残せるくらいには、優れた運動神経を持っていた。だから、運動音痴で要領の悪い瑠衣なんかではとても相手にならず、そのせいか、ずっと退屈そうな様子だった。
一方の瑠衣のほうは、そんな主の状況に対する申し訳無さや、それでも何とかしようとする焦りのせいか、少しおかしなテンションになっている。結果として、二人の「友人として親交を深めるためのデート」は、とてもその目的を果たせているとはいい難いような状況にあった。
「じゃ、じゃあ……クレーンゲームじゃなくって、他のゲームに……あ、それか、他の施設にも行ってみます⁉ ここって、スポーツ以外にも体を動かせる楽しい施設とかもいっぱいあるみたいで……」
焦る瑠衣が、マリーにそんな提案をするが、彼女はつれない答えを返す。
「もう、いいわ」
「え……?」
「だってこの建物って、どこに行っても人が多くて騒がしくて……あんまり、私の趣味に合わないんだもの。正直なことを言うと、早く帰りたいかもしれないわ」
「そ、そんなあ……」
落ち込む瑠衣。そんな彼女を見ているマリーにも少しは他人を思いやる気持ちはあったらしく、最後に情けをかけるようにこう言った。
「まあ、どうしてもっていうのなら……あと一箇所くらいなら、瑠衣が行きたいところに付き合ってあげてもいいけど? どこかないの? 貴女が、どうしても行きたいところ」
「え、え? わ、私が行きたいところ……ですか?」
急に振られて更に焦る瑠衣。
「う、うーん、と……」
頭をひねったり、周囲を見回したりして一生懸命考えているようだが、なかなかいいアイデアが思いつかないらしく、しばらくの間無言が続く。
「ないならいいわ。もう、帰りましょう」
そんな瑠衣にしびれを切らしたように、マリーは背中を向けて歩きだしてしまった。
「……は、はい」
瑠衣も、トボトボとうなだれてそれについていく。
結局。
二人の「初デート」は、当初の目的を果たす事もできずに、気まずい雰囲気で終わりを迎えることになった……と、思われたのだが。
「えー、もう帰っちゃうのー? もったいなくねー?」
二人がさっきクレーンゲームをしていた場所のすぐ近く。太鼓を叩くリズムゲームを遊んでいた客の一人が、馴れ馴れしく話しかけてきたのだ。
「ルイルイもマリー様も、せっかく来たんだしさー。もっと遊んで行けしっ! ……って、あーしのウチみたいに言っちった!」
「……え?」
立ち止まった瑠衣が、急に話に割り込んできた相手のほうを振り返る。そこにいたのは……シンプルな黒のトップスにデニムのショートパンツをあわせた、金髪ツインテールの少女だ。
瑠衣とは同じ学校、同じ学年の生徒。その、数百メートル先からでもはっきりと認知できそうな圧倒的な「陽」のオーラ。スクールカーストの最上位。高校生活という生態系の頂点に君臨する……いわゆる、ギャルと呼ばれる人種。それが彼女だった。
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