第44話 時坂杏奈と山本星海 その一
【登場人物】
ジン=レイ……二十四歳。
クレイグ=クラウヴェル……三十歳。
ジークフリート=クラウヴェル……二十五歳。聖騎士。
ソフィ=フォン=ユールレイン……十四歳。王女。
ラウル=ノア=ザカリア……三十一歳。盗賊。
ヴァングリード……
「ったく……冗談じゃ……ないわよ!」
杏奈は息を切らせながら、大広間の中を走り回っていた。
杏奈の走り去った後を、爆音が追ってくる。
ちょうど通り過ぎたばかりの床で爆発が起きているのだ。
絶対、わざとだ。
こちらがヘバるのを待って、遊んでいる。
杏奈は走りながら、部屋の中央から魔法を放ってくる星海を
杏奈は広間を綺麗に一周して気が付いた。
杏奈の前方に、いくつも
さっきまでこんなの無かった。
そうか、これ、
黒曜石の床が爆発で
杏奈は一番近い瓦礫の裏に滑り込んだ。
杏奈は
この瓦礫は、杏奈の為の避難スペースだ。
わざと作ったに決まっている。
星海は、杏奈に向かって、いつでも始末できるぞと言いたいのだ。
遊ばれている。
「痛っ!」
今度は瓦礫を避けるように、氷の
だが致命傷となるような深刻な攻撃では無い。
十分手加減されている。
だが杏奈は、礫が自分に当たった瞬間、
これは……。
「どうした、どうした! 早く逃げないと、やられちまうぞ?」
からかうような星海の声が聞こえる。
次の瞬間、杏奈の視界が真っ白に染まった。
杏奈は反射的に隠れていた瓦礫から飛び出した。
その途端、杏奈のいた瓦礫が吹っ飛ぶ。
杏奈は振り返って、何が起きたのかを確認した。
瓦礫のあった場所に煙が立ち
雷だ。瓦礫に星海の放った魔法の雷が落ちたのだ。
瓦礫に追い込んでは、そこから追い立てる。
星海は、無敵防御の無くなった杏奈をターゲットに、フォックスハントをしているつもりなのだ。
バカにして!
杏奈は次の瓦礫に滑り込みながら、星海に向かって、五発ほどスリングショットを放った。
四発、
だが、威力が足りていないのか、当たった一発も星海の防御魔法に弾かれ、ダメージを与えられない。
「やるじゃん」
星海が笑いながら火焔弾を放ってくる。
杏奈は隠れていた瓦礫を飛び出し、次の瓦礫に走る。
杏奈が走り出した途端、先ほどまで杏奈が隠れていた瓦礫が
杏奈は走りながら、右手で
賢者イルマに貰った
杏奈は財布から思いっきり根付を引き
杏奈は、手の中の根付を見た。
千切れたヒモの先に、淡い紫色をした宝石が付いている。
杏奈はその場に急停止した。
だがそこは、星海からは丸見えだ。
杏奈は素早く根付を床に置き、
宝石が一撃で割れる。
同時に、何かの波動が、広間中に広がっていくのを感じた。
視界が再び真っ白になった。
星海が放った雷が、杏奈に直撃した。
だが、杏奈はケホっと一度
星海の顔が、
杏奈はその場に
撃つ!
放った鉄球五発は、五発とも星海のマントを貫いた。
星海の魔法防御をわずかながらも貫いたようで、ダメージも与えられたようだ。
「バカな……。神の奇跡が復活しているだと? そんなはずは無い! 魔神アークザインの力によって、大神ガリヤードの
「形勢逆転ってところかしらね。種明かししてあげよっか」
杏奈はわざとゆっくり、腰に下げた皮の小袋から鉄球を取り出した。
次のショットの為の準備だ。
星海のダンマリを
「冒険を始めた最初の頃、ポンコツ女神がわたしに、おかしな能力を
杏奈の解説に、星海の顔が青ざめる。
「そうか、
「そういうこと。よく出来ました」
杏奈はわざとらしく、拍手をしてみせた。
星海が杏奈を睨みつける。
「だが、それはあくまで確率論だ。多少なりとも攻撃と防御の質が上がったところで、サイコロの目が毎回高い数値を出すわけではないはずだ!」
「わたしね、賢者イルマが作った根付を付けていたのよ。その根付は、冒険の道中、周囲から少しずつ幸運を吸い取り続けてきたの。それを今割ったわ。貯め込んだ
「……ならば、その確率をも超える攻撃を与えれば問題無いわけだろう?
星海の持ったオーブから黒いモヤが
見る見る内にモヤが収束し、魔神の姿が現れる。
さすがに
一瞬で杏奈は悟った。
これは尋常じゃなくヤバい。
魔神と化した星海が杏奈にパンチを繰り出す。
杏奈は慌てて飛び退いた。
杏奈の立っていた床に直径三メートルの大穴が開く。
すかさず魔神の蹴りが飛んでくる。
手をクロスさせて防御した杏奈は、二十メートル吹っ飛んで、背中から壁に叩きつけられられた。
「がはっ!!」
あまりの衝撃に、一瞬息が止まる。
「杏奈に触るな!」
上空で隠れていた小竜ヴァンが魔神に飛び掛かる。
魔神は右手一本振っただけで、ヴァンを吹っ飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「ヴァン!!」
魔神は杏奈に向き直り、その場で火焔弾を放った。
十発か、百発か。
魔神の、開いた手のひらから放たれる火焔弾が止まらない。
火焔弾は次々に、壁際に倒れた杏奈に吸い込まれていき、大爆発を起こした。
煙が晴れる。
魔神は目を見張った。
杏奈の前に何かがある。
杏奈の目の前に展開された六本の聖武器が、扇風機の羽のように高速回転し、ラウンドシールドと化している。
「勇者さま!」
「杏奈さん!」
「姉ちゃん!」
「杏奈さま!」
「トキサカ!」
「杏奈!」
いつの間にか出現した五人と一匹が、大広間の入り口から叫ぶ。
杏奈が召喚したのだ。
「こっち来ちゃダメよ! そこにいなさい!!」
口の端に付いた血を
杏奈が立ち上がる。
「お前らが無事ということは、我が将軍たちは死んだということか。情けない」
「将軍たちは生きているわ! まだ現地で気絶してるでしょうけど」
ソフィが叫ぶ。
魔神の動きが止まる。
「そうか、生きているのか……。あいつらだけでも生きていて良かった」
「あんたも生きて地球に連れ帰るわよ。覚悟なさい!」
ボロボロの杏奈が星海に向かって叫ぶ。
魔神がゆっくりと振り返る。
「ふっ……はっはっはっはっは! あーーっはっはっはっは!」
魔神が爆笑する。
「何が
「……そうか時坂、お前は知らないんだな。ふふっ。いいことを教えてやろう。オレは地球で墜落死する直前、魂だけここヴァンダリーアに運ばれた。だから、地球に帰ったら、即座にオレの魂は墜落中の身体に戻り、そのまま死ぬことになっているんだ。ここでお前に倒されるのも死。地球に帰っても死。オレに未来は無いんだよ。さぁどうする! 真実を知ったお前はどうする? あーーーーはっはっはっは!!」
星海の告白を聞いた杏奈の顔が歪む。
「ユーレリア! ユーレリア!!」
杏奈が空に向かって叫ぶ。
女神ユーレリアが杏奈の隣に出現する。
だが、今回は時が止まっていない。
最終決戦であることだし、聖武器の使い手たちになら、もう姿を見られてもいいと思ったのかもしれない。
ソフィたちも目を丸くして女神と杏奈のやり取りを注視している。
「あいつ、山本星海の言ってることは本当なの?」
杏奈が激しい口調でユーレリアに詰め寄る。
ユーレリアが顔を反らしながら、微かに頷く。
『本当です。あの者の運命は
「そんなことって……」
杏奈が絶句する。
「な、なら、わたしの報酬を使う! 彼の、山本星海の運命を変えて! 時を止められるアンタらなら、時を巻き戻して死なないルートに運命を導くことだってできるはずでしょ!!」
ユーレリアが杏奈の両手を強く握る。
悲しそうな顔で杏奈の顔を真正面から見つめる。
『杏奈さん、時は
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
杏奈はその場で絶叫した。
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