聞いてよ

尾八原ジュージ

なんか早口の電話かかってきた

 夜中の二時すぎに友だちから電話があって『近くで女の悲鳴がずっとしてる』って言うんです。「警察に通報したら」って言ったんですけど、『家の中でしてる。うちひとりしかいないのに』って。でも電話の向こうからは別に全然悲鳴とか聞こえないんで、「こっちは聞こえないよ。どれくらいの大きさなの」って聞いたんです。そしたら『聞こえないなんてうそでしょ、さっきからすごいよ。殺されるんじゃないかっていうくらい騒いでるよ』って言われちゃって。「じゃあちょっと静かにしてみてよ」って頼んだんですね。で、受話器を耳に当ててじーっと黙ってたんです。電話の向こうでも黙って。したらなんかそういう、雑音みたいなのあるじゃないですか。何にもしゃべったりしてなくても、息遣いとか、外を車が通ったとか。そういうのの中になんか、確かに女の声みたいなのが聞こえた気がして。「あー、ちょっとしたかも」って言ったら友だちが『うそうそ、ちょっとなんかじゃないよ。あっ、待って。待って待って待ってちがうかも。これ悲鳴じゃないかも。笑い声かも』って言ったらその途端に、電話の向こうからひゃあーーー!! みたいなすごい声がして、うちの部屋中が声で一杯になったんです。ひゃあーーー!! ひゃあーーー!! って、電話から何かが出てきて、部屋の中にばーっと飛び散ったみたいな感じで、そしたら友だちが『あっ、なんか急に声しなくなった! もう大丈夫ありがと』って言って、電話切っちゃったんですよ。ねっ、それでその今、すごくうるさいんです、うち。聞こえない? うそでしょ、女がすっごい大声でひゃあーーー!! って。言ってません? ねぇ、ちょっと黙るから静かにしてね、ちゃんと聞いてくださいよ。


 すぐそっち行くから。

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