第1話 チュートリアル


「よーし。VWMOやるよー」


『はっや』

『まだ五分すら経ってないぞ』


 配信を再開して。

 ちなみにVRゲームの配信は、配信者がプレイ中のゲームの周辺情報を視聴者が受け取るシステムになっており、視聴者は配信者のことを周囲一定距離の中で任意の視点から見ることが可能となっている。が、VRゲームの中でも対戦系のゲームでは、プレイヤー間の格差をなくすために配信者の視点で固定されてしまうゲームも多い。ただ、VWMOでは、PVP自体はあれどそこまで対戦に重きを置いていないようなので、その例には漏れているが。


「というわけでVWMOだけど……音のバランスとか大丈夫?」


『大丈夫』

『いいよ』


「おっけー。それじゃあぱっぱと始めますかねー」


 などと言いながら即起動。配信の冒頭は挨拶やなんやをするのが礼儀だなんて言われているが、知ったことかというのが私流だ。


「いつも通りネタバレは禁止、指示コメは自由。アドバイスとかはこっちで勝手にかみ砕くからじゃんじゃん書いてねー」


『最初の説明はガチで読んどけ』

『このゲーム自由度高すぎて逆に困るから目標決めといた方がいいよ』

『王国王国王国』


 何か知らんけど王国厨が湧いてるなあ……

 などとコメントを読んでいるうちに、私は起動を終えたVWMOの世界へと誘われたのだった。





「VWMOの世界へようこそー!私はナビゲーターのエルルです!」

「うるさ」


『www』

『たしかにうるさい』

『エル虐すな』


 VWMO開発やスポンサーの紹介を終えて。暗闇から視界が晴れると、目の前では全長十五センチほどの妖精がキラキラと飛び回っており、それ以外には何もない真っ白な空間へとやってきていた。


「あうぅ……ごめんなさい……」

「…………」


 いや、別に気にしてないんだけどね。反射的に声が漏れたって言うか、文句が言いたかったわけじゃないし。


「えと、それで、VWMOの説明というか、チュートリアルの方を始めさせてもらいたいんですけど……」

「…………」


 そういえば、このナビゲーター……エルルだっけか。SIにしては珍しい、感情搭載のAIなんだなあ。SIのAIに感情機能を入れると、情に絆されて特定の個人を優遇しちゃうって話で規制が云々って話があったと思うんだけど……まあ、この子にはあんまり権限が持たされてないのかな。


「あのぉ……チュートリアルの方をですね……」

「…………」


『ガン無視www』

『気持ちはわかる』

『話を聞いてやれ』


 ……ん?ああ、これは失敬。さっきの話のアレだけど、SIのAIって基本こっちの反応を待たずにガンガン話を進めるから、その癖がつい……ね。


「はいはい。チュートリアルがどうしました?」

「はいっ!『VWMOはある程度知識がないと楽しめない』なんて意見をお客様から多数いただきまして……それで、ゲーム開始前にお客様に大事な知識をお教えする役割として私が生まれたのです!」

「ほー」


『もう少し興味持て』

『www』

『めんどくさそうだしやめるか』


 いやいや、興味津々ですよ?今も頭の中エルルのことでいっぱいだし。この子、きっと本体となる『エルル』っていうAIから各プレイヤー一人一人に派遣されるエルルの分体なんだろうけど、こんな自虐ネタみたいなこと言ったのは、そうした方が『ウケがいい』っていう統計からなんだろうなーとかね?…………そういうことじゃないって?そんなことわかってらい。


「それでですね、シュカ様はVWMOをどこまでご存じなのでしょうか?」

「何もー。あー、でも最低限でいいですよ」

「なるほど……視聴者様もいますもんね!」


『既プレイいるの?』

『少しなら』

『全くわからん』


 申し遅れました。私天野朱華と申します。シュカって呼んでね。

 ていうか、リスナーあんまり頼りなさそうだなあ。まあそれでも面倒だからあまり説明聞く気はないけどね。ダレるし。


「それでは軽く説明させていただきますね。VWMOでは最初に、所属する国を決めていただくことになってるんです」

「国?」

「はいっ!詳しくは選択の際に説明が入りますが、その選択でシュカ様のVWMOライフが大きく変わっちゃうんです!」


『へー』

『王国王国王国』


 なるほどね。王国は選ばんとこ。


「VWMOはリアル志向となっているので、転移による移動は実装されていません。それに、土地の所有権が厳密に決まっているので、国をまたぐのも色々と面倒なのですよ。なので、最初に選んだ国から一歩も出たことがないというプレイヤーがほとんどとなっていますね」



 そりゃあ大きく変わっちゃいますねえ。あんま選ばれなさそうな変なとこにしようかと思ったけど、無難なところにしとこうかなあ。


「それに、VWMOでは技術や文化の発展がプレイヤーの手にゆだねられているところが大きいので、人気の国と人気のない国ではもはや違うゲームと言われてしまうほどにサービスに格差が生まれちゃっているんですよ……あ、でも人気のない国は何のメリットもないってことはないですよ!競合するプレイヤーが少ない分領土の獲得なんかは簡単ですし、英傑にも選ばれやすいですから!」

「…………」


『英傑』

『領土とかあるんか』


 やばい、怒涛の専門用語で頭が……


「──────で、───というわけで────」


 うぅ…………頭痛いよぉ…………早く話終わらないかなぁ…………

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