Virtual World Magical Origin

@YA07

プロローグ


『VWMOやって』


 平日の昼下がり。いつものようにダラダラと雑談配信をしていると、ふと一つのコメントが目に止まった。

 VWMOというのは『VirtualWorldMagicalOrigin』というゲームの略称で、絶賛一世を風靡中のVRMMOだ。


「VWMOかー。最近結構改善されてきたんだっけ」


『最近というかだいぶ前からな』

『VWMOはいいぞ』

『あれ配信向きじゃないだろ』

『神ゲーだけど配信でやるなら他のVRMMOでいい』

『別に緩くやる分には配信でも問題ないだろ』


 同接数12。意欲的に活動している訳でもない私の雑談配信なんて見ている酔狂な人はそんなものだが、その分みんなよくコメントをしてくれる人たちだ。まあ、私も彼らも暇なのだろう。


「んー……まあ触ったことすらないしちょっとやってみるのはありかなぁ」


『やったああああああ』

『MMO配信は荒れるぞ』

『VWMOは荒れるようなシステムじゃないから平気』


 いや、そもそも荒れるほど有名じゃないけどね。なんて悲しいツッコミはしないが、実際問題その辺は考えなくても大丈夫だろう。というか、面倒だから考えたくない。


「あれって月額課金だよね?誰か投げてよー」


『おけまる ¥1220』

『ほら、今日のご飯代だよ ¥10000』

『¥5000』


 私の一言で投げられてくるお金の数々。昔は色々厳しい規制があったらしいが、機械化やAI、バーチャル技術の発展で相対的に資本の意味や価値が変動し、今では余程の大金でない限りは『金銭を譲る』という行為に規制はかかっていないのだ。そのおかげでこうしてネット乞食として暮らしている私としては、万々歳である。


「ありがとー。それじゃあ期待にお応えしてすぐ初めよっかなー。あ、MMOとはいえみんなは参加不可でよろしくー」


『もちろん』

『俺らが参加したところでな……』

『画面が汚れる』


 自虐ネタととっていいのやら。

 とはいえ実際それは事実で、私の視聴者のほとんどは冴えない男性だ(と勝手に思っている)。

 インターネット上で架空のアバターを作成し、それを自分として使うこともできなくはない。できなくはないのだが、私はSI(セカンドインターネット)を使って配信活動を行っているため、それは不可能であり、同様に視聴者も不可能となっている。なぜならゲーム業界は完全にSIに移行されてしまっているので、ゲーム配信をするならSIじゃないとお話にならないからだ。


 SIというのは、ネット上の様々な管理をAIが行う『人間の手を離れたインターネット』であり、人間の手によって介入することが不可能なので、セキュリティという面では『確実な安全』を保障することができているというものだ。その反面融通が利かないところも多いが、大抵のことはこちらのSIで行われているのが現状である。

 しかし、人間の手によって制御することができないため、むしろ危険になることが存在するのも事実だ。そしてそのうちの一つが、『誰が何をやったか』というデータが後から確認できないという点となっている。そもそも人間の手による想定されていない操作は不可能なので、データの改ざんなどといった行為はできないのだが、例えば誹謗中傷といった行為なんかは規制することができない。その行為を別の映像データなんかとして保存していれば、『何をやったか』という点についてはわかるが、架空のアカウントを使われていては、『誰が』という点に関して、アクセスの解析ができないため検証が不可能になってしまう。なので、SIでは一人一人が一つしかアカウントを持つことができなく、そのアカウント名は本名でアバターも本人と全く同じ容姿で固定されているのだ。

 まあそれが嫌なら普通のインターネットを使えという話なのだが、インターネットとSIでのサービスに明らかな格差が生まれてしまっている今ではそれもなかなか横暴な話だろう。



 長々と説明をしたが、つまりはこんなただの美少女ニートにお金を貢いでる人たちは大抵おじさんであり、そんな人が配信に参加しても盛り上がらないからやめてねという話だ。それに、私としても対応めんどいし。配信者とリスナーって直接は関わらないくらいがちょうどいい距離感だよね。


「それじゃあ枠切り替えのついでに五分休憩!みんなもトイレ済ませてきてね」


『はーい』

『せめて三十分くらい休め』

『五分じゃ飯も食えねえよ』


 などというコメントが視界を横切ったが、私は見なかったことにして配信を停止したのだった。


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