もう、勇者は職業です

風見☆渚

猫の手を借りてでも魔王を倒したい

魔王を倒す事は、実は語られている物語で言われているほど難しい事ではない。

何故なら、そこら中に魔王を名乗る存在が多発しているからだ。

とは言え、魔王と名乗る程なのだからそれなりの能力を持っているから面倒な存在に間違いはない。

魔王に対抗する存在として現れるようになった勇者。

そんな勇者という存在も、ある一定の称号を持ちそれなりの装備を持っていれば案外誰でもなれる安易な存在である。

そして、国は増殖を続ける魔王と名乗る有象無象の存在に懸賞金をかけはじめた。

そんな結果、勇者になる者も増殖を続け、結局勇者という存在もある種の職業として定着していった。国としても双方に好き勝手されては困ると言うこともあり、魔王討伐の資格として勇者という職業を認め、役所に必要な手続きを一括管理する“魔王討伐課”という部署を設けた。

役所の窓口としては、日々魔王討伐に挑む勇者の手続きに追われている。

ちなみに、1魔王討伐の報酬はピンキリで、今までの最高額は1000万を超える存在もいた。この金額が高いか安いかは個人の見解だろう。

なんせ、魔王討伐の装備は大事なのだから武器屋も勇者の足下見ているのか、想像以上に値が張る。

年々増え続ける○○魔王の討伐に一攫千金を求め、勇者達は魔王に挑む。


そしてこの俺。

俺もそんな有象無象の勇者の一人だ。

だがしかし、金なしの貧乏勇者。

だから日々の日雇いバイトで何とか食いつなぎながら、魔王討伐の一攫千金を夢見てコツコツ働く毎日。

そんなある日、奇妙なチラシを拾った。


なになに?


『魔王討伐を夢見るそこの君!

そんな君にチャンスがやって来た!

魔王討伐に不可欠となる勇者装備を作り続けている名工“エクスカ・リバオ”作の最新武器をその手に!

その名も名剣“C・C”

この名剣を装備すれば魔王討伐もあっという間の億万長者!

ダマされたと思って君も参加しよう!』


見るからに怪しい。

だが、リバオ先生の作る作品はどれも一級品で勇者なら一度は装備したいランキングで殿堂入りするほどの有名ブランド。

でも、こんな怪しいチラシで簡単に手に入るわけがない。


『応募条件』


・・・そらみろ。

どうせイベント参加費用は目が飛び出る程の大金だったり、本物の名剣のレプリカとかミニチュアとかそんな詐欺商法なのだろう。

しかし!俺は黙れない。

でも、一応、気になる・・・


チラッ


『応募条件

誰でも参加可(参加費用なし)』


ほらみろ。どうせ詐欺だこんなもん。


『ただし、この名剣“C・C”を台座から抜き取る事が出来た者1名限定が手に入れる事が出来る。

明日の勇者は君だ!』


ま、まぁ、怪しいイベントだし。

でも、見るだけならタダだし。

俺は絶対にダマされない!

だが、会場へ行って誰も居ないとか、イベントにしては寂しいよな。

折角なら見るだけ見てみようかな。


悶々した日々が過ぎ、イベント当日


俺は大失敗をした。

会場の入口を間違えていたのだ。

俺が立っていた場所は違う入口で、本来の会場入口には続々とイベントの参加者が列に並んでいる。気が付くと入口から長蛇の列が出来ていた。

俺も急いでなんとか本来の列に並ぶ事が出来たが、これは無理だと思っている。

何故なら、最後尾からは先頭が見えなくなる程に長い列になっていたのだ。

がしかし、誰かが手にした名剣がどうせしょぼいガラクタで偽物という可能性もある。だから、それを手にした偽勇者を笑って帰ってやろう。

俺は、そんな甘い考えで並んでみた。


「それでは、名剣獲得チャレンジをスタートします。

ルールは簡単。1名につきチャレンジは1回のみ。

たった一度のチャンスをモノするのはどんな猛者か!」


イベントが始まり、下心丸出しの猛者達が次々に剣を台座から抜き取ろうとチャレンジし続け、異様な盛り上がりを醸し出していた。

次々に参加者が台座に刺さっている名剣引き抜こうとしたが、誰一人抜くことは出来なかった。

順番は巡り、とうとう俺の番が回ってきた。


「では、次の方、お願いします。

それでは、はりきっていきましょう!」

「折角だ。やるしかない!

そ~りゃっ!」


俺は精一杯、台座に刺さったままの剣を全力で引き抜いた。


――スポンッ


剣はプリンに刺さったスプーンのようにするりと台座から外れてしまい、勢い余った俺は後ろに勢いよくスッ転んで、勢いのまま地面に頭を叩きつけた。


――ゴンっ!


「いたっ!!」

『にゃ~~~~』

「あれ?簡単に抜けた。てか、簡単過ぎてなんだコレ。」

「な、なんと!!

とうとう名剣を手に入れる勇者が現れました!

参加された皆さん、本当にお疲れさまでした。

まだ参加されていない方は残念でしたね。

お疲れさまでした。

コレで、名剣争奪戦を終了致します。」


会場にいた全ての人間が舌打ちしながら俺を見た後、何か可笑しい反応をして帰って行く。

ある者は苦笑いし、ある者は俺に指を指して笑って帰って行く。

いったい何が起こっているの・・・か?

俺の手にあるはずの名剣。

それは刃の部分が全て温かそうなふさふさの気で覆われ、輝きながらあるはずの剣先には大きな猫の可愛らしい肉球が付いている。


(こ、これは・・・?)


呆然と剣を見ていると、ニヤけ顔の司会者が俺に近寄ってきた。


「君がこの名剣“C・C”を手に入れた勇者か。

いや~本当におめでとう。」

「あの~・・・」

「いやはや申し遅れたね。私はリバオ。知ってるかい?エクスカ・リバオだよ。

僕の作ったキャッツクローシリーズ。略してC・Cは、見た通り猫の手そのものだ。

この名剣がどんな能力を発揮してくれるのか私は楽しみでね。」

「本当に、あんたがリバオ先生?」

「もちろんだとも。」

「じゃぁじゃぁ、この猫の手には隠された秘密の能力が」

「ないよ。」

「・・・じゃ、じゃぁ、きっとこのふさふさにも深い意味が」

「ないよ。このふさふさとっても気持ち良いんだよ。」

「じゃぁじゃぁ、この剣先になっている猫の手の先にもの凄く切れ味の良い爪が仕込まれているとか」

「そんなわけあるはずないじゃないか。」

「はっ💢

だったら、なんでこんなモン作ったんだよ!!」

「だって・・・」

「だって・・・?」

「可愛かったから。なんとなく、ね。」

「ね。じゃねぇ!」

「まぁ兎に角、このC・Cに隠れた能力があるのは本当だから一度試してみてよ。

じゃぁ、検討を祈る。頑張って魔王達をバシバシ倒してくれたまえ。」


どんな魔王でも、討伐するにはそれなりに強力な装備が必要。

しかし、俺は貧乏勇者。

折角手に入れた名工リバオ先生作のオリジナル装備。

セコいと思いつつも、結局俺は売ったり捨てたりする事が出来なかった。

確かに、猫の手を借りてでも魔王を討伐して一人前の勇者として認められたかった。

だが、本当に猫の手を借りて魔王討伐に行くとは夢にも思わなかった。

半分ヤケクソになった俺は、今買える最高の安物装備と名剣“猫の手”を装備し、魔王討伐に向かうことにした。

役所に言って魔王討伐の手続きをしている途中ずっと受け付けのおっさんが笑いを堪えているが何も言い返せなかった。


今日討伐依頼のあった魔王は、駅前でティッシュ配りを邪魔する魔王。

討伐報酬は3万。

まぁ、俺の装備ならこんな案件くらいしかないのかもしれない。

だが、いつものバイトの日給より良い報酬。

まずはコイツを倒す!


「魔王、覚悟!!」

「勇者・・・か?」

「聞くな!質問するな!

この装備になっている俺が一番聞きたいんだ!」

「お前なんぞの雑魚勇者にこのティッシュもらいまくりのスキルを持つ魔王を倒せるかな?」

「かっこ良く言ってるけど、やってることしょぼいな。」

「お前にだけは言われたくない!

まぁいい。さっさとかかってこい!」

「言われなくてもーーー!

魔王覚悟ーーーー!!」

『にゃ~~~~』

(ん?何か聞こえた?)


――ふっさ~~♪


「う、うわーーー・・・」


俺の剣が魔王のカラダをかすると、魔王を幸せそうなニヤけず面の笑みをながらその場に倒れた。


「え?」

「もっと!もっとそのふさふさを俺にくれ!」

「いや、ちょっとそれは・・・」

「このふさふさなしでは、俺は生きていけないカラダになってしまったかもしれない。」

「いや・・・キモ!」

「もっと、もっと~~~」


あまりの魔王の気持ち悪さに、名剣猫の手で魔王を叩きのめすが、何度攻撃してもダメージを与えている気がしない。

それどころか、魔王は幸せそうな気持ち悪いニヤけ面で俺の攻撃を受け続けている。


「はぁはぁはぁ・・・」

「ん?もう終わりか?」

「もう勘弁してくれ・・・」

「じゃぁじゃぁ代わりに週1で良いから、このふさふさをモフモフさせてくれ。

そうしたら、俺はお前に捕まっても良いぞ。」

「マジ?」

「まじ!」


その後も俺は名剣猫の手通称C・Cで戦いながら腑に落ちない魔王討伐を繰り返した結果、気が付けば“魔王クラッシャー”の二つ名で呼ばれるようになった。


クラッシャーの意味、違くね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もう、勇者は職業です 風見☆渚 @kazami_nagisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ