猫も手を借りたい

第1話

 男は大量のゴミの山の前にいた。


 目の前のゴミの山、それを片付けることが彼の使命であった。


 それは神様から言われたことだった。


「ここにあるものをすべて分別して、そしてしかるべき手段をもって処理を行いなさい」


 なので男は今日もゴミを片付ける。



 幾日、幾年と経ったであろうか。


 ずっとずっと片付けをしても減っている様子がない。


 天を突き抜けるほど高く、地の果てよりも広くゴミはある。


 ある時男は思った。一人では終わらないだろうと。


 ではどうしたらいいのか。片付けをしながらずっと考えていた。


 ある日一匹の犬が近くを通りかかった。


 男は喜んでその猫に近寄る。


「もしもし」


「なんでしょうか」


 犬は答えた。なんて賢い犬なのだろうか。


 男は相談をした。


「このゴミを片付けなければいけないのです。手伝ってもらえませんか」


「いやだよ」


 犬はそう言い放ってどこかに行ってしまった。


 男は困ってしまった。


 その後も様々な動物にあったがどんなに頼んでも話を聞いてくれなかった。


 疲れてしまった男はある日通りかかった猫に、


「猫よ、なぜここにいる」


「わかりません、気が付いたらここにいました」


 男は猫の返答に喜んだ。何も知らなそうな愚かな猫だと思ったからだ。


「猫よ、お前はここのゴミを分別して片付けなければいけないのだ」


「なぜですか?」


 疑問を投げかけてくる猫に男は、


「使命だ」


 そう短く答えた。


 そうして男のそばで猫はよくわからず片付けを始めた。



 また幾日も経っていた。


 相変わらずゴミは一向に減っている様子がない。


 猫は終わりの見えない仕事に苦痛を感じていた。


 ある日、一匹のねずみが通りかかった。


 猫はどうにかしてそのねずみを捕まえ、


「ねずみよ」


「なんでしょうか」


 おびえるねずみに猫は言った。


「ここに見えるゴミを分別して片付けるか今食われるかどっちがいい?」


 その日からねずみが手伝うようになった。



 また幾日も経った。


 男と猫とねずみとありと蚤とが今日も片付けをしていた。


 まだまだゴミは片づかない。


 ある日ありが蚤に言われた。


「なにかご褒美がないと片付けをしません!」


 その日から蚤は片付けをやめた。


 ありは困ってねずみに相談すると、


「自分でどうにかしなさい」


 ありは何日も蚤を説得したが蚤は決して片付けようとしなかった。


 困り果てたありはねずみに、


「蚤を説得してくれるまで片付けをしません」


 そしてありは片付けをやめた。



 また幾日も経った。


 男は猫がいつの間に片付けをしていないことに気づいた。


「猫よ、どうして片づけないんだ?」


「いつになったら片付くのか教えてくれれば片付けましょう」


 猫の返答に男は困ってしまった。


 仕方がないので男は大きな声で神様を呼んだ。


「神様、猫がいつになったら片付くのか教えてほしいそうです。どうか教えていただけないでしょうか」


「自分でどうにかしなさい」


 神様の言葉に男は怒って片付けを止めてしまった。


「男よ、なぜ手を止めるのだ」


「このゴミの山の天辺がどこまであるのか教えてもらうまで片付けをしたくないのです」


 男が言うと神様は困った表情を浮かべ、


「わかった、上の者に聞いてくるから待っていなさい」


 神様はどこかに行ってしまった。


 男は返事を待ち続けていた。


 ゴミの山はもう片付くことはない。

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猫も手を借りたい @jin511

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