第70話、レベルアップ

 ダンジョンに入れるのは、1チーム最大五名まで。

 俺たちは六人なので、必然的に一人は待機だ。今日はたまたまアピアが用事だからいないけど、これから待機メンバーが出てくるのは、正直気が進まない。

 現在、学園ダンジョンの十五階層。ワイルドボアという大きなイノシシが出てくる階層だ。

 前衛はレイとレノ。アキューレが中衛。俺とサリオが後衛だ。

「腕が鈍るから」と、レイが俺と交代で前衛に入ったのである。俺は剣を手に、サリオと並んでいた。


「レイ、やっぱ強いな」

「うんうん。B級冒険者の戦い、参考になるね」


 レイは双剣に雷を乗せ、瞬時にワイルドボアを切り刻んでいる。

 レノは『腕力強化』を使い、ワイルドボアの突進を真正面から受け止めていた。


「だりゃぁぁぁぁぁ!!」

「馬鹿!! あんた、なんでいつも真正面から受け止めんのよ!!」

「男だからなぁぁぁぁらっしゃっぁぁぁぁ!!」


 そして、強化した腕力でワイルドボアを掴み、ぶん投げた。

 転がったワイルドボアに追撃。頭に強烈な拳を叩き込み、脳を破壊。

 拳を突き上げたレノは叫んだ。


「うっしゃぁ!! スキルレベル上がったぜ!!」


 腕力強化がレベル3になったようだ。

 ワイルドボアが全滅し、サリオはレノの怪我を治療する。


「まったく、無茶して」

「へへ、優秀な回復役がいるから無茶できるんだよ」

「はいはい……ふふっ」


 レノの怪我を治すサリオは、微笑んでいた。

 それを見て、俺は何となく……アホみたいな考えが浮かんでしまう。

 まさかレノ、『サリオが怪我を治す』という役目を全うしてもらうために、あえて真正面から戦っているのか? なんて。

 サリオがレベルを上げる方法は、怪我を治す以外にない。今までは死んだ魔獣の怪我を治したりして経験値を積んでいたけど、今はレノの怪我を治している。

 

「…………」

「リュウキ、どうしたの?」

「あ、いや。まさかな……」


 まぁ、レノにそんな気遣いできるわけないか。


「あ、ぼくもレベル上がった。レベル3になったよ」

「お、いいね」

「あたしも『雷魔法』のレベルが上がったわ。やっぱり、実戦に優る修行なし、ね。今日はこの辺にしておきましょうか」


 学園ダンジョン、十五階層。

 今日はここまでにして、俺たちは地上へ戻った。


 ◇◇◇◇◇◇


 アキューレは、強かった。

 弓の腕は正確無比。風魔法のレベルはなんと20だった。中衛、後衛としてこれほど頼りになる子はそういない。それにエルフの王族というだけあり、学園では目立っていた。

 そんな目立つアキューレが、俺たちのチームにいる。

 さらに、『大罪魔獣』の一体を討伐した話も広がり、俺たちのチーム『エンシェント』は、新入生最強のチームとして名が広まっていた。

 そんなある日。俺たちチーム『エンシェント』は、ルイさんの店に来ていた。


「うぉぉぉ!! これが『大罪魔獣』の装備……!!」

 

 レノが興奮している。

 ミドガルズオルムの表皮を使った装備が完成した。

 男子、女子に合わせたデザインで、動きやすく軽い。

 胸当て、レガース、籠手と身体の各部分を守る。しかもわかる……これ、かなり頑丈だ。

 驚いたのは、アキューレの分も用意してあったこと。ルイさん、すごい。

 レイは、ルイさんに言う。


「なんで六人分用意したの?」

「ふ、商人の勘を舐めるなよ?」

「……兄さんの勘、スキルみたいで逆に怖いわ」


 アキューレは、アピアに胸当てを付けてもらい「ちょっときつい」と言ってる……まぁ、アキューレはその……デカいから。

 俺も、装備一式を確認する。


「うん、いいな」

「見ろよリュウキ、ミドガルズオルムのガントレットだぜ!!」

「ああ、かっこいいぞ。お前興奮しすぎだ」

「うっせぇ。これが喜ばずにいられるか。な、サリオ」

「まぁね。こんな装備、普通に冒険者やってたら手に入らないよ」


 レイは全員の装備を確認し、俺たちに言う。


「よし!! じゃあ、今日はこのまま予定通り、ギルドに行くわよ」

「「「「「了解」」」」」


 今日の予定は、ギルドに報告。

 ムーン公爵から受けた依頼。ミドガルズオルムの素材換金や調査なんかでギルドに報告してないんだよな。ミドガルズオルムの素材、一部は公爵家に、一部は俺たちの装備、一部はクロスガルド王国へ渡した。残りはルイさんに買い取ってもらうつもりだったが買い取りできず、オークションに。二割がルイさんで、残りは俺たちの取り分だ。今さらだがかなりすごいな。

 ドラゴンの牙を出したラギョウ商会が、今度は大罪魔獣のミドガルズオルムの素材を出すと、早くも噂になっているようだ。

 さっそく、俺たちはミドガルズオルム装備でギルドへ。

 ギルドに入ると注目された。


「あれがミドガルズオルムを」「へぇ、ガキじゃねぇか」

「あんま強そうに見えないけどねぇ」「お、エルフだ」


 聞こえるように言ってるのかな。悪意も感じられる。


「新人のガキが成り上がるのが悔しいんでしょ。気にすることないわよ」

「おい、聞こえるぞ」

「いいのよ。下手に出るより強気のがいいわ。それに、あたしもムカつくし」


 すると、中年冒険者が数名俺たちの前に出た。


「おい、お前らがミドガルズオルムを倒した冒険者か?」

「そうだけど?」

「へ、ガキの集まりじゃねぇか。な、マジで倒したのか?」

「どうせ死にかけのやつにトドメ刺したとかだろ? ぎゃははは!!」


 馬鹿にしてるな。

 男はレイに手を伸ばしたので、俺が反射的に掴む。


「あ? んだよガキ」

「レイに触るな」

「あ? お前こそ、オレ触んじゃねぇよ!!」


 魔力が集中───身体強化か。

 だが、俺も闘気を集中。男が腕を振り払おうとするが、びくともしない。


「て、てめ」

「リュウキ、やめなさい」

「…………」


 男の手を離すと、尻餅をついた。

 レイは男に何の関心も示さず言う。


「行くわよ」


 俺たちは、レイに付いてギルドのど真ん中を歩いてカウンターへ。

 なかなかいい気分だ。注目されているが、今度はヒソヒソ声が聞こえない。

 受付嬢さんに「ギルドマスターを」と言うと、別室へ案内された。

 応接室には、壮年の男性がいた。


「はっはっは。いやぁ、チーム『エンシェント』の諸君、ありがとうありがとう!」


 いきなりお礼だった。

 ソファに案内され、上物の紅茶を出された。

 ギルドマスターは挨拶する。


「私がクロスガルド冒険者ギルドのマスター、アイゼンだ。いやぁ、キミたちのおかげでギルドはとーっても儲かったよ。はっはっは」

「「「「「「…………」」」」」」

「あ、ああすまん。いやね、大罪魔獣の素材やら公爵家の依頼やら、全部ギルドを介して行われたからね。いろいろとおこぼれ……まぁ、悪いことして入ったお金じゃないんで、ちゃんとギルドの今後に使う金だから安心してくれ」

「いきなり『儲かった!』なんて笑顔で言う奴の話、信じられると思う?」


 辛辣なレイ。悪いけど俺も同意見だ。

 アイゼンは笑う。


「あっはっは。すまんね、私はお金が大好きで大好きで。まぁ本題に入ろう」


 すると、アイゼンの秘書の女性が羊皮紙をアイゼンへ渡す。


「冒険者レイ、本日よりA級冒険者とする。よってトリプルスキルを許可する。冒険者レノ、サリオ。本日よりC級冒険者とする。よってダブルスキルを許可する。冒険者リュウキ、アピア。本日よりD級冒険者とする。以上」


 レノがぶるっと震えた。喜びを堪えたのだろう。

 そして、小さな箱型魔道具をテーブルへ置く。


「公爵家からの依頼達成報酬、ミドガルズオルムの素材代金だ。ふっふっふ、すごいぞ? 貴族街にでっかい庭付き屋敷を二十軒は買える。辺境伯の領地収入の十年分だ。平民なら、小さな村が百年は何もせず暮らしていける。個人で消費するのは無理だな……金がありすぎると使い道に困る」


 妙に例えが多い。計算高いのか、金好きなだけなのか。

 レイは貯金カードを魔道具に当てると、カードが一瞬光った。どうやら入金できたようだ。

 

「な、な、オレに投資する気ないか? ふふふ、オレに投資すれば十倍にして「じゃ、帰るわよ」


 アイゼンの話を無視し、俺たちは応接室を出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺たちは無言でギルドを出て、無言で歩き、無言でアジトへ到着した。

 セバスチャンさん、ルルカさんに出迎えられ、アジトのリビングへ到着し……ようやく、レノが叫んだ。


「ッッッッっしゃァァァァァァ!! C、Cぃぃ!! Cランク!! ダブルスキルぅぅぅぅぅ!! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「うるっさい!! まぁ、スキルが装備できる幅が増えたのは嬉しいわね」

「はぁ……夢じゃないんだ。ぼく、つい先日Dランクになったばかりなのに。えへへ」

「おいレイ!! 報酬、スキル買おうぜ!!」

「そうね。金は腐るほどあるし……せっかくだし、いいスキル買いましょうか。兄さんに相談してみる」

「お、オレ……ぜぜ、『全身強化』買いたい!! 速度強化や腕力強化もいいけど、全身強化で全部フル強化して、もう一個魔法系スキル欲しい!! 腕力強化は惜しいけど……」

「ぼくは『全体支援魔法』かなぁ。回復、支援に特化すればパーティーは安定するし」

「俺とアピアはまだだな。でも、EからDって、一気に二つ上がったぞ」

「ですね。ふふ、もう少し頑張ればC級です」

「いいなー……わたし、なにもない」

「アキューレは入ったばかりだし仕方ないって」


 この日、俺たちはアジトで大宴会をした。

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