第34話、ダンジョンは続く

 格闘技の先生が言ってた。『実戦に優る修行なし』って。

 その意味がわかった。今、俺はすごく感覚が研ぎ澄まされ、闘気の使い方がわかってくる。

 現在、俺たちは十階層にあるトラップ部屋にいる。

 出てきた魔獣は、全長三メートルはあるコボルトの亜種、『オオボルト』だ。

 数は七体。さすがに、やりにくい。


「スキル『腕力強化』!! だらあっしゃい!!」

「馬鹿!! 避けなさい!!」


 レノは、オオボルトの巨大棍棒を受け止めた。レイが叱咤するが無視。

 レノの腕の血管が裂け血が出る。

 その隙に、アピアがスナイパー魔導銃で、オオボルトの頭を撃ち抜いた。


「レノ、キュア!! キュア!! キュア!!」


 サリオが連続で回復スキルを使用する。

 塵も積もれば山となる。擦り傷しか治らない怪我は、徐々に徐々にふさがっていく。サリオの膨大な魔力があってこその回復だ。

 レイは、連結させた槍を投擲。磁力を使い、回転させながらオオボルトの身体を切り刻み、最後に首を吹き飛ばした。


「ったく、あたしも少しはやらないとね!! スキル『雷魔法』、『サンダー』!!」


 レイは、槍に雷を付与させオオボルトを切り刻みながら痺れさせた。

 さらに、アピアが人差し指をオオボルトに向ける。


「スキル『水魔法』……『ウォーター』」


 人差し指に小さな水の塊ができた。

 アピアはポケットから小瓶を取り出し、その水に何かを混ぜる。

 そして、狙いを定め放つ。


『ギュア!? ッガァァァァ!?』


 オオボルトの目に命中した瞬間、オオボルトは暴れ出す。

 

「ふふ。からーい調味料を混ぜました。目、見えますか?」


 そして、腰からオートマチック魔導銃を取り出し、連続で発射。

 オオボルトの頭に無数の穴が空き、そのまま倒れた。

 全員、戦い慣れし始めてる。レイは別格だが。

 俺も負けていられない。


「『闘気解放』───……ぐぐぐ」


 闘気を解放して身体強化、さらに、両腕に闘気を集中。

 振り下ろされるオオボルトの棍棒を、右手を振って弾き飛ばした。


『!?』

「パワーは俺のが上だ!! 喰らえッ!!」


 跳躍し、オオボルトの横っ面を全力でブン殴った。

 オオボルトは水平に二十メートル以上弾き飛ばされ、壁に激突。

 俺は落ちた棍棒を持ち上げ、オオボルトに向かってぶん投げる。棍棒は頭を潰し、オオボルトは消滅した。

 こうして、オオボルトのトラップ部屋を切り抜けた。


 ◇◇◇◇◇◇


 オオボルトのトラップ部屋を抜けると───……不思議な空間に出た。

 半円形の空間に、いくつものドアがある。ドアの前には看板が置かれ、『道具屋』だの『武器屋』だの『素材買取屋』だの書かれていた。

 さらに、人もいる。

 驚く俺は、その人に聞いてみた。


「あの、ここは」

「ここはセーフエリア。ダンジョンの休憩所みたいなもんだ。学園ダンジョンは特殊でな、十階層ずつセーフエリアが設けられている。ここの施設は学園が運営してるから、金払えば利用できるぜ」

「へぇ~」

「あたしも知らなかったわ。セーフエリアが十階層ごとって……普通は、ランダムのはずよ」

「学園ダンジョンの不思議さ。ま、この特異性があるから、学生の訓練場としてピッタリなんだろう」


 ちなみに、この説明してる人は学園が雇ったセーフエリアの管理人。

 レノは大きく伸びをした。


「お、あそこにカフェあるぜ。な、喉乾いたし寄って行こうぜ」

「賛成です。私、甘いお菓子が食べたいです~」

「ぼくも……はぁ、けっこう体力付いたと思ったけど、足がガクガクだよ」

「……ま、いいか。あたしも喉乾いたし」


 四人はカフェのドアを開け、中へ。

 俺も行こうとして、足を止めた。


「ん? なんだ、あれ」


 セーフエリアから先に進む階段が二つあった。

 一つは、鎖で封鎖されている。


「あの、先に進む階段が」

「ああ、二つあるだろ? 一つは学園ダンジョンが指定した低レベル階層。もう一つは危険階層だ」

「危険階層?」

「ああ……ここが発見された時、当然調査が行われた。この階層はルートが二つあるってことで、調査隊を二つに分けて進んだんだが……危険階層に踏み込んだ調査隊は、誰も戻ってこなかった。後日、A級冒険者をリーダーに、C~B級冒険者の混合グループで再度調査したが……戻ってきたのは、両腕を失い片目を抉りだされた死にかけのA級冒険者だけだった。彼は『バケモノがいた』としか言わなかった……それ以来。あの道は封鎖されてるんだ」

「こ、怖いですね」

「ああ。ま、通らなきゃ問題ない」

「おーいリュウキ、何してんだ」


 レノに呼ばれた。

 俺は管理人さんに一礼し、カフェへ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 リュウキを見送った後、管理人は煙草を取り出し火を付けた。

 そして、そっと自分の腕を撫で、片目に手を当てる。


「…………へ」


 管理人の両腕は義手、片目は義眼だった。

 冒険者を引退し、この通路先にある『バケモノ』から冒険者を守るため、このセーフエリアの管理人となった。

 あの先は、危険すぎる。


「……バケモノ、か「いいこと聞いちゃった」


 と───管理人の首に、針が刺さった。

 気配をまるで感じなかった。

 気付いた瞬間、管理人の瞼が重くなる。

 振り返り、見たのは……五人の少年少女グループだった。


「いい情報、ありがとよ。へへ……直接手を出すつもりだったけど、利用させてもらうぜ」

「ふふ、おやすみなさい」


 薄れゆく意識のなか、管理人は───……。


「キルト様、わたし……」

「プリメラ、帰ったらたっぷり───おいお前ら、あの鎖を外して、行先を入れ替えろ」

「はーい」「はい」「わかりました」


 管理人は、そのまま倒れてしまった。

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