第35話、危険階層

 現在、カフェで休憩中。ここの従業員は学園関係者らしい。

 俺は、レイたちに管理人さんから聞いた危険階層のことを話す。


「───……ってことで、危険階層があるらしい」

「へぇ、面白そうね……って、言うと思った? 冗談じゃない、そんな危険な場所には近づかないわよ」

「…………」

「レノ、一瞬だけ『面白そう』って思ったでしょ」

「さ、サリオてめぇ、余計なこと言うんじゃねぇ!!」


 レノはサリオの肩を掴んでガタガタ揺らす。

 俺はアピアに言う。


「調査隊も帰って来なかった危険な場所らしい……」

「まぁ……怖いです」

「ま、行かなきゃ安心だ。な、レイ」

「そうね。あと、今日は二十階層くらいまで進んで終わりにしましょっか。じゃ、そろそろ行くわよ」


 レイが立ち上がり会計を済ませる。

 先輩冒険者としての奢りらしい。感謝感謝。

 カフェから出て気付く。


「あれ、いない」


 管理人さんがいなかった。

 お手洗いでも行ったのだろうか。


「リュウキ、行くわよ!!」

「あ、ああ───……ん?」


 レイたちが階段に足をかけている。

 だが、ちょっと違和感を感じた……あれ? 階段を封鎖していた鎖、こっちの階段だったか?

 首を傾げると、レノが言う。


「おい、何してんだ」

「……まぁ、いいか」


 とりあえず、先に進まないといけない。


 ◇◇◇◇◇◇


 階段を上り、先に続く扉を開けて中へ。

 扉が閉まると、扉は綺麗さっぱり消えてしまった。

 さて、休憩して疲れも取れた。先に進んで……。


「…………」

「レイ、どうしたんですか?」

「……おかしい」


 レイが一筋の汗を流す。

 その理由が、俺にもわかった……背中がピリピリし、妙に寒い。

 おかしい。気温が低いわけじゃないのに、冷える。

 なんだろう……俺の何かが、警戒している。


「……なんか、さみぃ」

「レノ、お前もか」

「リュウキ……なんだ、この階層?」

「……」

「あ、あの、リュウキくん」


 アピアが俺の袖をそっと摘まむ。


「な、なんだが、嫌な予感がします」

「アピア……」

「ぼ、ぼくも、ここはヤバいと思う。レイさん、どうする?」

「……進むしかないわ」

「え……」

「見てわかるでしょ? もうセーフエリアには戻れない。先に進むしか、道はない」

「で、でも」

「……気持ちはわかる。あたしも、嫌な予感しか感じてない。でも……ここで立ち止まっても、どうにかなるわけじゃない。だったら、みんなで力を合わせて進むしかないでしょ」


 レイは、自分に言い聞かせるようにサリオに言う。

 不安なのか、冷や汗を掻いていた。

 この時点で、俺は確信した。


「間違いない……ここは、危険階層だ」


 ◇◇◇◇◇◇


 どうして、危険階層に入ったのか。

 管理者さん? なぜ管理者さんがいない? 鎖の入れ替わり?

 誰が? 俺たちが休んでる間に? どうして、こんなことを?


「…………」


 わからない。

 悩んでいると、レイが言う。


「ここから先は、最大級の警戒をもって進む……いい、空気で察したと思うけど、ここはヤバいわ。それと、あたしが前に出るから、リュウキは殿をお願い」

「わ、わかった」

「……マジでヤバいわ。この先に、何がいるのか」


 レイは緊張したまま、階層の奥へ続くとドアを開けた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ドアを開けると、そこは広い空間だった。

 途端に襲うプレッシャー。ズンと、重しを両肩に載せたような威圧感。

 ドアが閉まると、ドアが消えた。

 レイは槍を抜き、レノは震える手で拳を構える。アピアとサリオは動けなかった。

 現れたのは───……漆黒の狼。


「な、なんだ……こいつ」

「…………うそ」


 驚くレノ、驚愕するレイ。

 漆黒の狼は、真紅の眼をギラギラさせ、遠吠えした。


『ウォォォォォ───……ン!!』


 部屋が震えた。

 みんな、動けなかった。

 レイですら青ざめ、動けなかった。

 動けたのは───……俺だけだった。


「みんな!! しっかりしろ!!」

「「「「!!」」」」

「あのバケモノ、何なんだ? 誰か知らないか!?」


 必死で叫ぶ。

 すると、レイがポツリと呟いた。


「……『大罪魔獣』」

「え?」

「ぶ、文献で、読んだことがある……あ、あれは、この世界に七体存在する最強の魔獣の一体」

「さ、最強の魔獣? 最強って、ドラゴンじゃ」

「ドラゴンを除いた最強よ。そもそも、ドラゴンに喧嘩を売る種族なんていない。だから最強は不動なの。でも、それ以外で最強の名を関した、七体の魔獣がいるの」

「それが、あいつか」

「え、ええ……巨大な漆黒の体躯、真紅の瞳を持つ狼。恐らくあれは、『暴食の影狼』、マルコシアスよ」

「暴食の、影狼」


 マルコシアスは、漆黒の毛を逆立てていた。

 ヨダレをダラダラ流し、大きな口を開ける。

 動けるのは俺だけ。


「やるしか、ない」


 こいつが、管理者さんが言っていた、過去にダンジョンを調査しにきた調査隊を全滅させた魔獣。

 大罪魔獣『暴食の影狼』マルコシアスか。

 俺は闘気を解放し、ミスリルソードを抜いてマルコシアスに突き付けた。

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