第33話、魔獣との戦い

「お願いします」

「……はい、確認しました。一学年チーム『リュウキ』の皆さんですね」

「は?」


 学園ダンジョンの入口に到着。

 サリオが入場許可証を受付に見せると、俺の名前を呼ばれた。

 すると、サリオが言う。


「ごめんごめん。入るのにチーム名が必要だって言われて」

「それで俺の名前かよ。レノでいいじゃん」

「チームレノじゃ言いにくいでしょ?」

「まぁ確かに」

「おいお前ら、勝手に人の名前を馬鹿にすんな」


 受付さんは苦笑し、咳払い。

 俺たちは慌てて受付さんの話を聞く。


「ダンジョン内での出来事は完全な自己責任です。怪我をしても、命を失っても、学園側に一切責任がありません。ですが、ダンジョン内で発見したアイテムは全てあなたたちのものです。では、いってらっしゃい」


 ダンジョンの入口……巨大な石門が、ゴゴゴと音を立てて開いた。

 レイが先頭に立ち、ニヤッと笑う。


「じゃあ、行くわよ」


 初めてのダンジョン……少しだけ、緊張してきた。


 ◇◇◇◇◇◇


 石門を抜けると、広い部屋に出た。

 部屋の先には大きな扉がある。


「じゃ、最終確認ね。絶対に無理はしない、一人で突っ走らない、仲間との連携を崩さない。そして……絶対に、お互いを裏切らないこと」

「「「「了解」」」」


 全員が頷く。

 

「戦闘時は常に『身体強化』を使うこと。魔力切れになりそうだったら、魔力回復薬エーテルを飲むこと。一本で魔力数値を1000くらい回復できるけど、飲みすぎると酔っちゃうから一日一本だけにしておくこと」

「「「「了解」」」」

「じゃあ───行くわよ」


 レイが先に進むドアを開ける……その先に広がっていたのは、横に広い煉瓦造りの通路だった。

 T字路になっているのか、先に進むと分かれ道になっている。


「いよいよだ。おいリュウキ、やられんなよ」

「そっちこそ」


 レノと前に立ち、真ん中にはアピア、後ろにレイとサリオがいる。

 すると、アピアが。


「ふふ、頼もしい背中です」

「そ、そうかな」

「はい。リュウキさんも、レノさんも、かっこいいです」

「「…………」」


 天然、恐ろしいな。

 俺はレノと顔を見合わせる。レノの顔は赤くなっていた。

 そして、T字路へ到着。


「右、左、どっちだ?」

「どっちでもいいわよ」

「どっちもって……」


 レイを見ると、本当にどうでもよさそうだ。


「まだ一階層よ? ここで悩んでも仕方ないし疲れちゃう。いい? ダンジョンの分かれ道は迷わないのがコツ。あからさまな罠だったり、ヒントがあるような場所だったら別だけど。ここは何もない分かれ道だし」

「なるほどな。じゃあ……右でいいか」

「いいぜ。じゃあ右な」


 右の通路を進む……確かに、何もない。

 通路奥にドアがあったので開けると、また広い空間だ。

 中に入り、ドアを閉めた瞬間。


「───……来るわよ」

「え?」


 ドアを閉めた瞬間、ドアが消えた。

 さらに、部屋の中に数体の魔獣が現れた。


「ここは特殊空間。魔獣を全滅させないと出られないトラップ部屋のようね」

「来る……リュウキ、やれるな!!」

「ああ!!」

「援護はお任せを!!」

「か、回復も!!」


 敵はゴブリンが五体。

 俺はミスリルソードを抜く。


「あ? 剣か?」

「武器はいろいろ使えるけど、剣は好きなんだ」


 勘違いさせて悪いが、拳で戦ってたのは武器が耐えきれないからだ。

 ミスリルソード、壊したくなかったしな。

 でも……今は違う。

 四人が『身体強化』を使った。

 そして、俺も。


「『闘気解放エンシェント』」


 リンドブルムとの特訓で、身体強化並みの強化を可能にした。

 それだけじゃない。数日の訓練で、ちょっとはできるようになったんだ。


「へへ、行くぜ!!」


 レノが走り出し、拳を握る。

 ゴブリンの武器は棍棒。レノは振り下ろされる棍棒を紙一重で躱し、ゴブリンのボディに強烈な一撃をおみまいする。


『ギュェッ!?』

「ッしゃぁ!!」

『ブガァッ!?』


 ゴブリンの頭が落ちた瞬間、強烈なアッパーカットで顎を砕いた。

 倒れたゴブリンが消滅する。

 そして、レノの背後に迫っていたゴブリンの頭に、弾丸が叩き込まれた。


「サンキュな!!」

「いえ、お任せを」

「次ぃ!!」


 レノは三体目のゴブリンへ向かう……強い。

 戦い慣れている。荒々しい動きだ。指導を受けていると言っていたが、もともとは喧嘩で慣らした腕なのだろう。だが、レノのスタイルによく合っている。

 アピアの銃の腕前も見事なものだ。

 右にはリボルバータイプという8発装填の銃。左にはオートマチックタイプという倍の16発式の銃が二丁。背中に背負っているのはスナイパータイプという、遠くを狙うための銃らしい。他にも、魔導カバンに予備がいっぱいあるとか。

 おっと、人のこと見てる場合じゃないな。

 俺だって、少しは強くなったんだ。


『ギャァァァァゥ!!』


 振り下ろされる棍棒……よーく見える。

 『闘気解放』と『身体強化』の違いが出た。

 身体強化では、腕力の向上や足腰の強化により、パワーとスピードが上がる。

 でも、闘気解放は全てが向上する。五感全てが向上するのだ。

 闘気解放の状態で塩を舐めたら、あまりのしょっぱさに死にそうになった。砂糖を舐めたら甘すぎて吐いた……肌も敏感になるし、耳もよくなる。

 今の俺の動体視力なら、ゴブリンの棍棒なんて止まって見える。


「剣技、『四閃刀』!!」


 剣技の先生に習った技。縦に二回、横に二回斬る技だ。

 ゴブリンは溶けたバターのように両断され消滅。

 そして、もう一体。

 修行の成果、見せるぞ。


「『闘気精製ドラゴンスフィア』───……っく」


 黄金の闘気が右手に集まる。

 闘気が形となり、小さく不格好、でこぼこだらけの『細く尖った何か』になる。

 ナイフを想像したんだけど……今の俺じゃこれが精いっぱい。

 そのでこぼこの細い何かを掴み、ゴブリンに向けて投擲した。


『ギャッ!?』


 ゴブリンの頭を貫通し、ゴブリンは消滅した。

 レノの方を見ると、ちょうど二体目を倒した瞬間だった。


「へ、楽勝」

「レノ、血が出てる」

「あ? ああ、棍棒、カスっちまったか」

「動かないで。スキル『キュア』」

「お……」


 サリオが杖を向けると、レノの擦り傷が綺麗に消えた。


「おお、すげぇな」

「レベル1だし、小さい擦り傷しか治せないけどね」

「サンキュな。おいリュウキ、お前は?」

「こっちも終わった。楽勝楽勝」


 拳を向けると、レノも拳を向ける。

 アピアに怪我がないか確認する。


「アピア、怪我は?」

「私は大丈夫です。リュウキさん、ありがとうございます」


 にっこり微笑む。

 大丈夫そうでよかった。

 すると、ずっと見守っていたレイが言う。


「……まぁまぁね。でもレノ、ゴブリンの棍棒如き躱しなさいよ」

「む」

「リュウキも……というか、さっきの剣技なに?」

「剣技の先生が教えてくれた技だけど」

「……どこかで見た剣だけど。まぁいいわ。アピア、サリオは特に問題ないわね。ゴブリンなんて序盤も序盤。さ、気合入れて進むわよ」

「「「「了解」」」」


 俺たちは、次の階層に向かって歩き出した。

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