第32話、いざ、ダンジョンへ!
久しぶりに、冒険者用の服に袖を通した。
さらに、レノのアドバイスで皮鎧を買い、武器はミスリルソードを腰に提げる。手には鉄板入りのグローブを装備し、全ての準備は整った。
早朝、学生寮の部屋で準備をしていると、マルセイが言う。
「ダンジョンかぁ」
「ああ。マルセイ、お前はダンジョン入ったのか?」
「うん。部活の先輩に誘われて一回だけね。いや~、ダンジョンはやっぱりすごいよ」
「……部活ってなんだ?」
「そっち!? まぁいいけど……部活ってのは部活動のこと。放課後にやる課外活動のことだよ。ぼくは『野草調査会』っていう、ダンジョンや平原に生える薬草の素材集めをする部活動に参加してるんだ」
「へぇ、そんなのあるんだ」
「……前から思ってたけど、リュウキくんって世間知らずだよね」
「!?」
マルセイに言われ、ショックを受ける俺。
でも、ドラグレード公爵家で座学を教えてくれた先生は言ってた。『必要ない知識は入れなくていい。興味ある知識と一般的な知識だけ頭に入れろ』って……うう、もっと世界に目を向けよう。
立ち直り、首をコキコキ鳴らす。
「とりあえず、今日はダンジョンだから。帰りは遅くなる」
「うん。気を付けて……ああ、暇だったらダンジョンの薬草、なんでもいいからお土産でよろしくね」
「はいよ。じゃ、行ってくる」
マルセイに別れを告げ、俺は部屋を出た。
◇◇◇◇◇◇
集合場所は、学園中央広場。
俺が到着すると、すでに全員揃っていた……え、五分前なのに俺が最後だ。
「遅い」
「わ、悪い……」
「まぁまぁ。五分前だし、リュウキは悪くないよ」
レイが不機嫌になり、謝る俺、そしてサリオが宥めた。
なんとなく、全員を見る。
レイは見慣れた格好だ。背中に二本の槍を背負っている。
アピアは、短いスカートの下にズボンを履き、腰に分厚いガンベルトを巻いて銃を三丁下げ、背中にはライフルタイプの魔導銃を背負っている。
レノは格闘技者のような衣装で、両腕を覆う籠手を装備。
サリオは魔導士のローブに、樫の杖を持っていた。
「……みんな冒険者っぽいな」
「ぽい、じゃなくて冒険者なんだよ。テメェもだろうが」
「あ、そうだった」
レノにツッコまれ、みんな笑った。
すると、冒険者の顔になったレイが言う。
「みんな、忘れ物はないわね? ここからは同級生じゃなくて、先輩冒険者としていくからね。やっとスキルを宿して浮かれちゃう気持ちはあたしもわかる。でも、どんなに弱い魔獣でも戦いになれば命を賭けて戦うことになる……いい? みんな、どんな場合でも油断しないこと」
レイは真剣だった。
俺たちも気を引き締め、全員で頷く。
「特にアピア。あんたはこの中で一番攻撃力が高い装備だけど、冒険者としては素人よ。魔導銃の特性上、前衛じゃなく中~後衛で援護に徹すること。わかった?」
「はい」
「それと……」
レイがチラッと見たのは、何も言わず置物のようになっているセバスチャンさんだ。
この人、完全に気配を殺して立っている。
「セバスチャンさん、ダンジョンは五人までなので、付いて来ちゃダメですよ。アピアはあたしたちが守るから安心してくださいね」
「かしこまりました……」
セバスチャンさんは綺麗に一礼した。
「前衛はレノ、リュウキ。中衛はアピア、後衛はサリオで。あたしは状況に応じていろいろ動くから、まずはこの陣形で行くわよ。それと、絶対に無茶をしないこと」
「わーってるよ。命あっての冒険者だろ?」
「そういうこと。あんた、無鉄砲そうだけど慎重だって聞いてる……まだリュウキは前衛の経験が浅いから、できればフォローしてあげて」
「お、おう……」
「サリオ、あんたは回復スキルだから出番はあまりないと思う。でも、スキルを成長させるために、とにかく回復スキルを使いまくって。あんたの規格外の魔力なら、魔力枯渇で倒れることもないでしょうしね」
「わかった。任せて」
「で、リュウキ……あんたはとにかく、周りに被害を出さないよう、気を付けなさい。あんたの馬鹿力、レノにブチ当てたらレノは死ぬわよ」
「わ、わかってる」
いちおう、毎晩リンドブルムに稽古してもらってる。
リンドブルム、毎晩窓から入って修行と言う名の遊びに来る。マルセイに催眠術みたいなのをかけて、とにかく朝まで起きないようにしてるんだよな。
闘気の固形化。闘気による全身強化のコツは、少しずつ掴めてきた。
「あと……あんた、スキルまだ決めてないの?」
「あ、ああ」
「早く決めなさいよ? まったく」
「わかってる」
そう、俺はスキルを装備していない。
金はあるし、スキル屋のスキルを何でも買えるけど……『闘気』を鍛えたいって理由があるし、今はいいかなと思ってる。でも、スキルはあった方がいい。
俺も回復スキルでも取ろうかなーと思っていると、レイが言う。
「じゃ、ダンジョンに出発!」
レイの号令で、俺たちは学園地下にある『学園ダンジョン』へ向かって歩き出した。
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