第29話、校内散策

 午前の内容が終わり、お昼になった。

 学園案内、簡単な自己紹介で午前中は終わった。俺としては無難な自己紹介ができたと思う。

 サリオもレノ。二人の自己紹介も普通だった。名前、出身地だけ言って終わり。

 レノはくだらなそうに言う。


「自己紹介なんてくだらねぇぜ。ただ同じ教室で授業受けるだけの仲じゃねぇか」

「まぁ、そうだけどね。でも、名前くらい知っててもいいんじゃない?」

「それがなんだ? 別に、一緒にメシ食ったりするわけでもねぇだろが」


 レノはそう言い、サリオの意見を却下した。

 三人で学生食堂へ。

 全校生徒が使うだけあって広い。すると、レイとアピアが来た。


「おーい、リュウキ……って、お友達?」

「んだテメェ……Aクラスか?」

「あ? なにあんた、喧嘩売ってんの? その口の利き方、ムカつくんだけど」


 会うなり、レノとレイが険悪だ。

 というか、今のはレノが悪い。


「おいレノ。誰彼構わず喧嘩するような態度、やめろよ」

「チッ……おいリュウキ、お前Aクラスの女とツルんでんのか?」

「ツルむも何も、友達だ」

「……ケッ」


 レノはいきなり不機嫌になり、離れてしまった。 

 サリオが申し訳なさそうに言う。


「ご、ごめん。レノのやつ、A組が贔屓されてるって思いこんでて」

「贔屓って……」

「昔から言われてるんだ。A~B組は優秀な生徒、C組は一般的、D組は落ちこぼれ。そんなことはないと思うんだけど……やっぱり、そういう捉え方をする生徒はいるみたい」

「……くだらない」

「ぼくもそう思う。ごめん、レノのところに行くよ」


 サリオは行ってしまった。

 残されたのは、俺とレイとアピア。

 アピアは、サリオの後姿を見送り言う。


「とりあえず、ご飯にしましょうか?」


 ◇◇◇◇◇◇


 食事を終え、午後になった。

 レノ、サリオと合流し、学園内にあるスキル屋へ向かう。

 スキル屋、というか学園内の店関係は、全て地下にあるようだ。学生専用のショッピングモールとでもいえばいいのか、大勢の生徒がいた。

 新入生だけじゃない。上級生もいるようだ。


「へぇ、すごいねぇ」

「……だな」


 レノが不機嫌だ。

 さすがに、この態度は俺も少しイライラする。


「おいレノ。あまりイライラするなよ……」

「ふん。Aクラスの連中は贔屓されてるんだよ。頭にきて当然だろうが」

「お前な、入学したてで贔屓とか何言ってんだ? Aクラスの何をお前は見たんだ?」

「うっせぇ」

「……レイとアピアは俺の友人だ。レイは試験勉強も手伝ってくれた、アピアは焼肉をご馳走してくれた。お前がAクラスに偏見を持つのはいい。でも……俺の友人を貶めるなら、もうお前とは一緒に行けない」

「…………チッ」


 レノは一人で行ってしまった。

 サリオはため息を吐く。


「ごめん。レノもわかっているんだよ。でも……現に、レノのお兄さんは、Aクラスの生徒に差別や嫌がらせ行為をされて、学園を退学した。日々憔悴するお兄さんを間近で見てたし、AクラスがDクラスの生徒をいじめ、馬鹿にしていたって聞いてたから……だから、Aクラスに対する想いが強いんだよ」

「……そうなのか」

「でも、実際にAクラスは───」


 と、ここでざわめきが聞こえた。

 サリオと前を見ると……なんと、キルトがレノに絡んでいた。


「おい劣等生、お前みたいな貧乏人がスキル屋で何買うんだ? Dクラスのくせに、才能もないくせに」

「何だと!? この野郎……!!」

「お前みたいなカスがスキル屋に入るんじゃねぇよ。あっちのカフェでお子様ランチでも食ってな」


 キルトが言うと、取り巻きの男女がバカにしたように笑う。

 レノの額に青筋が浮かび、魔力が集まる。

 すると、キルトの取り巻きの一人が一瞬でレノの背後へ回り、レノの身体に絡みつくように拘束した。


「キシシ、キルト様ぁ。こいつ、怪しい動きしてましたぜ」

「おいおい劣等生、知らないのか? ショッピングモールでスキルや魔法、身体強化の類は使用禁止だ。入学早々、ルール破るなんて最低だぜ? まぁ、教師に報告するだけで済ませてやるよ。ははは、運が悪けりゃ退学だろうなぁ?」

「なっ……そんなのあり得ねぇだろうが!!」

「いやいや、劣等生Dクラスと、優等生のAクラス主席のオレ、教師はどっちを信じる?」

「なっ……」

「はははは!! ま、お前みたい「ギャァァァァッ!?」


 俺は、レノに絡みついていた男子の頭を鷲掴みし、ギリギリ締め上げた。

 メキメキと頭蓋骨が軋む音が響く。

 男子が泡を吹いたところで解放してやる。


「な……テメェ」

「キルト、いい加減にしろよ」

「あぁ? ハッ……残念だったな? どんなペテンを使ったのか知らねぇが、お前がこの学園でいくら目立っても、いくら結果を出しても、もう公爵家の後継はオレに決まった。お前に帰る家なんかねぇんだよ」

「…………お前、馬鹿か?」

「……あぁ?」


 キルトの額に青筋が浮かぶ。

 

「俺が公爵家に戻りたいと、本気で思ってるのか? 俺を追い出した家に、イザベラのいる家に。あの家に恨みこそあれ、戻りたいなんて欠片も思っちゃいない」

「はっ、負け惜しみか?」

「そもそも……俺が、お前に負けると思うか?」

「魔力のねぇカスが何言ってやがる?」


 俺はキルトを馬鹿にしたように笑い……近くのカフェのテーブルに置いてあったフォークを一本掴む。


「俺の魔力は全て、お前にやるよ」

「…………」

「今はもう、未練はない。それと、覚悟しておけよ? お前も、イザベラも……俺の『敵』だ」


 フォークを折り曲げ、掌で包み込み……ギュッと握る。

 手を開くと、指先よりも小さく握りつぶされたフォークが、床に転がった。

 キルトはギョッとする。


「ふん。面白れぇ……まぁ、その機会はすぐ来るかもなぁ?」


 そう言って、キルトは取り巻きを連れて去った。

 俺はため息を吐き、レノの肩を叩く。


「レノ、スキル屋行こうぜ」

「…………リュウキ」

「サリオが言ってた。お前、スキルに詳しいんだろ? いろいろ教えてくれよ」

「…………」


 サンキュな。

 レオはポツリと呟き、俺の背中を叩いて歩き出した。

 合流したサリオは、俺に言う。


「まだまだわだかまりはあるけど……リュウキのことは、信用してると思うよ」

「……そうだな」


 さて、遅れたけどスキル屋に行こうか。

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