第27話、入学式

 学園へ通う準備で時間は過ぎ、あっという間に入学式になった。

 俺は新しい制服へ着替え、荷物を全て魔導カバンにしまう。今日でこの宿ともお別れだ。

 

「わー! リュウキ、似合ってるね」

「ありがとう。ってかリンドブルム……朝からここにいていいのか?」

「うん。朝のお祈り、終わったから」


 枢機卿ってもっと忙しいのかと思ったけど、そうでもないのかな。

 ベッドでゴロゴロ転がりながら俺をジッと見るリンドブルム。可愛いな。

 すると、ドアがノックされた。


「リュウキ、支度……って、リンドブルム。あんたいつの間に」

「やっほ、レイ」

「もう。入学式には付いてきちゃダメよ」

「む、子供扱いしないでよ。わたし、数千年は生きてるんだから」

「はいはい。伝説のドラゴンっていっても、なんか可愛い子にしか見えないのよね」


 完全に同意。リンドブルムは欠伸をすると「眠くなってきちゃった」と言って窓から出ていった。

 レイと一緒に宿を出ると、ルイさんがいた。

 馬車に荷物を入れ、出発の準備をしている。


「お、二人とも初登校か。ふふ、送ってあげたいんだが……」

「いいわよ。それより、新しい店舗の準備、手伝えなくてごめん……」

「それこそ気にするな。ぼくは商人、きみたちは学生だ。互いにすべきことをしよう」

「うん。ありがと、兄さん」

「ああ。レイ……」


 ルイさんは、レイをそっと抱きしめ頭を撫でた。


「制服、似合ってるぞ……ロイの分まで、頑張れ」

「……ん」

「リュウキくん。レイを頼む」

「はい、わかりました」

「それと、開店したらぜひ来てくれ。ダンジョンに入る前や、平原で魔獣討伐する際はぜひ、うちで薬を買っておくことを勧めるよ」

「あはは……ぜひ、そうさせていただきます」


 ルイさんがオークションに出した『ドラゴンの牙』が、白金貨九千枚で落札された。その金で新しい土地、店舗を一括で購入し、こうして宿を引き払って新しい店に引っ越しの準備をしている。

 ちなみに、俺とレイは学生寮へ入ることになっている。

 ルイさんと別れ、俺とレイは歩きだす。

 

「入学式かぁ」

「だな。楽しみだな」

「うん。あ、でも……リュウキはDクラスなんだよね」

「ああ。レイとアピアはAクラスなんだよな」

「うん……その、ちょっと噂で聞いちゃったんだ」

「ん?」

「その……A、Bクラスは有望な人材を集め、Cクラスは一般の平民、Dクラスは……その」

「……なんとなくわかった。落ちこぼれとかだろ?」

「う、うん。あ~……ごめん、入学前に不愉快だよね」

「いいよ。まぁ、俺も落ちこぼれみたいなもんだし」

「それは違うでしょ!! あんたが規格外なのは、あたしが知ってるし!!」

「ん……ありがとう、レイ」

「え、あ……うん」


 レイはそっぽ向いた。

 ツインテールが揺れ、なんともいえない雰囲気になる。

 すると、一台の馬車が俺たちの脇に止まり、窓が開いた。


「ごきげんよう、リュウキくん、レイ」

「アピア!! おはよ」

「おはよう、アピア」

「ふふ。乗っていきませんか?」

「「…………」」


 俺とレイは互いに顔を見合わせ、笑って頷いた。


 ◇◇◇◇◇


 アピアの馬車に乗って、あっという間に学園へ。

 正門前には『第99期生入学式』と書かれた看板が立っていた……というか、俺たちは99期生なのか。

 入学式会場は、筆記試験を行った講堂のような場所だ。

 そこに向かうと、総勢160名の新入生が真新しい制服を着て談笑している。

 席は自由のようだ。適当に座り待っていると、始まった。


『これより、第99期生入学式を始めます』


 魔道具だろうか、講堂内に女性教師の声が響く。

 

『学園長挨拶』

『おう!!』


 威勢のいい獅子のが吠えたような声。

 壇上に上がったのは、隻腕の男性だ。見覚えがある……合格発表をした男だ。

 まさか、学園長だったとは。


『がっはっは!! ワシはこの学園最強の学園長、『獅子王』ヴァルカンじゃ!! 挑戦はいつでも受付け……じゃなくて!! 入学おめでとう、ヨチヨチ歩きのひよっこ諸君!! この学園ではいろんなことが学べるぞ!! 戦術!! スキル!! 魔法!! そして学園地下にある『修練ダンジョン』!! 冒険者のガキどもが興奮するようなワクワクダンジョンだ!! くぅぅ~~……もう、血沸き肉躍る最高の学園じゃ!! 勉強はそこそこに、とにかく鍛えまくれぃ!!』


 魔道具が壊れそうなくらいデカい声だった。耳を押さえている生徒も多い。

 

「ダンジョン。ふふ、冒険者としての血が騒ぐわ」

「冒険者……いよいよ、私も冒険者に」


 レイとアピアも嬉しそうだ。

 俺も、勉強に鍛錬を頑張ろう。ダンジョンに挑戦するのもいい。


『若者たちよ、高みに上れ!! 成り上がれぃ!! 以上!!』


 そう言って、ゲラゲラ笑いながらヴァルカン学園長は壇上から降りた。

 その後も、祝辞やらが続く。

 そして最後。


『最後に、真龍聖教の枢機卿、リンドブルム様より祝辞をいただきます』

「え」


 壇上に、正装したリンドブルムが上がる。

 新入生が息を呑むのがわかった。

 綺麗だった。薄化粧をしているのか、透き通るヴェール下の表情は静かで水面のように大人しい。着ているのは司祭のローブだろうか。だが、装飾が凝っており、手には豪華な錫杖を持っている。


『皆さん、ご入学おめでとうございます。あなたがたに、真龍の御加護がありますように』


 シャランと、錫杖が鳴った。

 透き通るような音に、全員がリンドブルムに釘付けだ。

 ヒトではない、ドラゴン。

 すると───リンドブルムが俺を見て、軽くウインクしたのが見えた。


「……サプライズってやつか」

「え?」

「いや、なんでもない」


 リンドブルムめ。驚かせようと黙ってたな?

 何とも可愛い、いたずらなドラゴンだった。

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