第26話、闘気の先生
「でね、パパが言ったの。『兄妹仲良くしなさい』って。それで、お兄ちゃんやお姉ちゃんは仕方なく仲良くしてね……でもでも、他のドラゴンたちは気に食わないって」
「そっか……そりゃ大変だな」
俺は、ベッドに寝転がりながらリンドブルムの頭を撫でていた。
なんというか、すごい甘えてくる。飼い猫のようだ。
俺の胸に頭をすりすりしてくるのは、なんだか可愛い。
「ね、リュウキ。パパの闘気を使って戦うの?」
「ああ。俺は魔力がないからな。エンシェントドラゴンの肉を食って、綺麗な宝石みたいのを飲みこんだら闘気が使えるようになった。少しは使えるようになったけど……まだまだだ」
「そうかー……えい」
「え」
リンドブルムは、人差し指を俺の胸に突き刺した。
「な……が」
「んー……パパの心臓とリュウキの心臓が合わさってるね。でも、まだ完全に混ざり切ってない。これをこうして、こう……」
「う、が……あ、っ!?」
ぐちゅぐちゅと、心臓に指が触れていた。
とんでもない嫌悪感に吐きそうになる。
リンドブルムが指を抜くと、血が出た……が、すぐにふさがった。
「はい。どうかな?」
「ぅ、あ……はぁ、はぁ、な、何を」
「闘気、ちょっとは使いやすくなったかも」
「え……」
「指先に闘気集めてみて。こう」
リンドブルムが人差し指を立てると、黄緑色の炎が噴き出した。
いや、炎じゃない……これは、闘気?
「濃密な闘気は目に見えるようになるの。ね、リュウキは闘気を拳に乗せて殴ったんだよね。身体を強化するのもいいけど、もっと闘気を集中させれば……」
リンドブルムの黄緑色の闘気が丸い形になり、人差し指の上でふわふわ浮かぶ。
その丸い闘気を壁に向けて飛ばすと、まるで弾丸のようにめり込んだ。
「闘気を硬質化させて武器にできる。闘気、人間の魔力と違って使い方いっぱいある。人間の魔力は魔法やスキル、身体強化の燃料にしかならないけど、闘気は燃料としても魔力なんかより効率いいし、使い方はいくらでもある」
「……すげぇ」
いつの間にか、俺は起き上がっていた。
右手に闘気を集めて見ると……不思議だった。体内を流れる激流のようだった闘気の流れが、やや緩やかになっていた。リンドブルムが調整したおかげだろうか。
右手に集まった闘気が、黄金に輝いた。
「金色……」
「パパの闘気の色。闘気は、ドラゴンによって色が違うの……パパの、綺麗」
闘気を集める。さらに集める。
「っぐ……」
きつい。
黄金のモヤが右手に集まるだけで、形にならない。
でも、少しずつ濃厚になるモヤ。
そして、小さな欠片がパラパラとベッドに落ちる。
「っぷはぁ!! だ、駄目だ……」
「大丈夫。続ければ、息をするように固められるよ」
「…………」
俺はリンドブルムを見た。
十四歳くらいの女の子にしか見えないけど、この子はドラゴンなんだ。
俺は決めた。
「リンドブルム。俺に闘気の使い方を教えてくれないか?」
「いいよ。えへへ、リュウキが遊んでくれる」
「あ、でも……仕事、忙しいか? 俺も学園があるし」
「大丈夫。わたしの仕事、みんなの前でお祈りするだけだから。お祈り終わればけっこう暇だし、リュウキのところに遊びに行くよ」
「ああ。でも……リンドブルムが来るとけっこう目立つな。枢機卿なんだろ? みんな顔知ってるだろうし」
「じゃあこうする」
リンドブルムが指をパチッと鳴らすと、髪の色が変わり体格も少し大人っぽくなった。すごい、身長も少し伸びて、顔はリンドブルムなのに別人のようだ。
「これならわたしだってバレない。わたしと遊びたい時はこれに闘気を込めて。リュウキのいるところに目立たないように行くから」
リンドブルムは、黄緑色の闘気の宝石を俺に渡す。
なるほど。リンドブルムに修行をしてもらう時に使ってみるか。
「あと、リュウキの身体は人間とドラゴンのミックス。怪我してもすぐ治るし、鍛えれば鍛えるほど強くなる。闘気を使いこなしたいなら、しっかり鍛えた方がいいよ」
「筋トレは継続だな。よぉし……」
「それと……気を付けて。パパはもういないけど、パパの力はリュウキにある。お兄ちゃんやお姉ちゃんが、その力を狙って来るかも……」
「……え?」
「……お兄ちゃんとお姉ちゃん。パパのこと嫌ってたから」
「…………」
寂しそうに俯くリンドブルムの頭を、優しく撫でた。
そうか。エンシェントドラゴンの子供たち……リンドブルムのように、優しい子ばかりじゃないのか。
もしかしたら、戦うなんてことに……いや、考えたくはない。
リンドブルムは、話題を変えた。
「ね、リュウキは学園に通うんだよね」
「ああ、合格したからな」
部屋の壁には制服がかかっている。
鍛錬、そして勉強をする機会がやってきたのだ。
「あのね、あの学園の地下にはダンジョンがあるの。それに、大図書館もあるから、勉強も鍛錬もすっごく捗ると思うよ」
「おお、そりゃいいな。なぁなぁ、もっと学園のこと教えてくれ」
「いいよー」
再びベッドに寝転がり、俺はリンドブルムから話を聞くのだった。
妹がいれば、こんな感じなのかな。
異性としてではない、家族としての暖かさを、俺はリンドブルムから感じていた。
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