第25話、八龍リンドブルム

 場所をリュウキとレイの宿屋に変えた。

 アピアとセバスチャンも一緒に付いてきた。俺は、少女をベッドに座らせる。

 アピアは、少女の正体を知っているようだ。


「あの……もしかして、『真龍聖教』の枢機卿、リンドブルム様でいらっしゃいますか?」

「そうだけど」

「まぁまぁ! 初めてお会いしましたわ!」


 アピアが興奮する。

 枢機卿……こんな子供が、枢機卿?

 リンドブルム。それがこの子の名前か。


「あなた、パパの何? なんでパパの匂いするの?」

「「……パパ?」」

「…………」


 リンドブルムはともかく、レイとアピアには話していいのかな。

 すると、リンドブルムは言う。


「この子たち邪魔なら記憶消して放り出そっか?」

「ま、待て待て。あー……レイ、アピア。その、誰にも言わないって約束してほしい。守れるか?」

「……よくわかんないけど、人の秘密を喋るような趣味はないわ」

「わ、私も、誰にも言いません」

「……ありがとう」


 俺は、これまでのことを話した。

 魔力を奪われたこと、冒険者になったこと、騙され死にかけたこと、そして龍の森で死にかけのドラゴン……エンシェントドラゴンに出会ったこと。エンシェントドラゴンが死の間際に、自身の肉と力を俺に譲ってくれたこと。

 それを聞いて、リンドブルムは俯いた。


「パパ……死んじゃったんだ」

「ああ。俺の眼の前で死んだ……これを」

「……」


 俺は、ドラゴンの牙の一つをリンドブルムへ。

 リンドブルムは、大事そうに胸に抱いた。

 しばしの沈黙。そして、リンドブルムは牙を大事そうにポケットへ。

 俺は、聞いてみた。


「あのさ、お前はエンシェントドラゴンの子供……なんだよな?」

「うん。八人いるドラゴンの末っ子。リンドブルムだよ」


 エメラルドグリーンの瞳がキラキラしている。

 今度はレイが聞いた。


「真龍聖教、だっけ? あんた、枢機卿なの?」

「よくわかんない。千年くらいパパの自慢話してたら、いつの間にかいろんな人が集まってた」

「そ、そうなんだ……」

「わたし、パパのことずっと探してた。いつの間にかいなくなって……お兄ちゃんやお姉ちゃんは喜んでたけど、わたしはパパに会いたいって思ってた」

「兄弟がいるのか?」

「うん。わたし以外のみんなは、パパがいなくなってからどこかに行っちゃった。パパのこと嫌いなお兄ちゃん、お姉ちゃんもいる」

「そ、そうなのか」

「うん。あの……あなた、名前は?」

「俺はリュウキ。こっちはレイ、こっちはアピアだ。あ、あそこにいるのはセバスチャンさん」

「……リュウキ」


 リンドブルムは俺をジーっと見て立ち上がる。


「ね、また遊びに来ていい?」

「もちろん。あ、さっきみたいに暴れるのなしな」

「うん」


 リンドブルムは、俺に抱きついて胸に顔を埋める。

 猫のように甘えてくる姿は、とてもドラゴンには見えない。

 どうしていいかわからず、されるがままでいると、リンドブルムは静かに離れた。


「リュウキ、パパの力を使うのはいいけど……あんまり大きな力を使うと、リュウキの身体じゃもたないよ。リュウキが死ぬとパパも死んじゃう……気を付けてね」

「あ、ああ……ありがとう」

「また来るね。困ったことがあったら力になるから!」


 リンドブルムは部屋を出て行った。

 なんというか……不思議な子だった。

 枢機卿という立場で、本来は敬語を使わなくちゃいけない。でも……なぜか俺は、あの子に対し敬語を使う気にはなれなかった。

 アピアは言う。


「真龍聖教の枢機卿……初めて見ましたけど、可愛らしい方でしたねぇ」

「そう? なんか生意気そうに見えたけどねー」

「まぁいいや。とりあえず、合格祝いにメシでも食いに行こうぜ」


 エンシェントドラゴンが生み出した八体のドラゴン、その末っ子リンドブルム……不思議な子だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 三人で食事をすると、アピアは自分の屋敷に帰った。

 俺とレイで宿に戻ると、ホクホク顔のルイさんがいた。


「やぁ!! はっはっは、いい天気だねぇ。合格おめでとう!!」

「もう夜よ。兄さん、テンション高いわよ」

「まぁね。フフフ……いやぁ、いい店舗を見つけて仮契約してきた。場所は町の中央一等地だ!! くぅぅ、嬉しくて吐きそうだ!!」

「吐いたらブチ殺すからね。で、オークションは?」

「オークションは明日だ。ああ、護衛としてレイには付いて来て欲しいんだけど」

「もちろん、任せて。依頼料はちゃんともらうけどね」

「はいはい。シビアな妹だ」


 相変わらず、仲のいい兄妹だ。

 ルイさんが祝杯を挙げるというので少し付き合い、俺は部屋に戻った。


「やっほー、リュウキ」

「…………」


 なぜか、ベッドにリンドブルムがいた。


「リンドブルム、お前帰ったんじゃ」

「そういえば今日の予定何もなかったの。ね、お話したい!」

「まぁ、いいけど……」


 とりあえず、今夜はこの子に付き合うかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る