第4話、あてもなく

 僕は、あてもなく城下町を彷徨っていた。

 頼れる人はいない。金貨は全てプリメラに奪われ、荷物も馬車に入れっぱなしだった。豹変したプリメラなら……いや、あれが本性だったのかな……僕の荷物、捨てそうだ。

 

「……どうしよう」


 僕に、何ができる?

 算術はできる。字も書ける。剣術、武術も鍛錬を欠かしたことがない……魔力が無くなってからは、指導員は「指導のしようがない、魔力による身体強化あってこその武術」って言って匙を投げたけど。

 魔力。


「……『強化』」


 魔力を体内に巡らせ身体強化をする。

 老若男女問わず、誰でも使える。

 だが……今の僕には、全く使えない。

 たまたま通りかかった道具屋をチラリと見ると、『強化』で全身強化した老婦人が、自分の身の丈もありそうな木箱を軽々運んでいるのが見えた。

 今の僕には、あんなこともできない。


「……あははっ」


 僕、どうすればいいんだろう。

 家を追い出され、魔力を奪われ、婚約者だった女の子からお金も取られた。

 当てもなく歩いていると、同世代の少年少女とすれ違った。


「けっこうヤバかったよな、ゴブリン」

「だよね。でも、あたしの拳がゴブリンヘッドの武器を叩き折ってさ」

「いや、あたしの魔法で焼いたのよ」

「どっちでもいいじゃねぇか。つーか、『強化』したゴブリンってけっこう強いのな。魔獣も『強化』使えるなんてマジ焦ったわ」

「ってか、魔力持つなら誰でも使えるでしょ? それこそ動物や昆虫だって」

「いやー、冒険者って楽しいぜ!!」


 冒険者。

 この世界に無数に存在するダンジョンや、危険な魔獣をハントしてその素材を売ったりする人たち、だっけ? 

 本来なら僕は、十六歳に貴族の通う学園に入り、魔力の使い方を学ぶ予定だった。卒業後は世界を回って見聞を広め、ドラグレード公爵家の後継者として戻って来るつもりだった。

 でも……もう、それは不可能だ。


「…………冒険者、か」


 冒険者の資格は十五歳から取れる。

 どのみち、お金もないし働かないといけない。


「よし、冒険者ギルドに行ってみよう!」


 僕はこの城下町にある冒険者ギルドへ向かって歩きだした。

 思えば───……僕は本当に、世間知らずだったと、後で思った。

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