第2話、リュウキ

 僕の名前はリュウキ。

 ハイゼン王国、ドラグレード公爵家の長男で次期当主だ。

 ハイゼン王国は東方の小さな国。僕の家は王都の貴族街にある大きな屋敷だ。

 でも……もう、僕の家じゃない。

 僕は、自分の部屋で荷造りをしていた。


「……くそ、くそ、くそ」


 カバンに着替えを詰める。

 私物は殆どない。ほとんど、義弟のキルトに取られてしまった。

 羽ペン、ボードゲーム、貴重なコインなどを集めていたのだが……キルトが欲しがり、イザベラがよこせと言い、駄目だと言うと父上が「渡せ」と言う。なぜ、僕のモノを渡さなくちゃいけないのか?

 簡単だ。「お兄ちゃん」だから……ふざけるな。

 

「どうして、信じてくれないんだ……」


 僕は、誰もいない部屋で呟いた。

 僕が魔力を失った理由……それは、イザベラだ。

 世界最高の魔法使いの称号である『大賢者』……大賢者は、魔法使い千人分の魔力を持っているらしい。

 僕は、生まれながらに大賢者並みの魔力を持っていたそうだ。

 将来を期待され、僕自身、魔法の勉強を頑張った。

 だが───……母上が病死し、継母としてやってきたイザベラが現れてから、全てがおかしくなった。


 ちょうど、一年前。

 十四歳の誕生日を迎えた僕は、初めてワインを飲んだ。

 貴重なワインだと、イザベラが持ってきたのだ。

 それを飲んだ瞬間、身体が凍り付くように冷え、倒れてしまった。

 酔ったのだろうとイザベラが笑っていた。

 ベッドに運ばれ、僕は薄ぼんやりと聞いた。


「あなたの魔力、全ていただくわ……ふふ、キルトが欲しいっていうからねぇ? お兄ちゃん」

「…………ぇ」

「いい夢を……ふふふ」


 そして、目が覚めると僕は魔力を失っていた。

 代わりに───義弟のキルトが、大賢者に匹敵する魔力を得ていた。

 僕は悟った……『移された』のだと。


「父上!! イザベラが、イザベラがやったに違いありません!!」

「何を言っているんだ……医者を呼ぶから、休んでいなさい」


 僕は、ワインのことや、イザベラが言った話をした。

 だが、父上は信じなかった。

 僕が魔力を失ったということだけが事実だった。

 一年間、僕の魔力を回復させようと手を尽くしてくれた。だが……無駄だった。

 そして───キルトを次期当主とし、僕を追放することを決めた。


「…………」

「よぉ、兄貴」

「……キルト」


 ぼんやりカバンを見つめていると、義弟のキルトが部屋に入ってきた。

 ニヤニヤしながら僕を見ている。


「出ていくんだって? ははは、あばよ負け犬。あぁ~……この魔力、ありがたく使わせてもらうぜ」

「お前……ッ」

「あっはっは。兄貴の贈り物だろ? い~い魔力だぜ」


 キルトは、右手に魔力を集める。視認できるほど濃厚な魔力が渦を巻いていた。

 僕はキルトを睨む……するとキルトは。


「何? やんのか、兄貴?」

「……っ」

「あっはっは。あばよ、兄貴」


 キルトは部屋を出ていった。

 荷物を持って屋敷の玄関へ出ると、イザベラがいた。


「さっさと出ていきなさい。ここはもう、あなたの家じゃないのだから」

「……お前が盗んだんだ」

「はぁ?」

「お前が僕の魔力を盗んだんだ!!」

「何を言ってるのか……ああ、それは返してもらいますよ」

「あっ」


 イザベラの魔法が発動し、僕のカバンに付いていたブローチが飛んだ。

 ブローチは、イザベラの手に収まる。


「返せ!! それは母上の形見だ!!」

「これは妹の私が持つべきもの。もう貴族でないあなたには不釣り合い……さっさと出てきなさい」

「返せ!! イザベラ、返さないと───」

「何事だ!!」


 父上が階段を下りてきた。

 僕は叫ぶ。


「父上、母上の形見をイザベラが」

「私を父と呼ぶことは許さん……形見だと? そのブローチは、妹であるイザベラが持つのにふさわしい。お前はもう貴族ではない……出ていけ!!」

「っ……う、くそ」


 僕は涙を堪え、屋敷を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る