猫の手を借りただけなのに
常盤木雀
猫の手を借りた結果
「こんなに大ごとになるとは思わなかった、というのが正直な気持ちです」
「分かりました。では、ただいまより、第一回イラスト部著作権討論会を始めます。司会は私です。まずは、開催の経緯の確認をします。副部長、お願いします」
「はーい。ええと、被告人A、で良いんだったよね? Aがイラスト部批評会用に提出したイラストについて、問題提起されています。Aの提出したイラストは、Aの手のみで描かれてはいませんでした。そのために、Aの自作発言が著作権侵害じゃないかと言われています」
「ありがとうございます。こちらが問題のイラストです」
「かわいいー」
「かわいい!」
「ほしい!」
「触りたい」
「かわいい」
「静粛にー」
「ありがとう。今日の討論会では、追及側と弁護側のそれぞれの意見を出し合い、結論を出す予定です。それでは、追及側の代表から、意見をお願いします」
「はい! 追及側代表です! まず、一人で描いていないものを自作発言するのは良くないと思います。せめてそのことを言わなきゃいけないと思います」
「共作であることを明記すべき、ということですね」
「そうです! それから、この作品について、被告人の描いた部分の魅力は少ないと思います。だから被告人の作品と言って良いのか? と思います」
「作品の魅力の大部分が被告人以外の手によるものだから、被告人の作品といえるか疑問だということですね」
「はい!」
「ありがとうございました。次に弁護側の代表、お願いします」
「弁護側です。第一に、これはスタンプのようなものだと思いますので、著作権には当たらないと考えます」
「えー、でもスタンプだって使ったら書かなきゃいけなくない?」
「この場合著作物であるスタンプではないから当てはまらないのでは?」
「うーん」
「質問は後にしてください。弁護側、続けてください」
「はい。第二として、著作権や人権の範囲外であるとため、問題にはならないと考えます」
「なるほど。次は、質疑に移ります。意見のある人はどうぞ。……ありませんか?」
「考えてたらよく分からなくなっちゃった」
「どっちもどっち、というか」
「両方分かるよね」
「では、立場ごとに意見をまとめてください」
「そろそろ次に進みますね。発表前に、被告人から詳細の説明を再度確認のためお願いします」
「はい。このたびはお騒がせしてすみません。僕の軽はずみな行動のせいで……」
「みんなこれ楽しんでるから気にしなくて良いよ」
「僕がこのイラストを制作しているとき、なかなか良い案が思いつきませんでした。そんなときに、うちで飼ってる猫が膝に乗って、甘えてきたんです。それで、顔に肉球を押し付けられたときに、この手にインクをつけて描いてもらったらかわいいだろうなと思ったんです。著作権とかそういうのは全く考えていませんでした。すみません」
「被告人、ありがとうございました。それでは代表者、順番に最終意見をお願いします」
「はい! 私たちは、被告人が自分の作品として提出したことは、良くないと思います。きちんと協力者の名前を書くべきだと思います。著作権の適用外? とかはよく分からないけど、猫だから関係ないとしてしまうのは違うと思います」
「弁護側としては、著作権の侵害には当たらないという結論です。もちろん、明記しておいた方が良かったとは思います。ですが、だからといってAの作品ではないとまでは言えないと考えています。魅力な点を言い出したら、素敵な紙や装丁を使用した場合に自作ではないという話になってしまいますし、紙や素材はそれを選んだセンスなどが評価されるので、それと同じかなと」
「それでは、部長、判決をお願いします」
「えっ、私?」
「部長しかいないでしょ」
「あー、じゃあ、そうだなぁ。判決を言い渡します! 今回、被告人Aは、著作権の侵害ではないかもしれないけど、協力者の明記を怠りました。そういうのは、やっぱりクリエイターの信頼とかに関わると思うので、以後みんなも気を付けましょう」
「はーい」
「気をつけます」
「すごい、ちゃんとまとまった」
「被告人Aは、イラストを修正して再提出してください。それから、罰? として、協力者の猫ちゃんの写真をみんなに見せてください! 以上!」
「写真!」
「見たい!」
「被告人、異議はありますか?」
「ありません。本当にすみませんでした。写真は次回の部活のときに持ってきます」
「異議なしとのことで、判決も出たので、これで第一回イラスト部著作権討論会を終わります」
「おつかれさまでした!」
「ところで討論会ってこんな感じなの?」
「何か裁判って感じじゃなかった?」
「だって討論会の正しいやり方なんて知らないから」
「まあ教科書に出てきそうな討論会をやっても、途中で飽きそうだしね」
「写真楽しみだなー」
終
猫の手を借りただけなのに 常盤木雀 @aa4f37
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