第7話 キッチンカー
「僕は篠延(シノノベ)一也といいます」
「田辺暁人です。すみません、突然…
なんだか…突然、すみません」
「ジンジャーエールどうでした?」
「え?アッ、美味しかったです」
「良かった。もうお店閉めるんで、よかったらご飯食べに行きませんか?」
篠延一也と名乗る彼は、いつも笑顔だ。
それも優しく見守るような、包み込む笑顔。
「もう少し待ってて下さいね」
と車に戻っていった。
「お待たせしました。一旦車を停めに行って
鍋を置きに行ってもいいですか?」
そう言いながら助手席のドアを開け
『どうぞ』と言う。
初めて乗ったフードトラック。
助手席は至って普通の車だ。
「キッチンカーの中って気になりせん?」
キッチンカー…
フードトラックより、オシャレな響きだ。
「はい、気になります。助手席は普通なんですね」
「そうですね。改装してるの後ろだけなんで。後ろ、あとで入ってみて下さい」
「いいんですか?」
「はい」
また笑顔が返ってきた。
いつの間にか、怒りや嫉妬。
悲しみや投げやりな感情が薄れている。
車は、いつも行くバー近くの月極駐車場の
一画に停まった。
車を降り、キッチンカーの内部に足を踏み入れる。
意外と広く、そしてちゃんとしたキッチンスペースが広がっている。
『住めそうでしょ』と笑いながら
「意外と中はちゃんとしたキッチンなんです。
僕も始める前、キッチンカーの中を見せてもらったら時、少しびっくりしました」
ふたつの大きめシンクに広い作業台。
作業台の下にはサイズの違う引き出しが5つ
スプーンや箸、おしぼりなどの細かいもの、お弁当容器やビニール袋のストックが入ってる引き出しがあり
上部にも大きめの収納棚が並び、弁当の容器や袋。スプーンや箸のストックが取り出しやすく整理され置かれてる。
色々と開いて覗き込む僕を横目に、冷蔵庫からタグが貼られた容器を取り出し保冷バックに入れ、冷蔵庫の電源を切り小さな箱を取り出す。
「冷蔵庫もあるんだ」
こちらを振り返りながら『これ』とさっき取り出しだ箱を指さす。
「ポータブル充電で冷蔵庫や音楽を流してるんだ」
そう言いながら保冷バックとポータブル充電器を持ち外に出る。
「ちょっと待っててもらっていい⁈
直ぐ戻ってくるんで」
とドアを閉めて歩き出す。
僕はぼんやり彼の後ろ姿を見ていた。
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