第6話 水曜日の彼


 水曜日の彼が泣いている…

 

「大丈夫ですか」

 

 どうしよう…何と声をかけたらいい。

 

「車の後ろにちょっとしたスペースがあるんで

良かったらそこで休んでいかれませんか?」

 

 正解か?

 これは今、この状況で正解の声掛けか?

 

「はい…」

 

 あぁ…全くの不正解では無かったようだ。

 

「これ、まだ飲んでないんで良かったら、どうぞ」

 

 仕事終わりに必ず飲んでる

手作りジンジャーエール。

 

「辛口なんですが嫌じゃなければ…」

 

 彼は頷き瓶を受け取る。

 顔を上げることなく、小さな声で

『ありがとう』と言いながら車の後ろに回る。

 

 車の後ろには小さな椅子が置いてある。

 後ろのドア(横開きが出来るように改造してある)を開けると道路から見えなくなる。

 

 


 仕込みで店に寄った日、いちごと話をしてる水曜日の彼を見た。

 自然と口角が上がる。

『良かった』と思った。頑張ろうと。

 

「おはよう。あのさぁ、昨日話してた

アフリカンファブリックの巾着バック持ってた人ってよく来るの?」


 オープン準備をする、いちごに話しかけた。

 

「エ〜…アフリカンファブリック⁈」

 

 テーブルを拭く手を止め、考えてるポーズをとる。

いつも思うが、このポーズは必要なのだろうか?

 

「あぁ!眼鏡かけた!」

 

「かけてない」

 

「エ〜ダレ〜?アフリカンファブリックって

なぁにぃ?」

 

 僕は携帯で検索し、いちごに見せる。

 

「あぁ!わかった!暁人ね‼︎

あの派手なバッグ!あれ、そんな名前なんだぁ」

 

 アキト。アキトって言うのか…

 

「暁人がどうかしたの?アララララ⁈

一也もしかして一目惚れした?」

 

「いや、いつも買いに来てくれるお客さんなんだ」

 

「ふ〜ん、そう。つまんないの。

でもあの子、よく分からない男と、よく分からない付き合いしてるのよねぇ。

彼氏のような、不倫のような?

いや、結婚してないから不倫じゃないか!」

 

 ひとり納得したように頷いてる。

 付き合ってる人がいるって事なのだろうか。

 

「ありがとう。

いちご、ビーフシチュー試食するか?」

 

「やったー‼︎一也愛してる」

 

「いらない」

 

 文句を言ういちごを残して厨房に行く。


 よく分からない付き合いの彼氏がいる。

名前はアキト…

どんな人と付き合ってるんだろう…


 

 

 いま、彼はその彼氏のために泣いているのだろうか。

 

 僕は彼に何をしてあげられるのだろう。

 

 抱きしめたいと思う気持ちに、後ろめたさはないだろうか。

 

 僕は彼を笑顔にできるのだろうか。

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