第4話 金曜日


 毎週金曜日。18時半。

二子玉川駅で待ち合わせて、その日の夜と次の日の昼に食べる物を購入し、電車で二駅先の僕の家に行く。


 たまに映画を観たり、散歩をしたり。

 しかし会うのは、金曜日の18時半から土曜日の夜まで。それが変わることはない。


 そして僕は彼のことを何も知らない。

知っているのは“ナオト”という名前だけ。

それすら本名か分からない。


 友達は利用されてると言う。

しかし、僕は24時間一緒にいたいわけでもないし、ひとりで好きなことをする時間も欲しい。だからこの関係は、ある意味フェアだと思う。


 ただ、たまに“もう一泊しないか”と言いたくなる。意味も無く寂しくなる夜。


 隣に眠る人が欲しい。

後ろから抱きしめてくれる腕が欲しい日がある。



 まだこの関係が始まって間もない頃、一度だけ言ったことがある。


 “明日のランチも一緒に食べようよ”


 何も読み取れない深い眼差しで“ごめんな”と一言だけ言われた。


 アッ、終わった。と思った。


 次の週の金曜日。

二子玉川の改札口手前で彼を見つけた瞬間、ホッとした。

あの安堵感で、僕は抜け出せなくなった現実を悟った。


「暁人、今日焼肉食べに行かないか。

会社の人に美味しいお店教えてもらってさ。

少し歩かなきゃいけないんだけど…」


「いいよ」


会社の人って、なんの仕事してるの?

どこに住んでるの?

僕に似てる人って誰なの?

僕はいったいナオトのなんなの?



 

 

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