第2話 カレ

 叶わない恋をしている。

その相手が誰だかは知らない。


笑った顔が僕に似ているらしい。

だから僕に会ってくれている。


彼にとって僕は代替品。叶わない恋の代替品。

それでも構わない。彼が側に居れば。




 「ねぇ、あんた気付いてる?」


 よく行くゲイバーのカウンターで、店子の

イチゴちゃんが生ビールを入れながら呟く。


 「その顔は気付いてないわね」


 少し呆れた感じでビールを置きながら、なぜか頭を撫でられた。

いつも子供扱いするいちごちゃんは“私は何でもお見通しよ”と云う顔をする。

実際はすぐに男に騙される。


 ダメな男を引き寄せる分泌物を振り撒いているのよ。とママが言っていた。確かに。



「あの入り口近くの1番奥にいるオトコ。 いっつもあんたの事見てるのよ」 


 丁度開いた扉を見るフリをして見た先に、彼がいた。

細く長い指が薄暗いテーブルの上で、グラスの縁を舐めていた。

 


 僕は彼の存在を気にするようになり、ある日の帰り待ち伏せした。


 「なぜ僕を見てるんですか」


 全くアホみたいな質問をした。

あの店に居るのだからほぼゲイだし、やりたいから見てるんだろう。

現に僕もあの指に触られたいと思っている。


 僕の中に入ってくる時、どんな動きをするんだろうと、何度も考えた。



 「似てるんだ。絶対に手に入らない人に」


 目の前に立つ彼は、僕より5センチほど背が高く、きちんと着た黒のスーツが似合っていた。なぜスーツなんだろう。


 「今日、友達の葬儀に出席したんだ」


 僕の心を読んだように彼は言い


「今晩一緒に居てくれないか」と抱き締めてきた。


 一晩だけの関係を数回重ね、いつしか週一になり、気付けばそんな関係が2年続いている。

 

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