矛盾している
蜥舎まさみ
第1話 笑顔のさき
11時55分。
ラジオは音楽から天気予報に変わる。
僕の働く部署には時報さん(山元さん)という御局がいて、必ず11時55分にラジオのチャンネルを天気予報に変え、12時になった瞬間
『さぁ、皆さんランチですよ〜』
という。その声がしないと、ランチの時間をみんな忘れる。
ランチは大体、会社近くに来るフードトラックにする事が多い。いつからか添加物を気にするようになり、あまりコンビニへ行かなくなった。かと言って、お店で毎日食べれる程の余裕はない。
曜日毎に変わるフードトラックは、大体500〜700円のお店が多く、中間地点にあるコーヒースタンドでコーヒーを買っても1,000円以内に収まる。
大好物の唐揚げ弁当の金曜日が1番だか、水曜日の彼が密かなお気に入りだ。
『お疲れ様です。これ次に出す予定なんですが、良かったら試食してみて下さい』
と小さなパックを袋に一緒に入れて渡される。
『ありがとうございます』
と見上げる彼は、いつも笑顔。そして僕は無表情。
今日のランチは、アボカド丼。
白ゴマを混ぜたご飯の上に、細かくカットしたレタスやトマト、ツナと合わせたアボカドが乗り、わさび醤油のソースが掛けてある。
シンプルながら美味しく、しっかり栄養も摂れる。
あんな彼氏が居たら、家に帰るのが楽しみだろうなと、毎回食べながら思う。
入れてくれた試食は、フレンチトーストだった。
なぜ、丼もの屋でフレンチトースト⁈
しかし美味い‼︎メチャクチャ美味い。
こんな美味しいフレンチトーストをあの笑顔で出されたら、そこらの女子は恋に落ちるよな…女子じゃ無くても落ちそうだ。
あの笑顔。好きな人の名前を呼ぶときは、もっと優しい笑顔になるのだろうか。
僕は彼を呼ぶとき、どんな顔をしているんだろう…
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